美由紀
亜紀が何か言ってわたしを励ましているようだが、ほとんど耳に入らなかった。
「ねえ、亜紀」
わたしはタオルに顔を埋めながら話しかけた。
「わたし、無様だよね」
この二ゲームのわたしは、自分でも情けない、と思う。地に足がついていない、とはまさにこのことだと実感したほどふわふわしていた。
亜紀はわたしにどう答えようか迷っている様子だったが、結局正直に言うことにしたらしい。
「うん。これなら私が出た方がよっぽどマシだと思ったよ」
亜紀のこういう歯に衣を着せないところが好きだ。
「亜紀なんかもったいないよ。一年生が出てもわたしよりマシだったよ」
そう言ってまたタオルに顔を埋めた。
こんな無様な試合をやって、それでもまだ次の団体戦のメンバーに残れるだろうか。
みんなをがっかりさせるようなみっともない負け方をして、それでもテニス部の中にわたしの居場所は残っているのだろうか。わたしはこうやって、家でも学校でも自分で自分の居場所をなくしていってるんじゃないだろうか。
もう時間だ。コートに立たなくては。
少し気持ちの整理ができた。要するに、わたしの居場所を失いたくなければ、もっとマシな試合をするしかなさそうだ。
「ちょっと顔色が良くなったよ」
タオルをわたしから受け取りながらそう言う亜紀も、さっきよりずいぶん明るい顔になっている。
「ねえ亜紀、ちょっと聞きたいんだけど」
亜紀はスコアシートと鉛筆を取り出してスコアを付ける準備をしながら、なに?と聞き返した。
「もしわたしがこのまま負けてしまっても、友達でいてくれる?」
亜紀がスコアシートから顔を上げてわたしを見た。
「はあ?なに言ってるの?そんなの当たり前でしょ」
「今みたいな無様なまま負けても?」
亜紀が腕を組んでわたしを睨んだ。
「くどい。私はテニスの強さで友達を選んでるわけじゃないから」
亜紀がコーチングスタッフに入ってくれていて良かった。
「わかった。ありがと。もう少し頑張ってくるよ」
私は亜紀がかざした掌を右手でパチンと叩いてベースラインに向かった。
ベースラインに立ってコートを見た。大丈夫。さっきより広く見える。
コートの向こう側で辻本さんが、既にレシーブに備えて構えている。その向こうの観客席に、パパと女の人が並んで座っているのが見えた。それを見てもさっきみたいに心がざわつかない。うん、ちゃんと試合に集中できている。
私は辻本さんのポジションを確認し、サーブを放った。