辰馬×高杉
一通りの食事をし、夜も深けてきたころ…
高「辰馬、お前迎えは来るのか?」
辰「何の話じゃ?」
高「帰りの話だ。この調子じゃ更に悪天候になる。早いうちに帰った方がいいんじゃねぇか?」
辰「何言うてるんじゃ?わしゃ帰らんぞ?」
高「…は?」
辰「言っちょらんかったかえの?今日はこの船に泊まるぜよ」
高「帰れ」
辰「何でじゃ!こげな雨の中放り出さなくてもええじゃろ」
高「餓鬼じゃねぇんだ。お前と寝るなんざごめんだね」
辰「?…わしは他の部屋でも借りようかと思ってたんじゃが…」
俺としたことが…どうやら墓穴を掘ったようだ。
辰「おんし、わしと一緒に寝たいがか?」
高「…んなこと言ってねぇだろ。」
辰「なんじゃ~高杉。ほうかほうか。それじゃ今日はわしと一緒に」
高「誰が寝るか馬鹿。仕方ねぇから泊めてやる。今用意させるから少し待ってろ」
万斉にでも言いつけようと思い立ち上がった直後、一瞬視界が真っ白になりその後直ぐに空が割れるような爆音が鳴り響く。
辰「こりゃド派手じゃの…。大丈夫か高す…」
言いながら高杉を見上げると俯いたまま動こうとしない。
不思議に思い自身も立ち上がり歩み寄る。
辰「おい、高杉。どうしたがか?まだ目がくらんでるんか?」
高杉の顔を覗き込もうとしたときようやく我に返った高杉が動き出す
高「…っ、なんでもねぇ」
辰「高杉、待たんか…っ」
するとまた先ほどのような雷が鳴る。
そして同時に高杉の肩がビクッと震えるのを辰馬は見てしまった。
辰「高杉…?おまん…」
またしても固まっている高杉に近づき手を握るとかすかに震えていた。
高「は、なせ…」
辰「おまん、まさか…。雷、苦手なんか?」
高「んなわけねぇだろ!」
辰「じゃあ何でこげに震えてるんじゃ」
高杉が言い返そうとした時、再び大きな雷が鳴る。
すると辰馬は高杉を抱き寄せぎゅっと抱きしめた。
高「な…っ辰馬、離せっ」
辰「大丈夫じゃ」
高「…っ?」
辰「大丈夫じゃ。今日はわしが居る。大丈夫じゃ」
子供をあやすように背中をポンポンと擦りながら頭を撫でる。
高「…つ、ま」
辰「ん?なんじゃ?」
高「酒に酔った馬鹿の戯言だと思ってくれていい……。……今日はココに居てくれ…」
辰馬はふっと笑みを浮かべ
辰「わかってるぜよ」
いつの間にか高杉にしがみつかれていた背中に彼の体温を感じながら
ただ一言、そう返した。
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辰馬に後ろから抱きしめられる格好で床に座る二人
辰「腕枕でもしちゃろうか?」
高「このままでいい…。横になって寝るのは苦手だ」
辰「…今でも刀抱えて寝ちょるんか?」
高「それが一番落ち着くんだよ」
辰「……」
何も言わず高杉を抱きしめる腕に少し力が入った
高「なんだ」
辰馬の顔を見ようと振り向くのと同時に視界がぐらりと揺らいだ
高「!?…おい、何のつもりだ辰馬…」
辰「今日はわしと一緒に横になって寝るんじゃ」
高「…人の話聞いてたか?」
起き上がろうとする高杉だが、それを許さない
辰「駄目じゃ。逃がさん」
高「辰馬、やめ…」
辰「大丈夫じゃ。わしが居るきに。なんも怖くないぜよ」
高「っ…」
あぁこいつは…またそうやって何でも見透かすのか
高「…お前のその声が、時々急に大人びて見えることが、苦手だ」
辰「あははは、わしゃ大人じゃからの!」
高「…馬鹿にしてるのか?」
辰「だってわし雷とか怖くないきに」
高「~~っ!?てめ辰馬…!!」
辰「アハハ!痛い、痛いきに!暴れちゃいかんぜよ晋助」
高「…こういう時だけ名前呼んでんじゃねぇよ」
辰「こういう時だから…じゃろ?」
高「…かなわねぇよ、お前さんには」
辰「ええ子じゃの~晋助~!」
高「もう好きにしろ…」
俺は知ってる。
こいつは俺たちの中で1番頭がキレる。
なのにそれを表に出さず、わざとおちゃらけて相手の心を溶かしていくんだ。
だから今もこうやって…
辰「好きにしてええんか?」
高「…あ?」
辰「好きにしてええんかと聞いてるんじゃ」
あれ…?
高「急に何言…」
辰「なあ、晋助」
高「お、い…!?」
さっきまで真横にいた辰馬が俺に覆いかぶさってきた
辰「怖いことを忘れるくらい、わしとええ事するか?」
高「…!?お前、ふざけるのも大概に…っ」
辰「わしゃいつでも本気じゃ」
高「…!!!」
辰馬の顔が徐々に近づいてきたその時
万「すまぬ晋助、少しばかり話が……」
タイミングよく万斉が入ってきた。が……
この状況に驚かないはずもない。
万「これは……一体…」
辰「見ての通り取り込み中じゃ。その話は今せんといけん事か?」
この船に来たときとはまるで別人のような…威圧的な視線に万斉は思わずゾクリとする
万「…っいや、これは失礼した…。話は後日で大丈夫でござる」
少々慌ててその場を去る万斉。
面倒なところを見られたなと思う高杉に対し
邪魔者も居なくなったところで辰馬は再び高杉に視線を送る。
辰「で、どうするがか?」
高「お前の、何もかも見透かしてるようなその目も…苦手だ…」
辰「そいでも、嫌いじゃないんじゃろ?」
そんな自信満々の目で見るな。
本当に、敵わない―――――。
高「……あぁ、嫌いじゃねぇよ」
辰「晋助…、大丈夫じゃ。何も怖いことなんてないぜよ」
高「んっ…」
辰「っ…、しん、すけ」
無理矢理押し倒してきたくせに、触れてくる手は優しい。
俺が心の奥底に仕舞い込んだ感情まで溶かされそうだ…。
撫でてくれる手が、吐息が、名を呼ぶ声が、全てが俺を溶かしていく―――――。
高「たつ、ま……」
気が付けば周りの音など気にならなくなり、目の前の男の事しか考えられなくなっていた―――――。