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同調率99%の少女(3) - 鎮守府Aの物語

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--- 4 撤退戦



 那珂は五十鈴、五月雨、村雨とともに重巡級の注意をひきつけ、夕立と時雨を逃がすことに成功した。というよりも、重巡級の深海凄艦は時雨たちに興味を示さず、悠然と那珂たちの周囲を回るだけ。あれ以来攻撃を仕掛けてこない。これを好機に那珂たちは攻撃を仕掛けたかったが、装甲と思われる鱗や甲羅のようなものが硬すぎて単装砲・連装砲では歯が立たないのだ。無駄弾を撃つのはやめている。

「あんなアホみたいにでかい生き物がこっちに何も仕掛けてこずに周りをうろちょろするだけなんて、ほんっと気味悪いわね……」
 心底嫌そうに五十鈴が言う。
「あいつらが”今から攻撃するぞー”とか言ってくれればありがたいんだけどね〜」
「那珂さん、あいつらがしゃべれるわけないじゃないですか〜」
 ありえない冗談を言う那珂に村雨が突っ込んだ。

「あはは……」
その光景を見て乾いた笑いをする五月雨。


「ねぇ那珂。どうするのよあいつ。普通の砲撃じゃ全然傷つきやしないんだから、魚雷でやる?」と五十鈴。
「うーん、そうだねぇ〜……」
 考えこむ那珂。

「……でも魚雷だと相当うまく狙わないと当たらないんじゃ……」
 不安を口にする五月雨。それに頷く村雨。

 4人にあまり悠長に考えていられる時間はない。雨が降りだして以降隣艦隊の5人もさらに戦況が思うように進んでいない。向こうの駆逐艦3人は龍田から防御能力の低下を聞いたのか、怖がって腰が引けてしまっている。3人をかばうように天龍と龍田が前に出て重巡級と軽巡級を射撃している。
 那珂たちを囲うように泳いでいる重巡級が隣艦隊と戦っている2匹に合流してしまうと彼女らがさらにピンチになってしまう。

 ふと、那珂は思った。バラバラに戦うくらいなら、いっそのこと深海凄艦3匹をまとめてしまえばどうかと。数が多ければ勝てるというわけでもないが、9対3なら攻撃の作戦を立てようがある。もちろん敵がまとまることで自分たちの一角となる誰かを集中攻撃されるおそれもある。雨が降っている今、自分たちはただ海上を進むだけの普通の女の子同然の防御能力しかないのだ。軽い体当たりを食らっただけでも致命傷になりかねない。

 こうも思った。自分らの使う艤装、鎮守府Aの艦娘たちに配備される艤装は特殊なものであると提督から聞いていた。事実、最初に五十鈴との演習時に感じた艤装との妙な一体感、そして(あとから提督から聞いてわかったが)艤装の本当の力の発揮。
 艤装の本当の力を発揮できれば、自分、いや鎮守府Aの4人なら一気に戦況をひっくり返せるのでは?と。

 しかしその本当の力とやらの出し方がわからない。どうやればできるかはっきり覚えてないし、提督からそのあたりのことをきちんと聞いていない。思いを巡らせていくうちに、最初に艤装の本当の力を発揮できたのは五月雨だと提督が言っていたことを那珂は思い出した。

「ねぇ五月雨ちゃん。あなたが最初に艤装の本当の力を発揮できたときはどういう気持ちだったか覚えてる?」
 那珂は五月雨に尋ねた。
「え?なんですか、突然?」
 いきなり尋ねられて目をパチクリさせて?な顔をする五月雨。そんな彼女に那珂は説明をしてさらに尋ねる。

「提督から聞いたんだけどあなたが最初だったんだよね?うちの鎮守府の艤装のあの力を発揮できたのって。その時どういうことを思ったのか、覚えてる範囲でいいの。思い出してみて。」
 そこまで説明込みで尋ねられてやっと五月雨は理解した。
「ええと……あのときはー……時雨ちゃんたちが危ない目にあいそうになったから、無我夢中で魚雷撃ったことだけしか覚えてないです。ごめんなさい。」


 それだけでは不確かだ。そう那珂は思った。が、ポイントがなんとなくつかめた。仲間を大切に思うことか。
 さっきの夕立ならば時雨をやられた悔しさで、雷撃させればもしかしたら重巡級を簡単に撃破できる状態だったのかもしれないと那珂は少し後悔した。今そんな強い思いを抱くには色んなものが足りない。
 状況が膠着する中、那珂は思いを巡らせる。艤装の本当の力を発揮させられるだけの強い思い。最初の自分の演習を思い出す。ワクワクドキドキして挑んだ五十鈴との演習。それと、五月雨が時雨たちを大切に思ってのとっさの行為。共通点はなさそうで、さらにあれこれ考えている時間が今はもったいないと判断し、一旦考えるのをやめた。

 那珂がそう考えている最中、五十鈴が那珂にどうするか催促してきた。
「ねぇ那珂ってば!ホントにどうするのよ!雨もそうだけど、私達の艤装の燃料もそろそろヤバイのよ。一旦引き返して体勢を整えたほうがいいと思うわ。」

 そう言われて那珂は自分のスマートウォッチで艤装の状態を確認する。弾薬=少、燃料=少、魚雷のエネルギー=十分、艤装の健康状態=正常、同調率=96.95%、バリア=Disabledという状態だ。

 五月雨も五十鈴に続いた。
「私も一旦引き返したほうがいいかなと思います。隣の鎮守府の人たちにもそう言いましょう?」
「でもあの人達は戦っている深海凄艦が邪魔で思うように逃げられないんでしょ?あの人達を支援しないと……」
 村雨が現状を見据えてそう指摘する。

 隣艦隊の5人が2匹の深海凄艦から逃げられない理由の一つに、不幸にも2匹がさきほど時雨がやられたような、何かを放出して砲撃してくるタイプの深海凄艦なのだった。まさに艦船同士の砲撃さながらの戦闘がこれまでに繰り広げられていたのだ。
 それから那珂たちのそばには、あれ以来攻撃しようともせず那珂達の近くをうろちょろしているだけの不気味な重巡級がいる。

「わかった。戻ろ。旗艦の五月雨ちゃんに従うよ。ただ……せめてもう一体は倒したいかな〜。考えがあるの。」