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Metronom

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(――仕方がない、後で宮を訪ねよう)

 今回の意見の相違についてシャカに誤解を与えてしまっているかもしれないという不安がムウの中で大きく渦巻いていた。できるだけ早く、言葉足らずだった部分を補足して誤解を解いておかなければ、あとあと話が拗れそうな気がした。それだけは避けたいことである。

「今の十二宮だって充分、鉄壁の布陣じゃねえのか?今更、その布陣を変えるったって……なぁ?」

 背を向けて宮へ戻ろうとしているサガをわざわざ引き止めたデスマスクにサガはやむを得ず立ち止まり、苦笑を浮かべていた。

「……デスマスク、会議は終わったのだぞ?わざわざ蒸し返してどうする。後は各自で考えを整理しろとの言葉であっただろうが」
「だからぁ!その整理のために俺はおまえたちの意見を参考にだなぁ……そうだサガ。こういうのはどうだ?今からあんたの所で飯食いながら、ここにいるメンバーで意見交換ってのは?」
「私に集る気か?おまえは。まぁいいが……ロクなものはないぞ。ムウ、おまえも来るか?私はおまえの意見も聞きたいと思うが」

 シャカへの弁明を必死で考えていたために一瞬返事が遅れたムウはサガ、デスマスク、アルデバラン、そしていつの間にかその輪に加わっていたカミュの視線に否とはいえず、曖昧かつ諦めたように頷くしかなかった。
 結局、そのためにシャカへの弁明の機を失してしまった。サガの宮で食事も交えた討論会というよりは日頃の鬱憤吐き出し大会ともいうべきものに参加した結果、不平不満を肴に酒まで入ったものだから、有意義で建設的な意見交換など行われることなど一切なく、翌日には何を話したかさえ記憶もおぼろげで二日酔い…という体たらくに陥る羽目になった。
 そしてすっかり酒が抜けたのはいいが、さらにその翌日――三日目には貴鬼が熱を出したため、その看病に明け暮れ、看病疲れを感じつつも今度こそ…とシャカのところへ意気込んで行こうとしたその時、大量に持ち込まれた聖衣の修復。

「いい加減、本格的に拙いかもしれない……」

 修復中の聖衣を前にムウはドップリと悲嘆に暮れた。
 何度か途中で投げ出して、処女宮へ向かおうと思ったのだが、計ったようにシオンの催促だ。気付けば一週間以上も過ぎていた。
 ほとんど徹夜に近い状況で修復にあたっていたのだが、未だ目処も立たない。暗澹たる面持ちでムウは休憩がてら外の空気を吸おうと作業部屋から這い出るようにして白羊宮の入り口へと向かいかけた。
 渡り廊下は緊急時以外、上の宮の住人のために通り抜け可能にしている。その開放された廊下の方から話し声が聴こえてきたため、思わずムウは物陰に身を潜めた。
 声の主はシャカとそしてミロだった。

「自宮だというのに何をやっているんだか」

 苦笑まじりにムウは半分呆れながら溜息をつくと二人の会話に聞き耳を立てた。どうやら二人は勅命明けのようで、シオンに報告したあと休暇を申し出よう――そんな内容だった。
 ラードーン川の畔かキュプロス島の南岸を二人で散策しよう……そう語っているのは陽気さに花まで咲かせたかのようなミロだった。

(……二人で?)

 息を潜めながら、ムウは衝撃を受けていた。ミロのいう『二人』とはミロとシャカを指してのことなのだろうか。それともミロと他の誰かのことなのだろうか。後者であって欲しいとムウは願うばかりだった。


作品名:Metronom 作家名:千珠