好きになる理由
ぱん…と、何かが落ちる音が彦四郎の背後から聞こえた。
そして
背中に何とも言えない重たい空気…いや、殺気のようなオーラが伝わってきた。
そのオーラのせいでびしりと動けなくなった彦四郎の目の前で、庄左ヱ門は彦四郎の向こう側に視線を向けて軽く声をかけた。
「あ、伊助ー、団蔵ー。
仲の良いクラスメイトを見つけて嬉しそうに手を振る庄左ヱ門。
誰が背後にいるのかわかった彦四郎は恐る恐る振り返った。
庄左ヱ門の肩に手をかけたまま、だった。
振り返った先には一年は組の伊助と団蔵が並んで立っていた。
どこかの掃除当番だったのか団蔵はほうきを両手で掴んでいる。
伊助の脇にもほうきが落ちていた、先程の音はこのほうきが地面に落ちた時のもののようだ。
それよりも!
確かに団蔵は両手でほうきを持っているが、それを槍のように構えた臨戦態勢だった。
伊助は風もないのに制服や髷が靡いている…ように見えるくらい小刻みに震え、そこから放たれているオーラが彦四郎の感じた殺気の正体だった。
今にも襲いかかってきそうな団蔵と今にも呪詛を唱えてきそうな伊助と、彦四郎の視線が重なった時、団蔵が叫んだ。
「彦四郎!お前…庄左ヱ門に何したぁ!!?
「な、何もしてない!
「じゃあその手は何!?
「あー!これも何でもない!ほら。
彦四郎はやっと庄左ヱ門の肩から手を放して何もないことを示すように両手を開いて左右に振った。
続いては伊助。
「しょ…庄左ヱ門が…!彦四郎に…彦四郎に汚されたー!!
「え…?ちょっと、何!?汚すって、ぼくは何もしてないって!
恐ろしいオーラを出していた伊助が急に崩れ落ちてヒステリックに泣き始めた。
その一方で吐き出されたセリフの意味がわからず、しかし何か悪いことだと悟った彦四郎は半ばパニックになって否定した。
「二人とも…ぼくは別に庄左ヱ門と話をしてただけ…。
「いちねーんはぐみー!
「!?
「「であえであえー!
まるで合戦の合図のように伊助と団蔵が叫ぶと、どこからか一年は組のよい子達が集まってきた。
「どーしたの?(虎若)
「何なにー?(兵太夫)
「呼んだー?(三治郎)
「何だー?(金吾)
「ほえ~?(喜三太)
「みんな、庄左ヱ門がね、彦四郎に、かくかくしかじかなの!(伊助)
「何だって!?(金吾)
「そりゃあ黙ってらんないね。(兵太夫)
「火縄銃持ってこようか?(虎若)
「そこまでせんでいい。(団蔵)
「あと顔がゴ……になってるよ。(三治郎)
「彦四郎!庄左ヱ門にそんなことするなんてひどい!(喜三太)
「覚悟はできてるんだろうな?(団蔵)
「庄左ヱ門に手ぇ出したらどうなるか。(虎若)
「一年は組のよい子達が。(伊助)
「成敗してくれる。(三治郎)
「みんなー、庄左ヱ門を彦四郎から守るためにー!(喜三太)
「石を持てー!(兵太夫)
「おー!(全)
「待った!石を投げたら味方に当たるお約束を忘れたのか?庄左ヱ門に石が当たってもいいのかー?(金吾)
「そっんなこっとでっきなーい!!(全)
「………、庄左ヱ門。これでも好かれてないと思うの?
「みんなふざけて遊んでるんだよ。
「……はあ。