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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 23

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 天界における死は、転生する時、おおよそウェイアードにおける寿命と同等のものによるもの、それ以外の要因のものにより死ねば、その瞬間に死んだ者は無となる。
 天界での死は、そのままその者の存在、魂を永久に消してしまうものだった。
「……抜いたな? 消える覚悟はできているのであろうな?」
 ヒースは、誰もが恐怖せずにいられない睨みと共に、右腰の剣に手をかける。
「くっ! 消えちまえ!」
 男はナイフを突き出した。しかし次の瞬間、金属音と共にナイフが宙を舞っていた。
 ヒースは、速業で剣を抜き、ナイフを弾き返していた。最早目にも止まらぬ技である。
 男は何が起こったのか分からず、呆けていた。やがて地面にナイフが落ちる音で正気に戻ると、ヒースの切っ先が、男の喉元にピタリとくっついていた。
 男は、蛇に睨まれた蛙のごとく、一切の動きができない。
「次は容赦せんぞ」
 ヒースは静かに言うが、それはとてつもない恐怖を受けるに十分であった。
 男は腰を抜かし、恐怖にひきつった顔のまま失禁した。
「ふっ、大の男が漏らすとは、なんとも無様なものだな」
 ヒースは切っ先を向けたまま、恐怖する男を笑った。
「こ、こいつ、何者だ……!?」
「おい待て、こいつの左胸の証、よく見たら、あのガーディアン・ナイツの……!?」
 ヒース達聖騎士団には、団員の印として、丸めた形の羽飾りを与えられている。
 加えて、一団を束ねる隊長以上の階級になると、階級に応じて、金、銀、銅のメダルの勲章を着けることを義務付けられている。
 ヒースは副長であるため、銀の勲章を着けていた。
「お、おい。もしかしてこいつ、剣の腕なら、最強とか言われてる……」
 ヒースはニヤリとした。
「ほう、まさか貴様らのような無法者も俺を知っているとはな……。ならば、いかに貴様らが愚かでも分かろう、絶対に勝ち目のない勝負だとな!」
「ひ、ひいっ!」
「お助けをー!」
「ま、待ってくれー!」
 ヒースの正体を知るやいなや、男達はまさしく、尻尾を巻いて逃げていくのだった。
「ふん、負け犬どもが……」
 ヒースは剣を納めた。
「娘よ、怪我はないか?」
 ヒースは振り返り、訊ねる。
「は、はい。おかげさまで……」
 女はおずおずと答える。
 女は、純白のワンピースを身に纏い、深緑の髪を後ろで一つに纏め上げていた。
 その瞳は水色で、白く、艶やかな肌をしている。
 これまで、遠目からしか見ていなかったり、無法者の相手をしていたため、ヒースは女の顔をじっくり見られなかったが、今こうして見ると、とても可憐な容姿をしている事に気が付いた。
 ヒースは思わず緊張してしまったが、天界を守護する者としての体裁を保つ。
「無事で何よりだ。しかし、ここがいくら神々の治める天界といえど、あのような無法者はいる。あまり女の身一つでこんな時間に出歩くものではないぞ」
「は、はい、ごめんなさい」
「うむ、以後気を付けられよ。では……」
 ヒースは、女に背を向ける。
「あ、待ってください! 何かお礼を……!」
 呼び止められ、ヒースは思わず気持ちが揺らいだが、騎士としての態度を崩さないようにした。
「気持ちだけで結構。俺は騎士として当然のことをしたまで……」
 ヒースはあえて冷たくあしらうが、女は引き下がらない。
「で、ではせめてお名前を!」
「名乗るほどではない。俺は聖騎士団の一員。ただそれだけだ」
 ヒースは言うと、後ろ手を振って足早にその場を後にする。後ろからは、まだヒースを呼びかける女の声があった。
 ヒースは、多少悪い事をしていると思いながらも、女の声を無視して歩みを進めた。
 騎士団副長として、きれいな女にうつつを抜かし、腕を鈍らせる。これだけはあってはならないと考えるが故の行動だった。
    ※※※
 騎士達の勇ましい声が、宮殿の中庭に響き渡っている。この日も、聖騎士団は、いつものように練兵を行っていた。
 今日は、ヒースとユピターは試合をせず、それぞれ騎士軍団の指導に当たっていた。ユピターが槍を、ヒースが剣の指導を担当していた。
「肩に力が入りすぎているぞ! 無駄な力は抜け!」
 ユピターは団長らしく、鍛練に打ち込む騎士達に、負けないほどの大声を出した。
「うわあっ!」
 不意に、剣がぶつかり合ったと思われる金属音と、どさっ、という何かが地面に転がる音と共に、騎士の驚く声が響いた。
 ユピターは、構わず練習を続ける騎士達の隙間から、音のした方を見やる。
「どうした、その程度か?」
 ヒースが一人の騎士と、直接手合わせをしているようだった。
「く、くそぉ……!」
 騎士は、転がった剣を広いながら立ち上がる。
「ふっ、どうやら、まだやれるようだな。よし、かかってこい!」
 ヒースが相手をしていたのは、騎士団の兵卒の中でも腕の立つ者だった。
 まだ、あどけなさが残る顔立ちであるが、根性は年長者達にも負けていない。
「でやぁ!」
 騎士は全力でヒースを攻撃する。しかし、ヒースは襲い来る剣を、騎士の手から弾き飛ばし、がら空きの胴体に蹴りを入れる。
「ぐっ!」
 騎士は再び地面に尻餅を付く。そこへヒースは逃さずに、切っ先を向けて騎士の動きを抑え込んだ。
「まっ、参った! 参りました!」
 たまらず騎士は降参を示す。
「やれやれ、もう終わりか。お前ならば、俺を前にしてもいい勝負になるかと思ったが……」
「そんな、とんでもございません! 副長を相手にまともに対峙することなど……!」
 騎士はまだ立ち上がれずにいた。
「ふう、まあいい。次は……」
 ヒースは騎士達を見回す。そして次の相手が決まる。
「よし、次はお前だ。手加減はいらない、思い切り来い!」
「はっ!」
 ヒースの目に止まった騎士は、全力で戦った。しかし、騎士にはなかなかの剣の腕があるものの、やはりヒースには遠く及ばない。
「よし次!」
 ヒースは続けざまに騎士を指名し、戦い、そして赤子の手を捻るように打ち倒していった。
「うわっ! こ、降参っ……!」
 ヒースはついに、騎士団の剣士約三十名を打ち負かしてしまった。
 連戦に次ぐ連戦の後にも関わらず、ヒースは息一つ乱していない。
「これで全員だな? よし、大体分かったぞ。お前達に共通する部分がな……」
 一人一人、直接相手をして力をはかり、改善すべき所を示してやる。これがヒースの指導方法であった。
 自分の隊の指導を忘れ、ユピターは見入ってしまっていた。
「ケビン、お前は攻撃が大振りだ。力任せでは、自分も勢いに持っていかれる。それから、カイン。お前は速く動こうとしているが、足が追い付いていない。何度も俺が転ばせたのはそのためだ。全身で動くようにな。そしてテリー。お前は……」
 ヒースの講評はまだまだ続く。
 たった一戦交えるだけだというのに、ヒースは、相手をした者の悪癖等を見抜くばかりではなく、それを改善するもっとも有効な策までも教える。
 ヒースはその並外れた洞察力で相手を捉え、そして見事に打ち破る。この力こそが、ヒースという男を最強たらしめていたのだ。
「……全く、奴にはとても敵わんな」
 遠目からヒースを見ながら、ユピターは呟くのだった。
「伝令!」