好きになる理由
「…それは大変だったねー。
そして今、彦四郎の隣には一年は組の学級委員長・庄左ヱ門が座っている。
安藤の部屋から教室に戻る途中で彼を見かけて声をかけた。
声をかけてすぐに、庄左ヱ門はまだ話してもいないのに今まで彦四郎が何をしていたかを言い当てた。
「彦四郎、また安藤先生のところ?
「どうしてわかったの?
「なんとなく。何か疲れてる感じだったから。
それを聞いて彦四郎は、さすがだなと思った。
そして、無意識に口が動いていた。
「庄左ヱ門、今時間ある?
後は廊下で立ち話も疲れるので、庭の木陰に移動して庄左ヱ門に安藤に叱られたこと、二週間前のマラソンのことを話した。
は組に負けたということをは組の学級委員長本人に話してしまった後、まずいと思い彦四郎はそっと周りを確認したが、自分達以外誰もいなかった。
「彦四郎としてはクラスのためを思ってやったんだよね。
庄左ヱ門に視線を戻すと、『打倒一年い組』を掲げているは組の学級委員長とは思えないくらい親身になって聞いていてくれていた。
いつもそうだ。
彦四郎が、担任に叱られて学級委員長として自信を無くしかけている時、よく庄左ヱ門と遭遇する。
そして無意識に彼に相談を持ちかけて、彼から励ましの言葉をもらってそれぞれのクラスに戻る。
今まではいつも偶然だと思っていた。
教室に戻るのだから、は組の忍たまとばったり会うなんて珍しいことではない。
だが、
(そういえばぼく、別に教室に用事がないのに、こういう時はいつも教室に向かって…。
偶然だと思っていたものが自らの意思によるものだと気付いた。
「ねえ、庄左ヱ門。
「ん、何?彦四郎。
「どうして庄左ヱ門は、いつもぼくの相談に乗ってくれるの?
自分と同じ学級委員長で、忙しいはずなのに。
「ああ、それはねー。
「「「しょーざえもーん!!
「あの声は…。
質問の答えを言う寸前で、庄左ヱ門を呼ぶ声に二人の会話を中断された。
声の主は、は組の三人組。
「庄ちゃんやっと見っけ。
「教室に戻ってないから探したぜー?
「あれ?
乱太郎が目当てのクラスメイトの他に、もう一人忍たまがいるのに気が付いた。
しんべヱがあっ、と声を上げて続けた。
「一年い組の彦四郎。
「なんで庄左ヱ門と一緒にいんの?
「えーっと…、これは…。
きり丸に聞かれて答えを出そうとするが、なぜか正直に言いたくなくて言葉を詰まらせてしまう。
「もしかして学級委員長委員会の仕事の話をしてるの?だったら邪魔しちゃ悪いから後でいいんだけど。
乱太郎が二人の共通点から答えを推測して言った。
学級委員長同士だが仕事の話をしていたわけではない。
彦四郎はすぐに否定しようとした。
「いや、委員会の仕事ってわけじゃなくて……。
すっ、と
彦四郎の前に腕が伸ばされて続きの台詞は持っていかれた。
「そうなんだ。ごめんね、用があるなら後でぼくの部屋に来てくれないかな?
「わかった。それじゃあきり丸、しんべヱ、行こう。
「おーう。
「まったねー、庄左ヱ門。
にこにこしながら手を振って離れていくしんべヱに対して庄左ヱ門は、その姿が見えなくなるまで手を振り返していた。
ぽかーんとその様子を見ていた彦四郎は庄左ヱ門と顔を合わせてすぐにまた質問をした。
「なんで?は組のことなのに後回しにしちゃっていいの?
それを聞いて瞬き一回分庄左ヱ門は何も言わなかった。
そして柔らかく微笑んだ。
彦四郎はその笑顔に惹き付けられた。