二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

Metronom

INDEX|4ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 


「――何用かね、ムウ」

 そっけない態度で出迎えたシャカを前に怯むこともなくムウは部屋の中に入り込み、どっかりと椅子に腰を下ろした。寝入り端を起こされたらしいシャカは呆れたようにムウを見遣ったが、小さな欠伸を押し殺すとムウに椅子を占領されていたため、窓に背凭れた。

「それで?」
「この前の会議では失礼しました」
「……そんなことを云うためにこの時間に私を訪ねるとは。それこそ礼を失することではないのかね?」

 皮肉交じりの笑みを浮かべるシャカに軽く頷きつつも、ムウは続けた。

「ええ、そう思いましたが。明日から休暇をお取りになって聖域を離れるのでしょう?これ以上伸び伸びになってしまうのはこちらとしても居心地悪いものですからね。それで失礼を承知でお邪魔に上がったのです」
「ふん。誰から情報を得たのかは知らぬが。結局、自分のためかね?」

 窓枠にかけるように伸ばしていた両腕を組んだシャカは不快そうに片方だけ眉をあげる。

「そうですよ、自分のため。誰だってそうでしょう。結局、己が一番大切なんですから。貴方とてそれは変わらないはずだ」
「――この前の君といい、今日の君といい、やけに私に噛み付くな?」

 探るようにシャカは閉じた双眸でムウを眺め見た。
 気まずくなったムウは顔を背けるが、そんなムウにも構わずにシャカは組んでいた右手の指を口元に伸ばし、そっと唇を撫でていた。シャカは沈黙の圧力をかけながら、シオンの瞳のように心の奥底を見透かそうとでもしているかのようだ。

「別に……噛み付こうという腹ではないんです。ただ……歯止めが利かなくなるんです」
「なぜかね?君は他の誰よりも冷静で上手く立ち回っていると私は認識しているが」
「対する相手が貴方以外の他の誰かなら、そうでしょうとも。相手が貴方だからこそ私は理性的に振舞えなくなるのです」

 ムウは俯いて膝の上に置いた己の拳を見た。小さく震えを伴っている。それが少しおかしくて、うっすらと笑む。

「つまり。元凶は私に在る―――と、そう君は言いたいのかね」
「いいえ。そういうわけでは……それこそ、お門違いでしょう?話を蒸し返すことになりますけれども、この前の会議で真っ向から貴方の意見に衝突しましたが」
「守るべき、己が宮を独断で放棄し、冥界に単独で乗り込む不貞の輩がいる限り、後を任すことはできない――それゆえに今の十二宮の布陣は手薄だ、ということであったな。君の持論では」
「ええ、ですが―――」
「それが君の本心だということがよくわかった。なるほど、確かに君の言うとおりかもしれぬ。後に続く宮に裏切り者がいるならば、な」

 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたシャカの言葉は辛辣なもの。余程腹に据えかねたようで、取り付く島もない。

「もう、この件に関してはいいのではないかね?恐らく私と君とでは永遠に平行線を辿るだろう。不毛な話し合いだ。ムウ、帰ってくれ。私は休みたい」

 窓辺から離れたシャカが一歩踏み出す。不機嫌さを隠しもせず、ムウの横を通り過ぎようとした。

「―――ミロの胸の上では休めませんでしたか」
「なんだと?」

 ムウは一度大きく瞬いたあと、シャカがいた窓辺からシャカへと視線を移し、目を据えた。立ち止まったシャカはムウを見下ろしていたが、面食らったように口元をほんの少し動かしたあとギュッと固く閉ざした。
 気まずい空気が流れ、どれだけの沈黙の時が流れたのか。

 ―――シャカがどう出るのか。

 ムウは残酷に過ぎる一刻を楽しんでいた。

「君には……関係のないことだ」
「そうですね、確かに。困らせてしまいましたか?ならば、申し訳ありませんでした。ただ、私の話に耳を傾けて欲しかったんです。私が円形布陣を推奨する訳を。でも、もう……今となっては無意味なことかもしれない。お邪魔しました、シャカ。ゆっくりお休み下さい」

 カタリと椅子から立ち上がったムウは俯いたシャカに向かってもう一度「おやすみなさい」と告げ、先に扉から出て処女宮を後にした。
 星月夜に照らされた石段。
 ひどく長いものだなと思いながら、ゆっくりと踏み締めるようにムウは降りていった。


作品名:Metronom 作家名:千珠