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同調率99%の少女(2) - 鎮守府Aの物語

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--- 5 夜戦




「……で、どうするの?また無人島の裏側まで行くの?」と五十鈴。
「うん。さっき深海凄艦と戦ったポイントの近くまでは行きたいかな〜」

 進む間、那珂から懸念していることを聞く五十鈴。
「深海凄艦の子供ねぇ。そう考えると親が近くにいるかもしれないってのはわかるわ。ていうか、あんたあの戦いの中でよく見てるわねぇ……」
 那珂の観察力に感心する五十鈴。えへへそれほどでも〜とおどけて照れ笑いする那珂。五十鈴は、那珂がおちゃらける表面の態度とはうらはらに観察力と真面目な思考、その根の部分を特に感心していた。


 日が落ちてきた。

 時間を確認すると6時を少しすぎる頃になっていた。目的のポイントまで来てあたりを見回したが特に異変はない。五十鈴が無駄な心配だったのよと言って帰ろうと提案するが、那珂は何かを考えているのか離れようとしない。

 ふと、那珂は日中の深海凄艦のことを思い出した。あの深海凄艦は目が光っていた。日中だったため皆特に気にはしていなかったが、幼生体だろうが成体だろうが、おおまかな特徴は同じだろう。あれが探照灯と同じ役割を持っていたとしたら、目立つために戦闘においては弱点となりうるにもかかわらず、生物的な特徴として深海凄艦のいずれもが持っていたとしたら、逆にそれを利用できるかもしれない。
 もしかしたら当たり前だが夜になったら寝ていて出てこないかもしれない。それならそれで仕方ない。敵は生物であって兵器を持つ人間ではないのだから。などと頭のなかで考えを巡らせる。

「ねぇ五十鈴ちゃん。しばらくは水面を見てて。このあたり一帯。」
「へ?海面ってこと?なんの意味があるの? ……まあいいけど。」
 五十鈴は意味がわからなかったが、あの那珂がいうことだ、なにか意味がきっとあるのだろうと納得し、それから数分間は軽く移動しつつ、海面を見ていた。実際には海面のその先、海中に目を光らせるのだ。



--

 すっかり夜のとばりが落ちていた。ちょっとした明かりでもわかるくらいだ。那珂と五十鈴はあれから30分くらいは何も起きない海面を見続けていた。やや飽きて二人ともあくびをしたそのとき、海中の奥で光る何かが見えた。



「「!!」」



 海中で光々と光るものはそんなにない。つまり深海凄艦の可能性が高い。そう考えた那珂は五十鈴に急いで指示を出した。
「五十鈴ちゃん、わるいけど静かに離れて!できれば10m以上。私はここで海面を蹴りまくって波紋立てまくるから!」
「え?え?なんで・・」
「急いで〜!」

 五十鈴は那珂の指示どおり離れる。そのさなか、那珂がさらに指示を出した。
「あたしが合図したらー、魚雷をあたしのポイントめがけて撃ってーー!」
「は?何言ってるのよ!? そんなことしたらあんたに当たりかねないでしょ!」
「いいからー!」
 普段の様子からはうってかわって鬼気迫る様子の那珂に驚く五十鈴。とにかくそのとおりにすることにした。

 那珂はその間足を海面から上げては下ろして、海面を蹴る仕草をする。波紋がたつ。バシャバシャと音がたつ。つまりものすごく目立つ。海中にある光は時々その光量を減らしてチカチカしているが、だんだん大きくなってきたのがわかった。那珂の足元めがけて何かが浮き上がってこようとしてる。

 その様子を斜めから見る形になっていた五十鈴にも次第にはっきりわかるようになっていた。そして理解した。那珂は囮になろうとしているのだ。五十鈴は那珂の考えをやっと理解した。
 生物ならだいたいは目立つものに注目する。しないのは偏屈なやつくらいだ。深海凄艦も生物なら、気配や音のするほうに近寄ろうとするに違いない。そのもくろみは当たったのだ。那珂が音を立てまくる一方で一切音を立てず、息を殺してその場でじっとする五十鈴。

 次第に近づいてくる光。その光の主は、深海凄艦だった。
 まだ数mはあるが、あと少しで深海凄艦が海面から出ようとしていた。那珂はまだその場でバシャバシャと海面を蹴り続けていたが、すぐに五十鈴に向かって合図を出した。


 五十鈴は那珂からは気づいてもらえないがコクリと頷いたのち、叫んで……。
「いっけぇーーー!!!」

ドシュウゥゥーーー


 魚雷を発射した。それは特に異常な高速というわけでもなく、制限を越えたエネルギーがこもっているわけでもない、普通に発射された魚雷だった。精神の検知による性能変化は起きていなかったがそれなりに速度はあった。

 魚雷は海中の中を進み、深海凄艦が海面に出ようとするポイントめがけて大体似た速度で弧を描くように浮き上がっていく。那珂はタイミングを見計らって、海面を思い切り蹴って側転するかのように離脱した。
 その直後。



ズドオォォォ!!!


 爆音と、バッシャーンと水がおもいきりはじけた音が混ざって響き渡った。合わせて爆発で波が立ったので那珂と五十鈴は波に足を取られそうになったが姿勢を低くしてスケートを滑るように波に合わせて海上を移動したので倒れることなく済んだ。

「やったわ!かなりでかい深海凄艦だけど倒したわ!私達の勝利よ!」
 爆発のポイントから約10mほど離れた位置にいる二人。五十鈴が喜んで那珂に近づこうとすると、那珂はそれを制止した。
「ちょっと待って!まだだよ!」

 と言い深海凄艦に近づいていき、自身の魚雷を身をかがめて海面ギリギリにして撃ち込んだ。そうして発射された魚雷は海中にそれほど沈むことなく、ズズッと動いて逃げようとする深海凄艦に目指して進み、再び大爆発と大波を立てた。

 今度こそ勝利だ、と二人は感じた。那珂は五十鈴のほうを向き、最初の演習時の時にしたポーズを決めた。
「イェイ! 那珂ちゃん勝利のスマイル〜!」

 アイドルばりにポーズを決める那珂は、彼女がみんなに話していたように、アイドルを意識したポーズで様になっていた。

「あんたねー、もしかして手柄横取りー?ひどくないー?」
「そんなことないよぉ!あいつがまだ生きてそうだったから追撃しただけだもん。」
 那珂の読みは当たっていたのだが、せっかく自身が攻撃して倒したのにもう一度するなんて……と感じた五十鈴は少し距離を開けている那珂に不満をぶつける。那珂はそれを手と顔をぶんぶん振って否定した。

 ふと五十鈴は、那珂の左腰についている魚雷発射管が背後を向いていたのに気がついた。


--



 その直後であった。


ズザザバァーー!!!


 那珂の背後から黒い影が海面から飛び出した。1匹目の深海凄艦とは別に、もう一匹上がってきていたのだ。完全に那珂の視界の外からの浮上であった。このままでは那珂がやられると五十鈴は焦って足で海面を蹴りだして進もうとする。


 が、当の本人は慌てる様子もなく、落ち着きはらって、深海凄艦をちら見するように首と頭だけを背後に少し回した。その直後那珂は背後に向けていた魚雷発射管から2本のうち1本の魚雷を発射した。海面に向けてはいない。海上から完全に外に出た深海凄艦の身体めがけていた。


 あれじゃ魚雷じゃなくて普通のミサイルじゃないの!と五十鈴は心のなかで突っ込んだ。