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Metronom

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「何なんですか……貴方は――」

 呻くように問いかけるムウを鼻で笑ったミロは腰を屈めて耳元に顔を寄せた。

「もっと上手く立ち回るべきだったな、ムウ。おまえって案外、バカ正直なんだな。丸見えだよ、いや、染み出しているとでも言ったほうがいいか。それとも、俺にはわからないとでも高を括っていたのか?」

 ムウは引き攣れる喉を僅かにでも潤そうとごくりと唾を飲み込んではみたものの、うまく嚥下できないでいた。反論しようとするが適当な言葉が思い浮かばない。

「俺はこういったことに関して鼻が利くほうでね。害を為す者か、そうでない者か、はっきりと嗅ぎ分けることができる。悪いが、おまえの好きなようにはさせない―――」

 甘く囁くようでありながら、刑を言い渡す裁判官のように無慈悲で、死を宣告する医者のように残酷で、低く押し殺したミロの声がムウを貫いた。頭の中に空白が生まれたほんの一瞬のことだった。あろうことか、ミロがいきなり口づけてきたのだ。

「―――っ!?」

 突然の出来事に状況を掴めず、しばらくの間目を白黒させたムウはやっとのことで今何が起こったのかを理解した。ムウは自分に口づけるミロを嫌がり、突き放そうと手を伸ばしたその時、ムウの背後……戸口付近でガタリと音がした。
 すると、ミロはスッとムウの唇から離れ、血の気の引くような言葉を口にしたのだった。

「待て、シャカ!違うんだ―――」

 ムウは動揺し、ミロを押し退けるようにして立ち上がり、後を振り返った。だが、そこには開け放された扉と僅かに金色の髪が流れ、白い布の端だけが見えただけだった。慌てて追いかけようとしたムウだったがミロに腕を掴まれ、行く手を阻まれる。沸点に近いムウが怒りを露にミロを睨みつけたが、対するミロは酷く残酷な笑みを浮かべた。

「なんていうことを……貴方は――」

 シャカがミロにどんな気持ちを抱いているかはわからない。シャカとミロの関係が破綻することはムウにとって望ましいこと。でも、これではまるで私がミロに横恋慕したようではないかとムウは激高する。

「おまえが行っても無駄さ、ムウ。おまえはもう……シャカにとって“恋敵”なんだから」
「まさか……ミロ、今のはワザと?信じられない――っ!」

 ミロは慌てることもなく、落ち着き払っていた。それどころか余裕の笑みさえ浮かべている。

「信じようと信じまいとそれはおまえの勝手だが。そうさ、ムウ。本来の趣旨ではなかったけれども、シャカがここに来ることは予定されたことだった。俺が来るように言っていたから。それを利用しない手はないだろう?これで、もう――シャカがおまえに近づくこともなければ、ムウ、おまえの言葉を信じたりすることもないだろうな?」

 くすりと小さく笑んだミロの瞳は未だかつてムウが目にしたことのない、すべてを凍てつかせるような冷たいものだった。

「この……卑怯者――っ!」

 怒りのままに拳を振り上げたが、紙一重でかわしたミロは「キレが悪いな?」と嘲ったあと戸口へ向かった。その背に吐き捨てるようにムウは吠えた。

「ミロ!逃げる気ですか!?」

 くるりと振り返ったミロは優雅な笑みを浮かべて言い返す。

「逃げる気はないけれども、おまえと言い争っている暇はないんでな。さて、シャカがどんな反応を返してくれるのか……楽しみだよ。怒るか、泣くか、拗ねるか…フッ。どんな反応さえ、それは俺に向けられるものだ。おまえにではない、ムウ。そんなシャカに俺はどう言い訳をすべきだろうな?ムウに誑かされてしまった、反省している…っていえばシャカは信じるかな?信じないかな?」
「あの人が信じるわけが…ないっ!」

 悲痛に叫ぶムウを一瞥したミロは茫然自失に陥り立ち尽くすムウに向けて、不似合いなほど陽気な笑みを浮かべ、パタリと扉を閉めた。ムウはぼんやり閉められた扉を見つめ、遠ざかっていく足音を聞いていた。不意に背骨さえ抜き取られたように膝の力が抜け、ガクリと項垂れるように膝をついた。虚ろに床石を見つめながら、ムウは声を絞り出した。

「信じるわけがない……信じないで……ああ……シャカ――」



作品名:Metronom 作家名:千珠