不安の行方
「あの…あのね?私も同じなんだよ。
好きって言ってもらっても、
大事にしてくれても、
やっぱり馬村がモテると不安なんだよ。」
「自信なんて…どうやったらつくのか
どうしたら不安じゃなくなるのか
全然わかんないんだよ…」
「……オレも…」
頭ではわかっていても、
不安になってしまうのはなんでなんだろう。
抱きしめあい、お互いにぬくもりを感じても、
獅子尾がそばにいると、
それがうたかたのような気がしてしまう。
「オマエ今日ヒマかよ?
オレん家、来ねえ?
お互い不安なまま帰れ…ねえし。」
「あ、うん…」
二人は馬村の家に行った。
「飲みもん、何でもいい?」
リビングでお茶を出される。
正直なところ、すずめは
馬村の部屋に行くということは
もしや…と思っていたので、
リビングに通された時は微妙な気持ちだった。
馬村は馬村で、あのまま帰れないとは思ったが、
自分の部屋だと、話の流れでは
不安を消すために抱く、というようなことを
自分がしてしまいそうで怖かった。
「オレ…前にオマエん家に行った時、
オマエのおじさんと二人で話したことあって…」
「人生ゲームした時?」
「ぶ…そう。」
「オマエが幸せなら身を引くのも厭わねえ、
みたいなことカッコつけて言ったんだよな。」
聞いてた。とすずめは思ったが口には出さずにいた。
「だけど沖縄でオマエに好きって言われて、
なんかこう…どんどん欲が出て。」
「もう離したくなんかねえし、
離れていってほしくないとか考える。
すげえカッコ悪ぃけど。」
「一緒だよ。私なんて最初から思ってたよ。」
「自己中でごめん。」
「思ってること同じなのに
どうして不安になっちゃうんだろうね?」
「ん…」
カラカラと、ガラスのコップに入った氷を
ストローでかき混ぜながら、
馬村は返事にならない返事をした。
「馬村?」
「うん?」
「これだけはわかるってこと、
一個だけあるんだけど…」
「何だよ。」
「馬村にどんだけ大事にしてもらっても
私が不安に思うのは、馬村がこうしないから
ってことじゃなくて、自分の何かが
問題だと思うんだ。」
「え…」
「だから馬村はそのままでいいからね?」
「馬村は十分してくれてるじゃん?
だから、私の何かを変えればいいと思うんだ。」
「何かって…?」
それがわかればこんなに不安になってない。
「まだわかんないけど…」
「馬村が一緒にいるのが幸せで、
離れてくことが不安て思うのがダメとか?」
「?どういうこと?」
「だって馬村のことは馬村が決めんじゃん。
私が決められないから不安なのかなって。」
「でも私が馬村を好きって思うことが
幸せで、そう思えなくなることが嫌なら、
それは自分が決められるから、
あんまり不安じゃないというか…」
「??」
馬村はすずめの言い出したことの意味が
よくわからなかった。
「そーだよ!私は馬村が好きだから幸せ。
もし馬村が離れていっても、
好きでいることはできるから、
それならずっと私は幸せだし
不安になんないよね?」
「は?なんだそれ。
ムチャクチャなこじつけだな。」
「いーの!私はそう思うことにした。
思考の転換ってね!」
「じゃあオマエがオレを好きで幸せなら、
オマエが幸せなのが幸せなオレは、
ずっとオマエに想われるし、
ずっと幸せってこと?」
「?うん?そういう…ことかな?」
自分が言い出したことなのに、
すずめはよくわからなくなった。
「じゃあ、なんの問題もねーじゃん。」
「あれ?なんが問題だったのかな?」
「……ブハッ」
馬村が突然噴き出し、
クックックッと笑いだした。
「何でもいいよ。
オマエはオレを好きで幸せなんだろ?」
すずめはハッとした。
よく考えたらすごく恥ずかしいことを
口走ってしまったかもしれない。
馬村がすごく優しい顔で笑い、
すずめの顔に手をあて、
優しい優しいキスをした。
今までこだわったり、こわばったりしてたものを
全部溶かすようなキス。