3度目の正直 前編 (アオハライド)
母に浴衣を着付けてもらった。
「受験生なのに余裕ねぇ。」
と嫌味を言われながらも、
「息抜き息抜き。」
と素知らぬ顔をした。
てるてる坊主のおかげか晴れ、
ちょっと蒸し暑いくらいだ。
18:45
「早すぎたかな。」
三角公園の時計の下で
待ち合わせしているのは
自分たちしかいないみたいだ。
もう、もう何も起こらないはず。
でも洸の姿を見るまでは
それはただの願望でしかない。
「わ、早いな。」
その声に振り返ると、洸がいた。
付き合ってすぐの頃、
夏祭り以外で、ここで待ち合わせをした。
これもまたダメになってる。
もう一度したときはちゃんと会えたけど、
夏祭りで、は、3度目の正直だ。
「来た…」
そう思わず口にして、
涙がポロポロと溢れでた。
「えっ、何で?!」
洸はびっくりして慌てていた。
ちゃんと夏祭りで会えた。
ただそれだけのことなのに
すごくすごく嬉しくて、特別なことだった。
「ん、ごめん…洸…」
洸は自分のシャツで双葉の涙を拭った。
「いや、俺もわかるから。」
やっぱり洸にとっても特別だった。
それが双葉には嬉しかった。
「洸…汗くさい。これ、シャツ?」
「うるせーな。ハンカチなんて持ってないし。」
ふ、ふふふ。
双葉は今度は笑えてきた。
「なんだよ、今度は。
泣いたり笑ったり、忙しいな。」
ボクッ
双葉は持ってた巾着で
洸の背中を殴った。
「暴力はんたーい。」
「うるさいっ」
「行くか?」
洸が右手を差し出した。
「うん。」
2人は手をつないで歩き出した。
作品名:3度目の正直 前編 (アオハライド) 作家名:りんりん