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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 23

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 その夢には、ある人物が克明に現れていた。後ろ姿で顔は見えなかったが、白い騎士装束を身に着け、きれいな銀色の髪を流し、左手に剣を握っていた。
 マリアンヌにとって会うべき人は、天界におり、更にはかつて読んだ物語と同じく、騎士であった。
 やがて、マリアンヌへ迫る死の気配は、日に日に色濃くなっていった。
 視覚、聴覚、触覚。日を追う毎に少しずつなくなっていき、間もなく死を迎えるという時になっても、マリアンヌには死に対する恐怖は一切なかった。
 その時、マリアンヌの中にあったのは、天界で必ずや会えるであろう、騎士との邂逅の日を待ちわびる気持ちだけだった。
 マリアンヌはついに、現世では大切な人に出会うことはなかった。しかし最期気が付くことができた。
 そして十六歳の誕生日の日、マリアンヌは安らかに息を引き取ったのだった。
「……私は天界に来てからずっと、現世で最期に夢見た騎士様と会える日を待ち続けました。そして、私が天界に来て一年、ついに出会えたのです」
 マリアンヌが夢に見た騎士は、紛れもなくヒースであった。
 ヒースも、彼女が見た騎士は、自分であると確信していた。
「……天界と現世には、僅かながら繋がりがある。しかし、その繋ぎ目は常人には見ることはできん。できるのは、間も無く死ぬ人間だけだと聞いたことがある。どうやらこの話は本当だったのだな」
 死していく人間の死の恐怖を少しでも和らげ、天界という新たな道に希望を持てるよう、神々は人間の夢に干渉して、天界の風景を見せるのだという。
 こうした性質上、天界にいる者からすれば、調べようのないことであり、ヒースもこの話には半信半疑であった。
 しかし、こうして実証を得られた今、最早ヒースに疑う余地はなかった。
「ずっと、私はあなたに会いたかった。あの日助けられたのも、偶然じゃないと思うんです。ヒースさん、どうか私を、あなたの側に置いてください!」
 マリアンヌは長い月日を経て、ようやく愛すべき者と出会うことができた。その願いは必死なものだった。
「そう、だな……」
 マリアンヌの必死な願いに、ヒースの心も揺り動かされた。天界で生まれ、長い時を過ごしてきたが、これほどでに自分の事を想ってくれる者がいたであろうか。
「マリアンヌ……」
 ヒースはまっすぐに、マリアンヌを見つめる。
「はい……」
 マリアンヌもヒースの目を見る。
「俺は、友人もいない、寂しい男だった。他者との関わり方は、正直なところ、よく分からない……」
 マリアンヌは何も言わず、ただヒースの言葉を聞くのみである。
「だが、君が俺を想ってくれる気持ちは、とても嬉しい」
 ヒースはやわらかな微笑みを見せる。
「まだ、愛するということは分からない。だからまずは、俺の初めての友人になってくれないか?」
「っ!? それじゃあ……」
「俺の側にいてくれ、マリアンヌ」
 マリアンヌは、一気に溢れ出た涙を抑えることができなかった。生前から願い続けていた夢、愛すべき大切な人と出会うという、マリアンヌの長きにわたる願いがついに叶った。
「うっ……くっ……」
 感激の涙を流しながら、マリアンヌはヒースの胸へと飛び込んだ。
 ヒースは一瞬驚くが、すぐに胸で震えるマリアンヌを抱き締めてやった。
 そこにはすでに、愛が芽生えていた。
    ※※※
 騎士団の安息日には、普段騎士達の練習の掛け声、武器の音で賑わう宮廷の中庭も、静まり返っていた。
 休みの日は皆外に出て、昼間から酒を飲むなど、皆思い思いに休みを満喫していた。
 そんなたまの休みの日にも、静まり返った中庭で一人、ヒースが剣を振っている。
 ヒースにとってこの自主練習は、休みの日の日課である。
 素振りを主とし、瞬間的な動きによる走り込み、筋力増強のための重量上げなど、直接戦闘に役立つ自主訓練をしていた。
「……この辺にしておくか」
 剣の形の確認を最後に、ヒースはその日の練習を終了とする。
「おお、ヒース」
 ヒースは呼ばれ、振り返る。
「今日も一人で練習か。精が出るな」
「ユピター」
 ユピターが中庭にやって来た。ここに来たということは、彼もまた自主練習しに来たということになる。
「私もたまには、自主的に鍛練を積んでおこうと思ってな。ヒース、よければ相手になってくれないか?」
「すまない、ユピター。今日はもう終わりにしようとしていた」
 ヒースには今日、約束があった。そしてその約束の時間は、間も無くやってくる。
 今日はマリアンヌと会う約束をしている。
「おや、それは残念だな」
 先日、マリアンヌがヒースの所に来て、友人からという条件のもと、彼らは恋仲となったが、ヒースはこの事実を誰にも言ってはいなかった。
 しかし、ユピターにはほとんど予想がついていた。
 ヒースはひた隠しにしようとしているようだったが、長年ヒースを見てきたユピターには、あの時ヒースはどうしたのか手に取るように分かった。
 友人、ひいては恋人になったのだとユピターは思っていた。ユピターにとってこの事は、少し嬉しいことであった。
 ヒースは、自らの力を鍛えることばかりに専心し、その他の事にほとんど興味を示さなかった。
 自らの役目に忠実、と言えば聞こえはいいが、逆にそれを取り払ってしまったら、ヒースに残るものは何もない。
 親しい友人らしい友人もおらず、酒もあまり飲まない。
 ユピターにとって、ヒースは相棒であった。そのため、孤独に過ごすことの多いヒースを見ていて心配であった。もしも何かの拍子に、ヒースの役目が取り去られてしまったら、彼がおかしくなるのではないかという懸念である。
 しかし、マリアンヌという恋人を得たことで、ヒースには騎士の役目の他に大切なものができた。ヒースの成長を見られた気がして、ユピターは嬉しくなったのだった。
「まあ、騎士には休息も必要だ。ゆっくりな」
 ユピターは、満面の笑顔を向けた。
「ふ、そうだな。明日からはまた修行だからな……」
 ヒースは剣を納め、宮殿に築かれた時計塔に目をやる。
 時刻はまもなく、約束の時間に差し掛かろうとしていた。
「まずい! ユピター、それではな!」
 ヒースは慌てて中庭から去っていった。
「やれやれ、全く……」
 ユピターは一人、ため息をつく。
 ヒースには大切な人ができたが、それは彼の性分を変えるまでには至らなかったようだった。
 修行にひた向きで、鍛練となれば時間さえも忘れる。
 そんなヒースを、マリアンヌが受け入れ、支えてくれることを、ユピターは願うのだった。
 城下町から離れた町外れに、たった一軒だけ佇む家があった。それがマリアンヌの住む家である。
 拓かれた林道の先にある、大きな湖の湖畔にひっそりと佇んでいた。
 湖は清らかな水を湛えており、湖畔から見える景色はとても美しい。
 この素晴らしい景色を、居ながらにして一望できる家は、神が直接マリアンヌに与えたものだった。
 生前、不幸な人生を歩み、あまりにも早すぎる死を迎えてしまった彼女を哀れに思った神がいた。モイラの三姉妹の一人、アトロポスである。
 アトロポスは、クロトが紡ぎ、ラケシスが寸法を決めた糸を、最後に切る役割を持つ女神であった。