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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 23

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 宮殿内に何かの危険がないか、巡回する役目を担う神々の近衛隊員が、騎士団が修行する中庭へと急ぎやって来た。
「どうかしたのか? そんなに慌てて」
 ヒースが訊ねる。
 近衛隊員は、宮殿にて起きた、前代未聞の出来事を話した。
「入り口にて娘が、騎士団員の者にお目通し願いたいとのことです!」
「娘?」
「お目通し?」
 騎士達がざわめく。
 更には、どんな娘か、会いたいのは俺か、いや私だ、とざわめきはどんどん色めきの混じったものとなっていった。
「静かにしろ、まだ訓練中であるぞ!」
 ユピターが叫ぶと、ざわめきは一瞬にして静まった。
 しかしせっかく静かになったというのに、再び、そしてより一層に騒ぎが拡大してしまった。
「こ、こら娘! 勝手に入ってはならんと言ったであろう!?」
 近衛隊員が言っていた娘が、騎士団の訓練する中庭に、姿を現したのである。
「あいつは……!?」
 娘の姿は、ヒースの目にも入った。そして彼女の姿は、ヒースに覚えのあるものだった。
 清楚な白いワンピースを纏い、深緑の髪を結っている。先日、無法者に絡まれていた所を助けた、あの娘に違いなかった。
「近衛隊員殿……」
 更なる騒ぎを静めるため、ヒースは申し出た。
「その少女は俺の客人だ。すまない、客人が来る日を間違えていた」
 騒ぎを静めるどころか、騒ぎは大きくなるばかりであった。
「ユピター、すまん。少しの間外す」
「構わん、訓練時間はもうすぐ終わらせる予定だった」
 ユピターなりの気遣いなのか、ヒースと娘との関係は訊ねなかった。
「気遣い無用だ。少し話して穏便に帰ってもらうからな……」
 ヒースは、羨望にも似た騎士達の視線を痛いほど受けながら、例の娘と共に、中庭を後にするのだった。
    ※※※
 ヒースはひとまず、宮殿内の自室に娘を連れ込んだ。
 騎士団の隊長格以上の階級を持つ者には、特別に個室が用意されているが、部屋にあるのは寝具と簡素な机、そしてクローゼットが備え付けられている程度である。
 この部屋でできることは、机に向かって書物に触れるか、眠ることくらいしかない。
 娘は、ヒースの部屋に一人で待たされていた。
 机の椅子に座り、部屋内をそれとなく見回していた。
 ヒースの部屋は、男の部屋にしては片付いている。机の上には、『騎士としての心得』、『天界の法』、『歴代神話』、などといった厚めの本がきれいに並べられている。他にも小説本も数冊立ち並んでいる。床やベッドには何一つとして散らかっていない。
 クローゼットが半分開いており、そこにはヒースの代え用の騎士服が見え隠れしていた。
 押し掛けるように来ておきながら、娘は今更、申し訳ない気持ちになり始めていた。
 少しだけでも、先日の礼を言う機会が与えられればそれで十分だった。しかしそれが、思いもよらぬ手厚いもてなしを受けることとなった。
 加えて、年頃の男の部屋に来てしまった。聖騎士団副長を務めるヒースとて男である。何かされるような事があっても不思議ではない。
 しかし、ヒースにならば、と娘は心の底で考えてしまう。そんな考えが起こる自分がふしだらだと思うものの、どうしても消えない。
 娘には、特別な想いがあったのだ。それは、どうしても成し遂げたい想いである。
 ふと、ドアが開いた。
「すまない、待たせたな」
 ヒースが、盆の上にティーセットを携え、戻ってきた。
 ヒースはティーセットを机に置き、真っ白な二つのカップに紅茶を注ぐ。ティーポットから出てくる紅茶が、こぽこぽと、小気味いい音を立てる。
 剣の腕は一流のヒースであるが、料理の腕は皆無である。しかし、訓練が終わった後、たまの休みに本を読む時等、茶を一服したい事があるため、ヒースでも茶を淹れる事くらいはできた。
 ヒースは紅茶を注ぎ終えると、カップ一つを娘に渡し、もう一つは片手に持ちながら、ヒースはベッドに腰かけた。
 ヒースはずっ、と音立てて茶をすする。そして落ち着いたようなため息をつく。
「ふっ、訓練の後の茶は、やはり格別だな」
 ヒースは呟き、もう一口すする。
「どうした、飲まないのか? 安心しろ、毒や睡眠薬の類は入ってない」
 ヒースは冗談めかしく言う。
 別に、そのようなものが入っているのを、警戒していたわけではないが、娘は少し緊張して飲めなかった。
 しかし、せっかく淹れてくれたというのに、遠慮するのは逆に失礼だと思い、娘はカップに口をつける。
「いただきますっ!」
 一口茶を口にした瞬間、娘は驚いてしまった。
 高級な茶葉を使用しているのか、喉を通った瞬間に鼻腔に芳醇な香りが広がった。
 砂糖の加減も程よく、甘さで茶葉の本来の味を消していない。また、湯の温度も絶妙で、ゆっくりと味わうことができる。
「おいしい……」
 非の打ち所のない、最高の紅茶であった。
「おお、そうか。そう言ってもらえるとは嬉しいな。特にも、君のような可愛らしい娘に言ってもらうと、一層な」
「そんなっ、可愛らしいだなんて!」
 娘は顔を真っ赤にする。
「ははは……」
 ヒースは笑いながら、膝の上のソーサーに、カップを置いた。
「さて、ひとまず名前を聞こうか。俺はヒース。聖騎士団、ガーディアン・ナイツの副団長をしている。まあ、こんな肩書きなど、どうでもいいのだがな」
「私、マリアンヌって言います。あの、お茶を淹れるの、お上手なんですね」
 娘はマリアンヌ、と名乗り、率直にヒースの淹れた茶を褒める。
「はは、褒めてくれるのか、ありがとう。茶を淹れるのは俺の趣味でな。練習のない日は、茶を飲みながら本を読むのが習慣なんだ。まあ、人様から見れば、なんの面白味もないがな」
「そんなことありません。すごいじゃないですか。副団長をしながら、勉強もする、文武両道じゃないですか!」
 自らを卑下するヒースを、マリアンヌは違うと声を大にする。
「ふっ、これしかやることがないだけだ。ろくに友人もいない、俺はつまらん男さ。まあ、それはさておき、本題に入ろうか。マリアンヌと言ったな、君は何故こんな所まで来たのだ?」
「それは……」
 ヒースと他愛ない話をし、解けかけた緊張が、再びマリアンヌに走る。
「その……、あの時のお礼が言いたくて」
 マリアンヌは、視線を下に落とし、まごつきながら言った。
 ヒースが聖騎士団の騎士であることは、あの日助けられたときに、逃げていく男が言っていた。
 その為、マリアンヌは、騎士団が常駐するこの宮殿に来れば、ヒースに会えると思い、多少の無理は承知でやって来たのだ。
「ヒースさん、あの時は、本当にありがとうございました」
 マリアンヌは深々と頭を下げる。
「ふっ、律儀なことだ。わざわざそんな礼を言うために来たのか。まあしかし、ここで感謝を無下にするのは、騎士として、いや、男として道理に反するな。こちらこそ感謝しよう。気持ちを伝えるため、ここまでご足労いただいたことに」
 マリアンヌが顔を上げると、ヒースの微笑みが目に入った。
 銀髪で肌の色も白いためか、ヒースの笑みはどこか儚げに見える。
 仏頂面、というわけではないが、普段から大きく笑うことがないため、ヒースは笑顔を作ることが苦手であった。