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同調率99%の少女(2) - 鎮守府Aの物語

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 物理的な砲弾ではなくエネルギー弾である艦娘の魚雷は海水に触れると急速に縮む性質がある。その際化学反応を起こして爆発を起こす性質が生まれ、光と熱を直接発する部分が物などにあたって光の照射口が遮られるか、もとの形状が崩れて凝縮された光と熱が拡散されると、爆発を起こす。縮む間は猛スピードを伴ってある進行方向に進む。
 もともとが強力な光と熱のエネルギー弾である魚雷は、ある程度縮んだところでその威力は多少残る。艦娘の魚雷の飛距離とエネルギー弾の収束した後の威力のシミュレーションからすると、深海凄艦に致命傷を与えるには十分な威力が残るとされていた。



 そんな魚雷を水に当てずに直接生物に当てればどうなるか。相当な大爆発を起こして吹き飛ぶに違いないと五十鈴は想像した。今までそんな奇抜なことをした艦娘は、艦娘制度が始まって10数年経つが居なかった。人体にあたると光と熱で消し飛ぶから安全面を強く考慮されてためでもある。
 だが那珂こと光主那美恵は奇抜な発想でそれをしてしまった。

 那珂が空中で撃ったエネルギー弾の魚雷は、海中を進むよりかははるかに遅いスピードで深海凄艦の身体にあたった。空中で普通に発射してはそんなに飛距離が出ないため、当てようと思ったら自身と相手の距離が3〜4mは近づいていないといけなかった。

 魚雷があたった深海凄艦からはシューっという音とともに表面が焼けただれる臭いがした。しかしそれだけであった。直後破裂する音がして熱風と煙が辺り一面に吹き荒れた。
 つまり、深海凄艦に多大なるダメージをあたえるはずもなかったが、めくらましやひるませるくらいには役に立つ。

 それを那珂は見届けた直後、左腕をフルに使って魚雷発射管を回転させつつ、全身を深海凄艦のほうへ向けて方向転換した。魚雷発射管が深海凄艦の方まっすぐに向いてすぐ、少し怯んでいた深海凄艦に向けてもう一本の魚雷を、先ほどと同じく空中めがけて発射した。

 深海凄艦に当たるより前に片手で何かを投げる仕草をしたのが五十鈴には見えた。


ズガアァーン!!
ズドドォーーーン……


 先ほどと同じように単に破裂して熱風が出るだけかと思われたが、全く違う光景が目の前に展開された。なんと、大爆発を起こして深海凄艦が吹き飛んだのだ。もちろん間近にいた那珂も吹き飛ばされたが、華麗な身のこなしで空中で方向転換し、なんとか着水していた。
 深海凄艦は直接魚雷があたって爆発したため、身体の大半が吹き飛んでいた。もちろん即死である。

 一連の様子を五十鈴はポカーンと口を半開きにして眺めていた。吹き飛ばされていた那珂は五十鈴の後ろにいた。

「あ、あなた……一体何をしたの……?」
「え?魚雷撃っただけだよ〜」
 吹っ飛んできた拍子で四方八方に散らばっていた髪を人差し指と中指で梳かして普段の髪型へと整えながら、あっけらかんと答える。いやそれだけじゃないだろう、と五十鈴は気づいていたことを口にした。
「いえ、あんた2本目の魚雷が当たる前に何か投げたでしょ?あれ何?」
「海水だよ。といってもほんの少ししか手元に残っていなかったけどね。」
「海水って……なんで?」
「1本めの魚雷見たあとにもしかしたらって思ってね。ビンゴだったみたい〜」
 くるりとその場で回ってケラケラ笑って答える那珂。

 その後の那珂の説明によると、艦娘の使う魚雷がエネルギー弾形式なのはわかっていたが、その仕組がたまたま気になった。エネルギー弾なのに海中を進んで爆発するなら空中で撃ったらどうなるか?結果は先程の通り。

 それを目の当たりにした瞬間、エネルギー弾たる魚雷はきっと海水の中に存在するなんらかの成分と化学反応を起こして爆発する仕組みを生み出すに違いないと瞬時に推測した。人体なら吹き飛ぶのに深海凄艦はなぜ焼けただれる程度なのか気にはなったがそれはひとまず置いておき、2発目の魚雷を発射する前に事前に海水を片手ですくい上げ、深海凄艦に命中する前に海水が魚雷にあたるように投げたのだ。

 海中と同じ条件に達した魚雷は深海凄艦に命中して、さきほどの通りになった。ただ異なるのは、海水には一瞬しか当たっていないためその威力は減退せずに済んだ。
 とっさの行動すぎて、五十鈴には那珂が何かを追加で投げたところまでしかわからなかったので、彼女の説明を聞いて驚きを隠せなかった。

 瞬時の判断でそこまでわかる・できるこいつは一体何者なんだと五十鈴はただただ驚くばかりであった。そして、あぁ、この光主那美恵という娘は、きっと将来自分なんか肩を並べるのも申し訳ないくらいのすごい艦娘になるかもしれない、と嫉妬とも憧れとも、尊敬とも取れる複雑な感情が湧き上がるのを感じていた。

 その後、成体である深海凄艦2匹を撃破したのが決め手だったのか、週が終わるまでは深海凄艦は一切現れることはなく、那珂にとって初めての出撃任務は大成功に終わった。それは鎮守府Aにとっても大成功となった。