ひとりじめ
「適当座ってろよ。飲みもん持ってくるから。」
「わかった。」
そう言ってオレはまた1階に戻った。
リビングで親父がニヤニヤしている。
「なんだよ。」
「いいや?よかったなぁと思って。」
「はぁ?」
親父がオレの女嫌いを心配していたのは知っている。
築地で親父とアイツが話しているのを
偶然聞いてしまった。
親父はその頃から、アイツが
オレの彼女になればいいと言ってたほど
アイツを気に入ってるらしかった。
「そんなの、オレが一番思ってるわ。」
その時のことを
思い出していただけだけど、
つい口にしてしまっていたようだ。
「くれぐれも嫌われるようなことは
するんじゃないよ?」
「わかってるわ!」
マジでうぜえ。
世の父親ってのはこういうもんなのか?
オレはさっさと飲みもんの用意をして
自分の部屋に戻った。
アイツはオレの本棚を眺めていた。
「あ、ごめん。勝手に。」
「いや?見られて困るもん置いてねえし。」
「そこらへんの漫画はほぼ猿丸のだしな。」
「そうなの?」
「あいつ、自分が面白いと思ったら
すぐ読め読めって押し付けてくんだよ。」
「それ、カメちゃんも言ってた。」
前にコイツが家に来た時はリビングで過ごして、
実質オレの部屋に入ったのは初めてなので、
なんでも珍しいらしい。
「馬村、アルバムないの?」
「叔父さんのアルバムはねえよ?」
「むっ///もう!」
オレは笑えてきた。
この間コイツん家に行った時、
なんでか叔父さんのアルバムを見せられたんだ。
自分のは実家にあるらしい。
オレはとりあえず中学の卒業アルバムを
引っ張り出して見せた。
「わぁ!馬村、幼い!」
「猿丸くんと犬飼くんも!」
「あっカメちゃん!」
何が面白いんだか、
コイツは興奮気味にアルバムを見て
喜んでいる。
オレはアルバムより
コイツのそんな顔を見る方が面白い。
「いいなぁ、楽しそう。」
「何が?別にフツーだったし。」
むしろオレは女が苦手だったから、
中学時代は苦痛だった。
「だって馬村やカメちゃんと
同じ中学がよかった。」
それはオレのセリフだ。
高校でコイツに出会えてなかったら、
今もオレはつまんねえ学校生活を
送ってたと思う。
「オマエの中学時代ってどんなの?」
「うーん。あんまり覚えてないんだ。」
「田舎だったから、
小、中、高と、ずっとみんな
同じとこに行く感じで、
気心知れてるはずなんだけど、
なんかこう、心動くこともなくて…」
「友達といて、
失い難い存在だなんて思ったの、
こっち来て初めてだったよ。」
「…失い難いのは友達だけ?」
「えっ!///や、それは…
最初は馬村、友達だったから…
彼氏になってももちろん思ってるよ?」
オレはずるいかもしれない。
わかってて言葉で言わせようとしてしまうから。