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同調率99%の少女(1) - 鎮守府Aの物語

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--- 7 発揮された実力



 提督から、同じ軽巡仲間である五十鈴との演習があると聞かされた那珂は、実質初めての戦闘に胸の鼓動の高鳴りを感じていた。戦いは特に好きでも嫌いでもなかった那美恵だが、今は那珂。世界を救うために戦う艦娘なのだ。ただの○○高校生徒会長ではない。肩書や立場がはるかにすごいことになるこれからに鼓動の高まりが止まりそうにない。

 その初めての活動が五十鈴との演習だ。彼女のことまだよく知らないので好きでも嫌いでもないが、熱いところもある那美恵は、この演習を通じてきっと仲良くなれると思い込んでいた。

 演習日当日は土曜日。五月雨達も学校が早く終わるためかなり早い時間には鎮守府に出勤し、訓練施設の中の演習用プールの脇にみなで集まっていた。

 本館よりも立派な工廠で五十鈴の艤装と那珂の艤装がギリギリまで整備されている。光主那美恵と五十嵐凛花は提督に連れられて工廠の前まで来た。


 凛花はチラチラと那美恵を見ている。というより、睨みつけている。
((なんだろう〜やりづらいなぁ〜なんであたし睨まれてるんだろう・・・))
 ほぼ話したことが無いため、那美恵が凛花の思いには気づくはずもない。ただ単に意味もなく睨みつけられている。

 艤装を身につけて同調を開始する。そして演習用プールへと続く水路に身を乗り出すと、二人とも沈まずに水面に浮いた。さながら船のように。
 その瞬間、那美恵は軽巡洋艦艦娘那珂、凛花は軽巡洋艦艦娘五十鈴に気持ちを切り替えた。

 本当の戦闘ではないため、積まれた砲弾には弾薬の代わりにペイント弾が入っている。爆破時の影響範囲を再現するため、ペイント弾は相手に命中して破裂したときに、同じ程度の範囲に飛び散るような設計になっている。
 それから、この頃の鎮守府Aではまだ教育の環境が整っていなかったのでまだ那珂には教えられてなかったが、使われる艤装は精神を検知する艤装そのものである。



 五十鈴とは真向かいの水面に浮かぶ那珂。先日からの心のワクワクが止まらない彼女は、試験の時に感じた以上の一体感を持ち始めていた。


 深呼吸をして呼吸を整え終わると同時に、提督から演習開始の合図が出される。


「てっー!」

ドゥ!!

 先手を打ったのは五十鈴であった。
 五十鈴はまっすぐ那珂目指して進んで10mを切ったところで単装砲を打ち込んだ。那珂は身を低くしてそれを右に避け自身も単装砲を撃つ準備をする。

 五十鈴は那珂が右(五十鈴から見て左手)に避けるのを横目で確認するのと同時に下半身をねじって身体をこれまでの進行方向とは逆にし、その最中に右腰についていた魚雷発射管から魚雷を、那珂がこれから到達するであろうポイントめがけて発射した。

 一方の那珂は五十鈴の初撃を回避し終わる頃。五十鈴が予想した通りのポイントに到達したので五十鈴はニヤっと笑ったが、その前に那珂の4基の魚雷発射管には3本の魚雷のエネルギー残量がないように見えた。

ドドドォォーン!!
ドパーン!!


 水中で魚雷同士が衝突した音が聞こえた。何本か偶然にも相殺されたのだ。
 魚雷はダメだったが、単装砲を持った右手がすでに那珂の方を向いている。一方の那珂の単装砲はまだこちらを向く準備ができていないようで、明らかに五十鈴のほうが引き金を引くタイミングが早い。

 しかし五十鈴が撃つより早く、那珂はなぜか残りの1本の魚雷を宙に向けて撃った。そして次の瞬間、その魚雷が水面に触れる前に片足をかけたのだ。五十鈴はあっけにとられて引き金を引くのを忘れた。


 艦娘の兵装が持つ魚雷は実弾形式ではなく、20xx年ではすでに実用化されてかなり経っている、高圧縮の光と熱のエネルギー弾形式だった。そのため普通は足など人体が触れたらその部分は焼けただれて溶けてなくなるか、吹き飛ぶ。しかし艦娘の艤装はエネルギー弾への防御対策もされており、あたっても実弾が当たったかのごとくその部分に傷がつくか、破損して表面の素材が吹っ飛ぶ程度だ。
 もちろん演習用なので魚雷も安全面を考慮されて、低温の爆風しか起きない程度に威力が抑えられてるが、それでも爆風に当たれば煽られて身体も吹き飛ばされる。


パァン!!!

 破裂音とともに爆風が巻き起こる。
 魚雷に足をひっかけた那珂が上空へ吹き飛ばされるのが誰の目にも見えた。


 予想外の行動に五十鈴の思考と対応は追いつかない。五十鈴の身体は那珂を狙うために当初の進行方向とは逆を向いており、方向転換の影響で身体が斜めになっていた。
 それは、上空からでは面積が広いただの的と化しているのに本人はまったく気づいていなかった。

 那珂は引き金を引きかけていたすべての14cm単装砲を、その広い的めがけて打ち込んだ。
「それーっ!!」


ドン!ドン!ズドン!!ドン!!!


 それは艤装の設計上制限された数を超える量とスピードだった。普段とはケタ違いの轟音が演習の場に響き渡り、提督や五月雨たちは思わず耳を塞いだ。

 バッシャーンと那珂がよろけながら水面に降り立つ。一方の五十鈴は身体の半分以上にペイント弾のペイントがかかっていた。

「そ、それまで!」
 提督が終了の合図を出して試合を終了させた。

 那珂の砲雷撃の様子を見ていて提督と五月雨は気づいた。艤装の動的性能変化が起きたのは那珂のほうだ、と。のちに提督がそう名付けるようになる、精神状態を検知してその性能を変化させる艤装の機能は、演習前から気持ちが高まっていた那珂に答える形になったのだ。

 那珂は水上でくるりと一回転し、ポーズを決めてニコッと笑った。その笑顔は提督に向いていた。
「イェイ! ええと……那珂、スマイルってところかな?」


 一方、体中がベトベトになった五十鈴は水面に倒れて浮かんでいた。何が起こったのか一瞬理解できなかったが、負けたと悟った。相手、那珂の砲撃の量はあきらかに通常の量を超えており、艤装の扱いも負けたと気づいた。喪失感極まりなくぼーっとしている彼女の顔には、べっとりと白いペイントがついていて間抜けな美少女っぷりを演出していた。
 青空を見ていた五十鈴の視界に顔が飛び込んできた。那珂だ。手を伸ばして五十鈴が起き上がるのを手伝った。

「……私の負けね。いいわ。認めてあげる。あなた面白いわね。」
「やっと笑いかけてくれた〜!五十鈴ちゃん演習前からずーっと睨んでくるんだもの。怖い人だと思ったよ。でもあなた良い人ね。これから仲良くしてね!」
「えぇ、こちらこそ。この鎮守府でたった二人の軽巡で、私の初めての軽巡仲間だもの。」

 プールサイドまで戻ってきた二人は握手をして改めてお互いを認め合った。その様子を提督は納得した様子で温かく見守っている。五月雨たち駆逐艦の子らは、自分らより高性能・高可用性の艤装に選ばれた、歳が近い身近な先輩が二人もできたので二人を取り囲んで全員で喜びを表しあっていた。