春を知らせる風
目をつぶっていた人物が手を握られている感触に気がつき目を開けると、その人物の目の前には今にも泣きそうな顔の銀時が居た。
「銀……時…」
「やっと……やっと捕まえた。高杉…。俺の、春風」
「お前…何言って…。…ッッ!!!離せ!!俺に触れるな!」
「いいや離さない」
「ふざけ…っ!!!」
高杉は銀時から逃れようとするが、銀時の方が体が大きいためかうまく逃れられない。
「そんなに嫌なら俺を斬ればいい」
「っ!?」
その言葉を聞いた途端高杉はピタリと止まった。
「どうした?斬らないのか?」
「何で…そんな顔してんだ…てめぇは…」
「…?」
「何でそんなに苦しそうな…辛そうな面してんだよ!!!何でそんな泣きそうな面してんだよ!!」
高杉らしくない発言…
必死に銀時に問う様子はまるで子供だった。
「やっと、捕まえられたんだ。やっと、敵とかそういう関係じゃない時に会えたんだ」
高時は黙って聞いている。
「お前に殺意がないのは初めから気がついてた。…俺はてっきりすぐ居なくなっちまうもんだと思ってた。でもお前は…どこにも行かず…。それが嬉しかったんだ」
「俺たちが道を違えてから高杉、お前はずっと、俺の前に敵として現れた。だが…」
春の陽気にでもあてられたか…
と言いながら話を続ける。
「春風を感じながら、お前を感じた瞬間嫌になっちまったんだ。もう戦いたくねぇって思っちまったんだ」
次第に高杉を掴んでいた手が緩みだす。
「俺は好きな奴と戦えるほど…強くねぇんだよ」
黙って聞いていた高杉がためらいながら口を開く
「銀時が…俺…を…?」
「俺は餓鬼の頃からずっとお前が好きだった…」
高杉は銀時の気持ちに気がついていなかったのか、露わになっている右目を大きく開けて驚いていた。
「好きなんだよ…もうお前に刀を向けたくねぇんだ…」
高杉がようやく口を開く
「俺…は…」
「?…高杉?」
「お前は…餓鬼の頃から…春になると"春風""春風"って言ってたよな…」
「あぁ。春風が好きだからな…」
「―――ッ!!!…お前は…知らねぇと思うが…」
何かを必死に言おうとしている高杉。
「ん…?何だよ」
「お、俺の名前…晋助ってのは本当の名前…じゃなくて…」
心なしか、高杉は徐々に頬を染めているようだ
「本当の…名…前は…」
その先の言葉を言う勇気がないのか、少しためらっている。
そして意を決した高杉が自分の本当の名を口にしようとしたとき、暖かい春風が吹き、桜の花びらを舞いあげた。
「本当の名前は、は……」
だが高杉の本当の名を口にしたのは高杉自身ではなく……
「"春風"―――だろ」
銀時だった。