こらぼでほすと プラント13
プラントでは、民間の小型艇をレンタルしてレイとリジェネが出発するところだった。一応、連絡だけは、と、レイが議長様に通信を繋ぐ。レイは、一度、プラントに戻ることになっているから、その時の辻褄あわせも依頼するためだ。
「私の予定はデータで送っておこう。受信したら、そこに顔を出してくれればいい。レイ、気をつけて。レイのママさんに、何か用意しておくから、それも貰ってくれるかい? 」
「ええ、有り難く頂戴いたします。・・・・ギル、俺のママは、ニールという名前があるんですが? 」
こちらに出向く前から、議長様は、ニールのことを「レイのママさん」としか呼ばなかった。それが、ちょっとひっかかった。
「私にとって、あの人は、レイのママさんだ。それ以上でもそれ以下でもない。だから、最上級の呼称で、お呼びしているだけだ。レイ、ママさんは、どんなものがお好みだろうか? 」
議長様の言葉に、そういえば、こういう人だったな、と、レイも納得した。議長様の考えでは、名前よりもレイの関係者としての呼称のほうが正しいという認識なのだろう。
「そうですね。コーヒーに合うお菓子がいいと思います。」
「わかった。では探しておくよ。気をつけて。」
二言三言の会話で通信は切れた。それから、準備をしているリジェネに声をかける。そのまま、この小型艇でヴェーダまで直通ではない。どこかで、この小型艇は置いておく。そこまでヴェーダから小型艇を自動操縦で近寄らせて、そちらでヴェーダに入ることになっている。リジェネは、その座標を入力していた。
「終わった? レイ。」
「ああ、終わった。リジェネは、帰りは、どうするんだ? 」
「僕は、これで軌道エレベーターに降りて、そこから帰るよ。多少、誤差はあるだろうけど、きみよりは早く帰れるはずだ。・・・素体は完成している。出かけていい? 」
これで失敗したら、そこで終わる。でも、成功すれば、しばらくはママと、なんの心配もなく暮らせる。そう思えば、拒否する気持ちはない。では、行こう、と、レイが操縦席に座った。
これが噂の出し巻き卵か、と、メイリンは、パクッと口に入れた。ふわふわとろとろの出し巻き卵は、とてもおいしい。ほのかに甘いので、パンとセットでも食べられる。
「・・・おいしー。おねーちゃんが言ってたけど、ほんとだ。」
「当たり前だ。出来立てで熱々だからな。」
「口に合ったか? メイリン。どんどん食べていいからな。」
そして、ニールは坊主が無言で睨むので、そちらに手を差し出した。坊主が味噌汁椀をニールの手に載せると、お湯が増される。少ししょっぱいらしい。
「味噌汁、ちょっと濃いみたいだから、お湯で増してくれ。」
「そうかなあ。俺は、ちょうどいいぜ、ママ。」
疲れていると味が濃くなるので、たまに、こういうことがある。歌姫様も、それほど濃いとは思わないが、これは疲れている信号なので、シンと悟空に目配せはした。
「おまえの予定は? ラクス。」
「食事を終えたら、本宅へ帰ります。午後から仕事なんです。お昼はデリバリーさせるつもりですが? 」
「うーん、そうしてもらおうかな。買出ししないと材料がないからなあ。悪いけど、頼む。」
「承知しました。・・・ママ? 」
「ああ? 」
「まさか、味噌汁かけごはんだけで済ますおつもりじゃないでしょうね? 」
ニールの前には、ごはんに味噌汁をぶっかけたものが置いてある。それしかないので、ラクスが軽く睨む。
「食欲が、あんまなくてさ。」
「たんぱく質は召し上がらないといけません。・・・ハムかベーコンを。」
「はいはい。・・・・メイリン、カップスープもお代わりできるから。」
「いえ、お味噌汁をいただきます。」
「ごはんも食べるか? 」
「そうですね。」
「メイリン、自分でよそってこい。うちはオールセルフサービスだ。茶碗とかは・・・まあ、いいか。場所だけ教える。」
シンが、立ち上がって台所へ案内する。悟空は、かあーやっぱ、これだよなあーーーと納豆と玉子焼きミックスのごはんをドンブリ鉢で堪能しているのでスルーだ。メイリンには、白メシよりパンだろうと用意したが、どちらもいけるらしい。で、坊主が空になった茶碗を差し出したので、はいはい、と、白メシをよそい、マヨネーズも卓袱台に載せる。
「食うか? 」
「ねこまんまにマヨは勘弁。」
「うまいんだが。」
「いや、あんただけですよ。シン、悪いんだけどクルマ出してもらえるかな? スーパーまで買出しに行きたいんだ。」
「え? 午後からにしようぜ? ねーさん。ちっと横になれ。」
「でも、おやつもラーメンもないぞ? 」
「それなら、俺と悟空で買ってくるさ。どうせ、食うのは俺たちなんだから。」
「いや、ビールが、もうないんだ。みんな、顔を出すだろ? 用意しとかないとさ。ジュースとかアイスとか果物とか。」
帰って来たのは知れているのだから、キラやらハイネが現れる。そうなると飲み物もおやつも必要だから、午前中に買出ししておこうとニールは考えたのだ。
「それには及びませんわ、ママ。連絡すればアスランが必要なものは運んできますよ。メールしておいてください。」
「ダメッッ、どうせ晩飯の材料も必要だ。・・・・今日はカレーか麻婆豆腐のどっちがいいですか? 」
「麻婆豆腐。辛口で。」
「ということは中華風だな。酢豚とか八宝菜とか・・・」
「春雨サラダがいいっっ。あっさり酢の物とマヨ和えと両方でっっ。あと、唐揚げっっ。」
悟空は食べられなかったメニューを叫んでいる。まあ、そうだわな、と、ニールもメニューを組む。
「ねーさん、マヨ和えは明太子ミックスでっっ。」
「そうだな。暑いから、そういうもののほうがいいか。ラクスは、戻って来るのか? 」
「遅くなっても残しておいてくれますか? 」
「もちろんだ。でも、泊らずに本宅へ帰れ。」
「えーーー不公平です。」
「だって、うちだと十分なスキンケアができないだろ? おまえの顔は、うちの看板なんだから、磨いておかなきゃ。」
「それは承知しておりますけど・・・でも、抱き枕は? 」
「亭主がいる。ダメなら亭主に頼むさ。」
誰もいなければ、亭主と客間で布団を並べるという方法もあることはあるのだ。これについては坊主にも拒否権はない。
「あの、あたしでは? 」
「メイリン、こういうのに慣れるのはいけないことだと思うぞ。寝難いだろ? 」
「いえ、あたしも元軍人ですから、寝床は、どこでもオッケーです。昨日も、ぐっすりでした。」
「それなら、ママが本宅へ来てくださいな。また、ふたりでハーレムですわ。」
「おまえさん、今、それほどストレスフルじゃないだろ? 却下。」
「でも、寂しいですわ。・・・私だけ除け者ではありませんか。」
「じゃあさ、これから、ねーさんが昼寝しろよ。オーナーと一緒に。」
「え? でも、シン、洗濯が・・・」
「そっちは、俺と悟空で干す。帰宅初日から動き回るな。」
「そうだな。それがいい。メモを書いてくれたら、俺らで買出しもしておくからさ。」
作品名:こらぼでほすと プラント13 作家名:篠義