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オダワラアキ
オダワラアキ
novelistID. 53970
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あなたの優しさに包まれて 前編

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それでも、すずめの作った料理を美味しいと残さず食べてくれるし自分も同じものを食べているが不味くはないので、すずめにしても徐々にだがレベルは上がっているはず、と思っている。

食事の後、夕食まで作ってくれた大輝に先にお風呂に入ってもらい、洗い物はすずめが担当する。
同棲していた頃、やはりいくら恋人として長い付き合いとはいえ、一緒に暮らすとなるとちょっとしたことでのケンカが増えてしまったことがある。
今となっては、自分の思いやりが足りなかったのが原因ではないかと思う。

いつもすずめの幸せを考えてくれる人に、自分も幸せにしてあげたいそう思っていたのに。
何が大輝にとっての幸せか、すずめは分かっていなかった。


片付けを終えたすずめは、シャワーだけで入浴を済ませると、パジャマに着替えてリビングに行く。
ソファに座る大輝に隣の席をポンポンと叩かれて、すずめは寝室から持ってきた基礎体温表を手に大輝の隣に座った。

「これ…何か分かる?」


すずめに渡された表には、グラフのようなものに日付と、日付の下に◯が付いているところもある。
すずめほど鈍くない大輝は、そういえば朝体温計を口に咥えているところを見たなと思いあたり、数字の羅列は体温であることが分かるが、そのグラフが一体何を意味するのかは全く分からなかった。

「なに…体温?と、この◯はなに?」

すずめは、意を決して、基礎体温表を付け始めた経緯を語る。

「私…もしかしたら、妊娠しにくいのかもしれない…」


大輝は話を聞いて、すずめの実家に挨拶に行った時のことを思い出す。
大輝の就職が決まり、その年に結婚を決めまずは双方の実家に挨拶に行った。
式場選びや大輝の仕事の都合で、実際に式を挙げたのはそれから1年経った頃だ。

実家に着いたのが夕方で、夕飯をご馳走になりその席で今年中には入籍と式を挙げることを報告すると、すずめの両親は泣いて喜び、その夜は親族一同の宴会騒ぎになってしまった。

次の日、帰るための荷物をまとめているとすずめの母に呼び止められた。

「2人は…まだ若いから考えられないかもしれないんだけど…」

すずめの母は、すずめを妊娠する前何度も流産や子宮外妊娠を繰り返していて、医師から子どもが出来にくい宣告をされていたこと。
それらは遺伝性ではないものの、体質的に似ていたら、すずめももしかして妊娠しにくいかもしれないと心配していること。
母は流産を繰り返したのち、不妊治療をして、2年ですずめを授かったが、不妊治療はとても辛いものだったという。
すずめにも、早いうちに検査だけでも受けておきなさい、そう言われていたが、大輝もすずめもすっかり忘れていた。

その頃の2人は子どものことなど考えているはずもなく、まずは目の前の入籍や式場選びのことで頭がいっぱいだった。
どこかで、母はそうでも自分は大丈夫だという、根拠のない自信もあったのかもしれない。
今回のことで、母親の話を思い出したに違いないが。

「病院…行ってみた方がいいかな…」





大輝は、決算期の忙しい時期だったこともあり、どうしても休みが取れなかった為に、クリニックへはすずめ1人で行くことになった。
不安気な顔のすずめに、親友のゆゆかに着いてきてもらってはどうかと大輝は提案するが、すずめはそれを頑なに拒否する。
相変わらず仲の良い2人なだけに、どうしてかと大輝が聞くと、子どもがいる人にはいいたくないと言った。
それ以上大輝は何も言えず、仕事に行く時間も迫っていたこともあり、何かあったらすぐに連絡しろよと言い残して、家を出た。

不妊専門のクリニックを探すにあたって、すずめが特に気にしていたのは、知り合いに会う可能性の低い場所を探すことだった。
すずめの住む場所から徒歩圏内にもあったが、そこはすずめの職場からも近いこともあって、少し離れた車で15分ほどの距離にあるクリニックに決めた。
ここは車でないと行きにくいことから、知り合いに会うことは避けられるはずだからだ。

大輝は大学在籍中、すずめは社会人になってから車の運転免許を取り、結婚を機に車を買った。
大輝と休みが合わないことから、買い物などで別々に車を使うことが多く、すずめも運転に慣れていたことが幸いし、実家に帰った時などもよくハンドルを握る。

ホームページで初診の予約を取ると、持っている方は基礎体温表をお持ちくださいとある。
すずめは人に見せるつもりなどなかった為に、行為をした日に◯を付けてしまっているが、それをどう説明しようかと気恥ずかしい思いでノートを鞄にしまう。



クリニックは外見からは不妊専門と分からないような作りになっていて、病院というよりかはホテルのようだった。
看板にも小さな文字で不妊専門クリニックとあるだけで、エントランスを抜けると広いロビーにグランドピアノが置いてある。
ロビーには赤い絨毯が敷いてあり、左右から受付へと上がれる螺旋階段の作りになっていた。

(なんか…無駄に豪華…)

すずめは病院に来たということも忘れ、キョロキョロと辺りを見回す。
ソファや椅子も、病院に置いてあるような無機質な感じのものではなく、ヨーロピアン調デザインの座り心地の良さそうなものだった。
受付へ行くと、初診ですか?そう聞かれ始めて病院であることを思い出す。

2枚の問診票を渡され、色々なことを細かく記入するようになっていた。
質問の中には、身長体重、月経周期、生理痛の症状などの他に、男性経験はあるか、SEXは月に何回ぐらいか、結婚している場合夫は治療に協力的かどうかを書く欄などがあり、すずめはそれを見ただけで来なければよかったと後悔し始めていた。

(他人にそんなの言いたくない)

きっと診察になったら、もっと色々なことを言わなければならないだろう。
すずめには、まだその覚悟がなかった。

問診票の記入を終えると、30分ほど待たされた後に看護師にすずめの名前が呼ばれる。

「馬村さん?どうぞ、お入りください」

診察室もよく行く病院の雰囲気はなく、向かい合った医師も白衣は着ているもののどこかカウンセラーのような感じのする女性だった。
診察する医師が女性であったことにほっとする。
テーブルを挟んで向かいあうと、まずは問診票を見ながらの診察になった。

「馬村さん、今どのぐらいのカップルが不妊に悩んでいるかご存知ですか?」

女性医師は、部屋に入ってから緊張しっぱなしのすずめを安心させる目的かどうかは分からないが、問診票に一通り目を通すと、雑談を始めた。

「いえ…知らない、です」
「妊娠を望んでいるカップルでは、7組に1組と言われています」
「そんなに…ですか…」
「そう。多いですよね?それも、皆さん、まだ若いから大丈夫だろうとか、まだ仕事をしたいからあと何年かしたら子どもを作ろうとか、そういった考えでいらっしゃる方が大変多いんですよ」
「私も、そう思ってました…」
「それが、悪いことだとは言いませんが、一般的には歳を取るほど卵子も精子も老化してくるんですよ。歳を取れば取るほど、妊娠しにくくなるのは当然のことですね」