仮面ライダーGLAY 第一話コード・グレイ
体のサイズからして子供であろう。女の子であろうか?しかし問題は首から上
である。
「きみ・・・大丈夫か・・・・?」
声が震えているし、今度は無意識にボリュームが小さいのは、自分が居る牢屋
の「同室者」への配慮だ。
「う・・・・・・・うん・・・・ここは・・・」
今度は人間らしい反応がある。見たところ怪我などはなさそうだし、なにより
も人の顔である事に正直安心した。
「大丈夫か??」
「誰っ!?」
ギョッとして目を丸くし後ずさりをしている・・・。この反応を見る限り「正
常」な少女なのであろう。少女には悪いが、「人間」に会えた事で内心ホッとし
ている。
「落ち着いて!いいか?落ち着けよ?俺は北川風士(きたがわ ふうし)。東星
大学の大学生だ。ここはどこかの洞窟に作られた牢屋のようなんだが、俺も捕
らわれの身で正直今の状況はさっぱりだ。さっき目を覚まして混乱していた所
に君が運ばれてきたんだ・・・きみは?」
風士が語りかけると女の子は少し冷静になった。しかしだからこそ今の悲観的
状況を理解したのか、今にも泣きそうな声で応える。
「私・・・天使はるか・・・家で寝ていたら、音がして・・・ベランダに行っ
たらお化けが居て・・・ええと・・・そしたら何か光が眩しくて・・・」
まだ多少混乱しているようだが、少女の言う光には自分も覚えがあった。自分
の最後の記憶は大学でのサークル活動の一環ため一人で双子山に来て、夕方に
なり暗くなりかけた所突然現れた黒い影に眩い光を浴びせられ・・・。
そこから記憶は途切れている。誘拐の手口は同じのようだ。
「お兄ちゃんの他には誰かいるの?」
「あぁ・・・い・・・いや、俺だけだ。」
少女からは暗がりになっていてこちらの牢の「同室者」の姿は確認できないよ
うだ。少女をこれ以上混乱させないよう「同室者」の事はあえて伏せておく事
にした。「同室者」も元人間であり、同じように誘拐されてきたのであろうか?
しかし何をされたのかは全く見当がつかない。
「そうか・・・・・・」
「うん・・・」
こんな時は年長者である自分がこの今にも泣きだしそうな少女を励まし、勇気
づけてあげるのがセオリーであることは風士自身理解している。
が、どうにも人嫌いな性格が災いし、そういった人道的行為を行うのには躊躇
いがある。
これ見よがしに良い事をする人を演じると、自分のイメージには全く合わず途
端に馬鹿馬鹿しくなってしまうからだ。
しかし本当はどんな小さな良い事も、ほんの少しの勇気があればそれを胸を張
って実行できる事も理解している。
だが、できない。
「お前そんなキャラじゃないだろう?」と、もう一人の自分がつぶやくのだ。
そんな葛藤もあり、溜息と一緒に出る白い息が、暗くヒンヤリとした空気を更
に重くする。はるかと名乗る少女も膝を抱えうずくまっており、薄暗い洞窟の
牢屋にはうってつけの雰囲気が二人にのしかかる。
チラリと少女の首元を見ると銀の首輪は付いていないようである。
きっと連れてこられたばかりなのであろう。逆に自分にはやはり何かされてい
るのだろうと思うと、益々他人に気遣いをする気など失せる。
ぎぃいいい!
静寂を裂く様に再び鉄の扉が開き、二人はその方向を見る。今度は複数の足音
が近づいてくる。緊張で風士の心拍数と息が荒くなっていく。
自分の牢屋の前にぞろぞろと異形の者達が来てこちらを見ている。その中には
見覚えもある赤い四つ目のフード被った者も居る。
「ほっ、コード・グレイをテスト室に移動させよ。」
「マッド様・・・フロットが連れてきた子供の方はどうします?」
「ほっ、グレイのテストデータがある程度出てからだな、暴れるようならセデ
ーライトを使え。」
カチャリと牢のロックが外れる。
「おい・・・ふざけんな・・・何するんだ・・・!?」
異形の者達と距離を取ろうと後ずさりしたい所なのだが、首から下が自分の意
思と反して勝手に前進してしまう。
「なっ!?体が勝手に!!!」
首から下は行先を知っているかのようにずんずんと歩いてゆく。その歩みを止
める術もないまま鉄の扉を過ぎ、歩く振動と早い拍動だけが自分の首に伝わる。
「お兄ちゃん!!!」
はるかの声が微かに聞こえた。
(うっ、こっ、殺される・・・・)
そんな気がして、せめて優しい言葉でも掛けておけば・・・少しは死ぬ前に「良
い事」が出来た。と、天国で自己満足できるのだろうか?と思いなんとか首だ
けで振り返ろうとしたが、鉄扉が閉まる音でそれももうか叶わないという事を
理解した。
しばらく歩いていくと(と、言っても自身の意思ではないが)後ろに聞こえ
ていた複数の足音は聞こえなくなった。
自分の体だけが勝手に動きどこかへ向かっている。まるで恐怖や不安など全く
無いように、その歩調も変わらない。
廊下のような平坦な道を歩いているかと思えば洞窟のような岩場を歩いてもい
る。周囲は薄暗くどこに何があるかはわからない。
そんな中を体はズンズンと歩いているのだが、風士の顔だけは緊張で大粒の冷
や汗が流れる・・・
「くそっ、あいつら・・・どうするつもりなんだ・・・・」
不意にパァッと周囲が明るくなるが、手も動かない為に瞳を覆う事はできない。
目が慣れてくると無機質で白い壁に囲まれた部屋の中だった・・・。
広さは高校の教室程度であろうか・・・。天井には複数のカメラ。正面には銀
のシャッタ−が見え、そこには堂々と仁王立ちしている自分の姿が映る・・・。
「ほっほ。さてと・・・ペンタゴンコア導入型人間ベース試験体コード・グレ
イの性能テストを開始しようではないか。」
先ほど四つ目のバケモノの声が部屋中に響く・・・。
(試験体だって?それってやっぱ・・・)
「まずは素体のままで耐久能力を。」
「おい!なんだ!俺に何をした!?」
こちらの声は届いていないのか、風士を無視して何かが始まるらしい・・・
ビィー!というアラームが鳴ったと思ったら正面の銀シャッターがゆっくり開
いてゆく。
そこから現れたのは異常にガタイの良い男性である。筋骨隆々という言葉がぴ
ったりなボディビルダーのような体つきをしており、もしこの男と喧嘩をした
ら瞬殺されるであろう。
「ほっ、デクのリミッターは解除しておけ、多少骨が砕けようと構わん。」
「なんだ?・・・・耐久・・・なんだって・・・・?」
相変わらず理解できないまま状況だけはどんどん不安な方に向かっている。
この筋骨隆々の男と戦わされるのだろうか?と言っても体は動かないのだ
が・・・。「耐久テスト」・・・つまりそれは・・・。
シャッターが閉まると同時にもう一度ビィー!というアラームが鳴る。
「開始。」
心と体の準備が整わないうちに、無情な合図が不安を的中させる。正面の筋肉
男が拳を構えて真っ直ぐこちらに向かってくる!
「おいあんたっ!やめろ!!!」
必死に叫ぶが、近くでみた筋肉男の顔は目はうつろで口は半開きでヨダレが垂
れており正常とはとても思えない。
やはりこちらの言葉は届いていないのか?
その疑問はすぐに苦痛を解として吹き飛ぶ。男の丸太のような腕が繰り出した
ボディブローパンチがそのまま腹部に突き刺さったからだ。
「ぐぇッ!!!!!!」
作品名:仮面ライダーGLAY 第一話コード・グレイ 作家名:カイム