一番
ぼくは庄左ヱ門のことが好きだ。
その気持ちはきっとぼくだけじゃなく、は組全員がそう思っている。
だけどぼくの場合は同室者として特別な気持ちがある。
教室では見せない、クラスのことで思い悩む姿を見てきて、ぼくが彼を支えないといけないんだって思った。
だからぼくはクラスの誰よりも庄左ヱ門を想っているつもりだ。
だけど、庄左ヱ門はクラスを支える学級委員長だから、同室だからといってぼくを特別扱いしない。
ずっと前、宿題でわからない問題があった時のことだ。
『えっ、その問題がわからない?わかった、じゃあ一緒に解いてみよう。
優秀な庄左ヱ門と同室だから宿題が楽になるって思ってた頃だった。
部屋で二人きりで宿題をやって、解き終わったら急に庄左ヱ門は部屋を出ようとした。
『伊助がわからなかったってことは、他のみんなもわからないかもしれない。ぼく、ほかのみんなの宿題を見てくるよ。
ぼくは学級委員長なんだから、と一言残して行ってしまった。
庄左ヱ門が出て行った後、広げてあった学級日誌が書き途中になっているのに気付いた。
それからそのそばにメモ書きのような紙切れが落ちていて、線で消された文字とそうでない文字が書かれてあった。
紙切れの端には『今日やること』と丁寧な字で書かれていた。
それでぼくは、もう二度と庄左ヱ門に宿題を部屋で教わらないようにしようと決めた。
ぼくが教われば、優しい庄左ヱ門は他のクラスメイト全員に教えに行ってしまう。
自分のやるべきことは後回しにしてでも。
庄左ヱ門にとって、同室だからといってぼくは特別な存在じゃない。
いつもそばにいるのに。
一番近くで、見守っているのに。
好きなのは、ぼくの方だけ。
ぼくは庄左ヱ門の特別な存在になりたかった。
庄左ヱ門がぼくを特別に見てくれるように、ぼくが特別に見えるように。
その時、ぼくは実技の授業を思い出した。
いつも庄左ヱ門の隣にいる団蔵。
そこに立てば、いつもぼくがいれば。
そう思ってぼくは特訓することを決めた。
「どうした伊助?最近少しずつ実技の点数が良くなってきていたが、今日は何週間か前の点数に戻ったぞ。
土井先生の三日間の補習授業が行われた次の日に実技のテストがあった。
そしてテスト後、他のみんながいなくなった後に山田先生に呼び出されて注意される。
実技の成績を上げようとすれば、宿題はやらないし疲れて授業中はぼーっとしちゃうしで教科の成績が下がり、教科の成績を元に戻そうとすると上がっていた実技の成績が元に戻ってしまう。
この悪循環にはまり、ぼくは虚しい努力を繰り返していた。
「この前のテストでも同じようなことがあったな。何かあったのか?
山田先生に尋ねられたけど、ぼくはちょっと調子が悪かっただけですと返す。
先生はそれ以上追究せず、帰してくださった。
だけどぼくは他のみんながいるところへは向かわず、裏山にまた特訓をしに行った。
その後ろ姿を山田先生、それから土井先生が見ていらしたのを知らずに。