好きになる理由
「同じ学級委員長の彦四郎の相談に乗るのも、学級委員長委員会には必要なことだと思うから。人数が少ないし、何かと難しい問題にぶつかるからさ、学級委員長って。そこをお互い補ってあげないとね。あ、これ、乱太郎達が来る前の質問の答えでもあるから。
さらりと笑顔で答える庄左ヱ門に彦四郎は少し間を空けてから
「あ…ありがとー、庄左ヱ門!
瞳をきらきらさせて感謝を述べた。
そのきらきらに見つめられて庄左ヱ門も少し照れ気味に肩をすぼめた。
「ははは。それで、何かまだ聞きたいことはある?この際だから何でも聞いてよ。
「うん、そーだなー。
楽しそうにこちらを見つめてくる庄左ヱ門を見て思った。
(庄左ヱ門…、は組の連中から相談された時、いつもこんなに楽しそうに笑ってるのかな…?こんなふうに悩み聞いてもらえたら…
そりゃあ、好きになるよなー。
(あっ、そうだ!
「庄左ヱ門。
「なに?
「聞きたいことあるんだ。聞いていい?
「だから言ってるだろ?何でも聞いて。
「どうやったら、ぼくも庄左ヱ門みたいに周りから好かれる人間になれるかな?
「…へ?
この時、彦四郎の中でほんの少しある気持ちが芽生えた。
本当は『周りから好かれる学級委員長』と聞くつもりだった。
だが敢えて『人間』と聞いたのは、
『誰か』から好かれるためにはどうすればいいのか聞き出すためだった。
しかしそんな企みがあることなど知らない庄左ヱ門は、きょとーんという音がしそうなほど目が点になっていた。
「あれ…、庄左ヱ門?
「彦四郎、ぼくってそんなに好かれてる?
(え゛っ!?
彦四郎が思っていた答えとは全く違うものが返ってきた。
一年は組の連中は、彦四郎から見れば、いや、誰が見ても庄左ヱ門を好いている。
クラスメイトが楽しそうに庄左ヱ門を囲んで話している姿を何度も見たことがある。
は組の教室の前を通ると庄左ヱ門を中心に宿題を教わったり、おしゃべりする姿は当たり前のように視界に入ってくる。
委員会の集まりに一緒に向かう途中でもは組の連中は庄左ヱ門を見つけると、特に用がなくても挨拶だけして去っていく。
暇があれば勉強・自習をする、用がなければ話すこともろくにしないい組の彦四郎はそんなことをされたことは一度もない。
「好かれてるよー!クラスのみんなにすごく頼りにされてるじゃん。
「ぼくが学級委員長だから頼りにしてくるだけだよ。
「はぁ…。そういうものかなぁ?
「ふふふ。好かれるようにしてることはないけど、心がけていることはあるかな。
「何?教えて。
庄左ヱ門のちょっとずれた(この場合は抜けたが正しいか)感覚にため息をついた彦四郎に、は組の学級委員長は改めて表情を引き締めてい組の学級委員長に言った。
「ぼくは、は組のみんなから嫌われてもいいと思って行動してるんだ。
「はあ!?なんだよそれ、庄左ヱ門嫌われてないよ!
聞いたこととは真逆の単語が使われたことに、彦四郎は理解が及ばず思わず大声を出してしまった。
しっかりと耳に手を当てていた庄左ヱ門がその本質を説いた。
「別に嫌われることをしてるわけじゃないよ。たまには意見をぶつけ合うくらいの衝突をあえてしてるってこと。相手にもよるけど、少し厳しめにものを言ったり、時にはばっさり相手を否定したりね。そういうことをぼくがふっかけてやらないと、みんなぼくを頼りっぱなしで自分の意見を無くしちゃうから。何事も争い事にならない方がいいと思うけど、きちんと相手を想いやってぶつかる事も覚えないと駄目だと思ってるんだ。まあ、大事なのは相手のために自分はどうすべきか行動することだよね。
「相手のため…。
「と言っても難しいよね。は組のみんなはぼくがそういうつもりで言っても、だいたい素直に聞いちゃうからまた別の手段考えたりしなくちゃだし…。
困ったようにはははと笑う庄左ヱ門を
彦四郎はその両肩に手をかけてその笑顔を自分に向かせた。
「彦四郎?
「すごい…!庄左ヱ門、お前ってそこまで考えてるんだね…!
庄左ヱ門のは組を想いやる気持ちが伝わり、その信念の下からくる言動だということを知った彦四郎は庄左ヱ門という人間に改めて惚れてしまったのだ。
肩に触れている自分の指がすごく熱くなっているのがわかった。
ポカーンとしている庄左ヱ門に気付いて自らの行動の(今までの彦四郎としては)大胆さを自覚して、手を放し謝ろうとした。
ちょうどその時、