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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 23

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 ヒースは放心したように、その影へとゆっくり歩み寄る。
 びちゃっ、と水溜まりのようなものを踏んだ。しかしそれは水溜まりなどではなかった。
 ふと、外でバキバキと音を立てて木が倒れた。火に包まれた木が明かりの役割を果たし、影の正体を明らかにしてしまう。
「嘘だ……!」
 ヒースの目に飛び込んできたのは、信じがたい、いや、信じたくない事実であった。
 血溜まりに浸かる死体が、かっ、と目を見開き事切れていた。
 純白だったであろうワンピースは、朱に染まり、深緑色の髪も血に濡れている。
 手元には、三日月を背後に、今にも動き出しそうな女神の細工の銀のペンダント。
 背中を斬られ、屍となって血の海に沈んだマリアンヌが、そこにいた。
「マリアンヌ! ……うあああああ!」
 ヒースは血の海に沈むマリアンヌを抱き締め、慟哭した。
 間に合わなかった、救えなかった。そんな後悔の念がヒースを支配する。
 ヒースの哀しみははかり知れず、流れる涙は赤色をしていた。
「うあああ! マリアンヌ、マリアンヌ……! くううっ……!」
 ヒースはいつまでもマリアンヌを抱き締め、血の涙を流し続けた。
「ひっ、へへ……!」
 不意に笑い声がし、ヒースはその方向を振り返った。そこには先ほど倒したはずのバルトがいた。
「……なっさけねェな? んだァ、そのざまァ!?」
「……貴様、か?」
「あァ?」
「貴様がマリアンヌを殺したのか!?」
「へァ? うっひゃひゃひゃ……!」
 バルトは腹を抱えて大笑いする。
「ひゃひゃひゃ……、そうさ、オレが殺ったのさ! その女が林に入ってくのを見かけたからなァ、また前みてェに邪魔されねェように、ブチ殺しといたのさ!」
 白状すると、バルトはまた笑い始めた。
「ふひひ……! 女ってなァ、バカだよなァ? そのガラクタのためだけに、へへ、死ぬかも知れねェのにこんなとこまで来たんだぜェ? そんで死んでもそいつを後生大事に持ってんだからもっと笑えるよなァ? イヒャヒャヒャ……!?」
 バルトの笑いが一瞬止まった。
「けっ、カカカカ……!」
 ヒースは瞬間的にバルトに近寄り、剣でバルトの腹を貫いていた。
「……許さん、貴様だけは絶対に許さん!」
「ごうっ、げあっ、がはっ、うぐっ!?」
 ヒースは憎しみと怒りに身を任せ、何度もバルトを刺し貫いた。
「ゴバッ! ……ヘヒャヒャヒャ……、イイねェ……、その怒り狂った眼、お前もオレらの仲間入りだぜ……?」
「だまれぇ!」
 ヒースは最後の刺突を心臓に向けた。
「うおぅっ!?」
 バルトはバタっ、と倒れ、今度こそ息の根が止まった。
 バルトの死体は塵のようになっていき、ついには髪の毛一本残さず消えてなくなった。
「はあ、はあ……!」
 バルトを殺したものの、ヒースの怒りは鎮まるところを知らなかった。
 そして憎しみの矛先は、ある者へと向く。
「おのれ、デュラハン……!」
 かの悪魔さえいなければ、このような事は起こらなかった。このような哀しみに支配されることはなかった。
 ヒースは突然、家の外に出た。そして闇に包まれた空に向かって叫ぶ。
「デュラハン! 貴様は絶対に許さん! 必ず俺が、この手で貴様を八つ裂きにしてくれる!」
 デュラハンへの宣戦布告であった。
「あの狂犬を倒すとは、なかなかやるではないか……」
 空からヒースの言葉に応じるように、声が降り注いだ。
「なっ!?」
 その瞬間だった。
 ヒースの頭に鉄仮面が、両腕に謎のガントレットがつけられた。
「なん、だ、これ、は……!?」
 ヒースは鉄仮面を取ろうとするが、びくともせず、外れそうにない。
「無駄だ、それは貴様の意思では取ることはできん……」
 夜空から声の主とおぼしきものが下りてきた。
 紫に金のまだら模様の甲冑を着込み、裾がギザギザの赤いマントを着けた、鎧姿の騎士のような者だった。
 しかし、人型をしながら、胸から上にあるべきもの、首がなかった。
 これが音に聞く、古の大悪魔の最大の特徴であった。
「貴様、デュラハン!」
 ヒースは鉄仮面越しに叫んだ。
「いかにも……」
 首がないため、表情からは窺い知れないが、声音から、それもどういうわけか嬉しそうな感情を抱いているのが分かった。
「あの狂犬、もとい、バルトは我が配下の中でも最高の力を持っていた。しかし、何にでも噛み付く性格から手に余っていたのだ。今回も命令を無視してイリスを殺すのではないかと心配していたほどだ。礼を言うぞ、騎士よ」
「知ったことか! 俺の前にのこのこ現れるとは、探す手間が省けたわ! 貴様はこのヒースが倒す、覚悟!」
 ヒースはデュラハンに剣を向け、斬りかかった。
「愚かな……」
 デュラハンは襲いかかってくるヒースに手を向けた。
 デュラハンのガントレットに埋め込まれた宝玉が光輝いたその時だった。
「ぐあああっ!?」
 ヒースの鉄仮面の真ん中に埋め込まれた珠が呼応するように光ると、ヒースは激しい頭痛に襲われた。
 それはまるで、直接脳に爪をたてられているかのような激痛で、痛みに喘ぐことしかできない。
「ふっ」
 デュラハンは手を引いた。その瞬間、ヒースを襲う激痛も止まる。
「……くっ、貴様、何をした!?」
「本来ならば、あの狂犬をしつけるため用意したものだったが、気が変わった。ヒースと言ったな、貴様、我が配下となるつもりはないか?」
「なんだと……!?」
 突然の勧誘に、ヒースは言葉を失う。
「ふむ、痛みでよく聞こえなかったのか? では言い直そう、新たなデモンズセンチネルとなるつもりはないかと言っているのだ」
「ふざけるな! 貴様のせいでマリアンヌは! ぐああっ!」
 再び斬りかかろうとするヒースに、デュラハンはまたしても手を向ける。
「その腕、ここで散らせてしまうのはあまりにも惜しいのだ。その力を我の下で振るえ。どのみち貴様はもう、自由にはなれんのだからな」
「どういう、意味だ……?」
「貴様に着けた仮面、ガントレットは枷よ。それを外す方法は二つ。一つは、貴様が死ぬこと、もう一つは、我の死だ」
 デュラハンの指し示す方法が正しければ、確かにヒースには自由になる道はない。
「なにが枷だ、貴様を殺せば全て済む話だ。……がああ!」
 ヒースは膝をつき頭を抱え、激しく首を振った。
「分からんようだからはっきり教えてやろう。貴様の命運はつきているのだ。我がその気になれば、貴様の頭を握り潰して殺すことは容易い。あくまで我に逆らうというのなら、この場で殺してもよい。しかし、我の命に従うのなら、生かしておいてやる。ただそれだけなのだ」
「ぐうう……!」
 ヒースはデュラハンの与えた痛みとはまた違うものに苦しんでいた。
 死ぬことはもとより心にない。
 ヒースの葛藤は、マリアンヌの仇であり、天界に害をなす大悪魔を討つことはできないが、生き延びるにはその仇敵に仕えなければならない事だった。
「そうだ、一つ言い忘れていた」
 デュラハンはふと口にする。
「あまりにあり得ぬ事だから忘れていたが、その枷を外す方法がもう一つだけある。それは、我が力を超えることだ」
 デュラハンは続ける。