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空跳ぶカエル
空跳ぶカエル
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美由紀

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 第六ゲームはわたしがサービスをキープしてゲームカウントは2-4になった。
 続く第七ゲームは辻本さんにあっさりサービスをキープされ、ゲームカウントは2-5、いよいよ試合も大詰めだ。

 ベンチに戻ると亜紀がタオルを差し出してくれた。
「ほら美由紀、ちゃんとやれるじゃない」
「うん。でもいよいよ追い詰められちゃったね」
 亜紀はドリンクをわたしに渡しながら言った。
「あのサーブを何とかしないとね。川澄さんより速いんじゃない?」
「うん。そうかも」
 わたしは頷いた。確かにあのサーブは脅威だ。速い上にスライス回転がかかっているのでバウンドが低く、リターンしにくい。もう何本エースを取られただろう。
 でも、あれほどのサーブがありながら川澄さんの二番手に甘んじているということは、他に弱点があるということだ。でもその前に。
「でも、その前にわたしのサーブをちゃんとキープしなきゃ」

 休憩を終えてコートに入るとき、パパの方を見た。パパはわたしをみて大きく頷いた。わたしもパパに頷いた。でも、隣にあの人がいない。
 あれっと思って周りを見ると、すぐ近く、フェンスに他の部員達と一緒に張り付いていたのでびっくりした。わたしと目が合うと両手の拳を顔の前で振りながら、頑張れー、って叫んだ。
 ちょっとびっくりして、わたしは反射的に目を逸らしてしまった。

 最初のポイントで、サーブを入れるといきなりストレートにハードヒットしてきた。そのリターンはネットにかかってわたしのポイントになったが、通っていればリターンエースになりかねなかった。どうやらこのゲームで決めにきているようだ。
 30-30からのポイントは長いラリーになった。このポイントを何とか耐えて取り、次のポイントはこの試合初めてのサービスエースを取って、なんとかサービスゲームをキープしてゲームカウントを3-5とした。
 さて、いよいよ相手のサービスゲーム。これをキープされれば負けだ。ここは死に物狂いでブレイクするしかない局面だ。
 最初のサーブは少し甘く入ってきたので思い切り叩いてリターンエースを取った。
「ナイスショット!」
 フェンスの向こうで部員達が叫ぶ声に、大人の女性の声が混じっていた。
 振り返ってみると、あの人が真っ赤な顔をしてガッツポーズをしていた。
 ところが、次のポイントではサービスエースを取られ、その次はセカンドサーブを叩いたリターンがサイドラインを割ってしまい、さらに再びサービスエースを取られ、あっという間に40-15となり、二つのマッチポイントを握られてしまった。
 辻本さんに背を向け、深呼吸して気を落ち着かせる。コーチ、パパ、部員達を順番に見た。今は彼らの視線が心強い。
 次のポイント、甘く入ったセカンドサーブを思い切り叩いたら、リターンボールがネットコードに当たって真上に跳ね上がった。心臓が口から飛び出た。
 跳ね上がったボールがコートのこちら側に落ちれば試合は終わり。
 だが、ボールは相手コートに落ちた。自分のポイントを確認するまで、わたしの心臓は止まっていたかも。
 でもまだ相手のマッチポイントだ。もう一度観客席を向いて深呼吸する。
 あの人がいない、と思ったらへたり込んでいた。顔の高さで金網を両手で掴んでいるため、わたしからは顔と両手しか見えない。目と口がまん丸に開かれたまま凍りついているみたいだ。この人、呼吸してるのかな?と心配になった。思わずくすっと笑ったら、止まっていた時間の分だけ早送りしたみたいに、泣きそうな顔から笑顔に目まぐるしく表情が変わって、最後に唇を引き締めて緊張した顔になり、わたしに何度か頷いた。
 そうだ。まだマッチポイントを握られていることに変わりはない。集中しなければ。

 結局、このゲームは40-15から四ポイントを連取し、土壇場で辻本さんのサーブをブレイクすることに成功した。最後のポイントが決まった瞬間は、思わず左手でガッツポーズを作り、吠えた。フェンスの向こうで応援している部員達も大騒ぎだったが、その声に混じって「うお〜っ」って叫び声が聞こえた。あの人だった。
 あのネットインで流れが変わった、というより、40-15になった時点で辻本さんが勝ちを意識してしまい、腕が縮んでいたような感じだった。
 ベンチに戻ると亜紀がボロボロ泣いていた。
「美由紀、あんた、やっぱりすごいよ」
 わたしに渡すはずのタオルで自分の涙を拭いてる。わたしは亜紀からタオルを奪って汗を拭きながらベンチに座り込んだ。
「でも、まだ4-5で負けてるんだからね。感動するのはまだ早いよ」
 観客席を見ると、コーチとパパがわたしを見てガッツポーズをしていた。フェンスでは部員達が亜紀と同じようにくしゃくしゃの顔をしていたが、中でもあの人は一番激しく泣きじゃくっていた。部員からタオルを借りて顔を埋めている。
 なんだかおかしな人だな、と思った。綺麗な薄桃色のワンピースを着ているから部員達に混じると浮きまくっているけど、やってることはあの中にいてもまったく違和感がないもんな。最初見たときの印象ほど背も高くないことにも気づいた。すらっとした、という印象は細いからそう思ったのか。でも細い割には出るところはちゃんと出てて羨ましいな、とかぼんやり思っていた。
 それと同時に、あの人にはどこかで会ったことがあるような気がした。気のせい?

作品名:美由紀 作家名:空跳ぶカエル