繋がり
初めて高杉が口を開く
高「俺は…」
銀「何だよ!俺は何だよ!良いか。死ぬなんてぜってぇ許さねぇからな!!!俺は!!!」
高「何で…何でてめぇは…いつもそう自分勝手なんだ…」
銀「あぁ!?自分勝手なのはてめぇだろ!高杉!」
銀時がここまで感情的になったのは何十年ぶりだろうか。
高杉の胸ぐらをつかんだまま刀を抜かせようとはしない。
銀「何でそんな目してんだよ。俺にこんな事されて悔しくないのか!?いつものお前なら…いつものお前なら…!……何で…絶望した目してんだよ…お前は…」
その目はあのときと一緒だった。
松陽先生の亡骸を見たときと―――――――。
そして銀時は同時に思った。
”これが本来の高杉の顔”だと。
今ここにいる高杉は鬼兵隊筆頭高杉晋助なんかじゃない。
笑うことも、悲しむことも、年相応の感情を持っていた頃の高杉に戻っている事を瞬時に悟った。
それは銀時にとって嬉しい事でもあり、悲しくもあった。
今までは世界に対する憎しみで己を保っていた高杉。
しかし、それが無くなってしまったということは…。
銀「何が…あったんだよ」
未だに口を割ろうとしない高杉。
流石に我慢の限界だった銀時は高杉を殴ろうと拳をつくった。
高「そのまま…殴り殺してくれてもいいぜ」
銀「―――――っ!!!!」
その瞬間、胸倉を掴んでいた手を思いっきり引き寄せ…―――――高杉を抱きしめた。
高「俺じゃ…もう守れない…銀時。お前を、ヅラを、辰馬を、死んでいった同志たちの志を、先生の、魂を…っ」
銀「…っ!」
高「お前一人に背負わせちまった、あの時の罪。ずっと後悔してた…っ、だから俺は、もう二度とあんな事を起こさないためにも、この腐った世界をぶっ壊して…お前らが、少しでも笑って過ごせる世の中を…」
あぁ…こいつは今までずっと一人で背負ってきたのか
銀「……」
高「でもな、もう俺だけの力じゃ守れねぇ。だから…」
銀「だから…何だ?だからてめぇ一人で全部背負い込んで、てめぇ一人の命でどうにかなると思ってんのか?」
高「……」
銀「なんで…。…お前はいつもそうだ。物騒なことばかり口にするくせに自分一人で全て背負い込んで、一人で解決しようとする。俺はな!お前のそういうところが昔から一番嫌いなんだよ!!!!」
高「っ…なら、どうしろってんだよ!!!お前一人に先生殺しの罪を背負わせたのは俺だ!お前一人に背負わせたくなんてなかった…っ。」
高杉は包帯で隠れた自身の左目に手を当てる。
その仕草を見た瞬間、銀時はハッとした。
そうか…
銀「高杉…っ」
銀時はしゃがみこみ目線を合わせ、両手で優しく高杉の顔を包み込み、おでこをコツンと合わせる。
銀「ごめん…」
そう言った銀時の声が震えていた。
高「なん、で…お前が、謝る…」
銀「ごめん…。いや、俺たちはごめんなんて言葉じゃ足りないよな」
高「だから、何でお前が…っ」
言葉を遮るように銀時は右手を高杉の左目…包帯で隠れた傷を撫でる
銀「あの時俺は…。先生との約束を守るために、お前らを守るために、罪を犯した。でも、本当の意味でお前らを守ることは出来ていなかったんだな…。結果、お前に傷を負わせた」
高「こんな傷、どうってこと…」
銀「違う…っ。目の傷だけじゃねぇ…。お前の、心に傷を負わせた」
高「何言って…」
銀「お前…この左目で最後に見たものは何だ」
高「―――――っ!!!」
その言葉を聞いた瞬間高杉の目から涙が溢れ出た。
銀「やっぱりか…。ごめんな、ずっと一人で背負わせて。でもあれは、お前が、お前らが悪いわけじゃない。俺の弱さが招いた結果だ」
高「ちが…っ、あの時、俺がヘマしなけりゃ…お前にあんな事……、あんな顔、させずに…っ」
高杉の涙を拭いながら優しく囁く
銀「俺さ、お前らが生きててくれて本当に嬉しかったんだ。結果はどうであれ、先生との約束を守って、お前らのこともずっと守っていこうって決めてた。今だってその気持ちに変わりはない。俺一人で背負っていれば、お前らはちゃんと生きていけると思ってた。…お前は俺と会うたび刀を交えてきたが、それすらも嬉しかったんだ。それが今の俺たちを繋ぐ唯一のモノだと思ってた」
高杉は涙を流したまま首を振る
銀「本当は俺、お前に恨まれてると思ってた。お前らから先生を奪った、この俺を」
高「んなわけ…ねぇだろ…!!」
銀「あぁ…その事に今気づいたんだ。高杉、お前はずっと自分を責めてたんだよな…?」
高「っ、ぎ、んと、き……」
銀「悪かった…、気づいてやれなくて。ずっと苦しかったんだよな」
高「謝るな…!お前は何も悪くない、お前にそうさせたのは…俺たちだ」
銀「高杉…」
高「俺はお前みたいに仲間を守ることはできねぇ…、だから、俺は俺のやり方でと思ってやってきた。けど、やっぱり俺はお前と違って、守りきることができない…、だから、俺は、ここで…っ」
銀「うん、わかったよ、高杉、でもな、やっぱり死ぬことは許さない。…俺もさっき気づいたんだけどさ、俺たちはもっとお互いを頼るべきだったんだ。変に責任感感じて、下手に一人で抱え込んで、そういう感情を刀でしかぶつけられなくて…。でもさ、そんなことしなくても、俺たちの絆は…繋がりは、消えたりしないんだよ」
必死に涙を止めようとしながらも銀時の話を聞く。
銀「一度つながった絆は、そう簡単には消えない。…消えさせない。だから、大丈夫だ。もう自分を責めないでくれ。これからは俺たちをもっと頼ってくれ。苦しいときは苦しいって。泣きたいときは泣いていい。頼むよ、高杉。死のうとなんてしないでくれ。お前まで失ったら、俺は…っ」
高「銀時…、っごめ、ん…、」
包帯の上からキスを落とす。
銀「俺も、これからはお前を、仲間を頼る。だから、お前も…っ」
ここまで語ってついに我慢できなくなった銀時の目から一筋の涙が流れた。
そしてこのとき初めて二人の視線が交わった。
高「っ、銀時…っ!!!」
今まで耐えてきた様々な感情が一気にあふれ出し互いにきつく抱きしめあった―――――。
ごめん、なんて言葉はでなかった。
そんな言葉で片付けられるほど簡単な問題ではないからだ。
しかし、言葉などなくても互いの気持ちは分かりあっていた。
銀「これからは、本当の意味で守らせてくれ…」
高「それはこっちの台詞だ…」
すると遠くから二人が駆けてくる足音と声が聞こえた。
「と、き…!!!!…か、…ぎ―――――!」