我慢のしどころ
次の日から、朝起きてと、
放課後、すずめは走ることにした。
「ごめん、馬村!今日も一緒に帰れない!」
そう言うと、バビュンとすずめはかけていく。
「何してんだ?アイツ。」
「お、なんだぁ?馬村。
また置いてかれたのかよ。
与謝野に浮気でもされてんじゃねえの?」
ケタケタ笑いながら
猿丸が余計なことを言うので、
馬村は猿丸の脚を蹴った。
「てっ!おっ前、サッカー部員の脚を!」
猿丸が脚を抱えているそばで、
馬村はふと考えこんでしまった。
浮気…?
は、できるようなタイプじゃないのはわかってる。
でも毎日走ってどこに行ってるんだ?
馬村は、すずめが自分に告白してきたとき、
いつも走ってくることを思い出していた。
走って会いにいく相手が他にいる…?!
「…まさかな。」
疑問に思いながらも
馬村はまた一人で帰った。
すずめがひとっ走りして家に帰ると、
諭吉がケーキを差し出した。
「すずめ、お帰り。
新作のケーキ作ってみたんだけど
食べてみないかい?」
「ケーキ!」
ジュルっとヨダレが出そう。
いやいやいや…
「あ、う…ごめん、おじさん、
今日は食欲ないからやめとく。」
うわぁぁぁ、食べたい!
でもこの腹肉がとれるまでは
甘いものは我慢するって決めたんだし!
すずめは頭の中で葛藤していた。
「え?大丈夫かい?すずめ。
具合でも悪いの?」
「違うよ!大丈夫!部屋行くね。」
すずめは自分の部屋に戻って、
今度は腹筋をしはじめた。
「58、59、60っ…」
そこにお腹がぎゅるるるるる、と鳴った。
「ケーキ…」
小さな誘惑が頭をよぎった。
「すずめ?いる?」
「は、はいぃぃ!」
「一応ケーキ、冷蔵庫に入れたから。
食べたくなったらお食べ。
俺はカフェに戻るよ。」
「あ、ありがとう。おじさん。
いってらっしゃい。」
「行ってきます。戸締まりしといてね。」
ケーキが冷蔵庫にある…
すずめはダイエットなど
生まれてこのかたしたことがないので、
食べたいのに食べられない、という状況に
すごい苦痛を感じていた。
今までは、好きなものを好きなだけ食べ、
動きたいだけ動いてればよかったのだ。
が、馬村と付き合いだしてから、
もっとキレイと思われたいとか、
ずっと好きでいてもらいたいとか、
そういう欲張りな気持ちが
ムクムクと沸き起こるようになった。
「こんなお腹、絶対見せられない…」
とは言っても、沖縄旅行以来、
お腹を見せることなどないのだが…
いつか、ということもあるし…
と思ったらしかった。