3度目の正直 前編 (アオハライド)
いろんなものを食べたり歩いたり、
何気ないことが一つ一つジンとくる。
夏祭りで手をつなぐ、ということも。
嬉しくて、嬉しくて、また泣きそうになる。
「お前、今日、涙腺ゆるいのな?」
「しょうがないじゃん。」
「夏祭り終わったら、
もう満足、もう別れてもいい
とか言うんじゃねーよな?」
「そんなこと言うわけないじゃん!」
「ま、別れたいって言っても
別れてやんねーけどな。」
「だから言わないって!」
みんなで一緒に、なら来たけど、
2人では初めてだ。
何をしても満たされる。
双葉はそんな気持ちになっていた。
一通り回って、帰り道。
「食べたねー!」
「お前、買いすぎだろ。」
「だって見たら欲しくなるじゃん?」
2人の笑い声と、
カランコロンと下駄の優しい音が
一本入った静かな通りにこだまする。
「洸…」
「うん?」
「2人で夏祭り、行けたね。」
「行けたな。」
「長かったね。5年かかった。」
「うん。もう大丈夫だな、俺達。」
双葉は返事の代わりに
きゅ、と洸のシャツの裾を掴んだ。
そこへカンカンカン、と
踏切の音がする。
作品名:3度目の正直 前編 (アオハライド) 作家名:りんりん