本当にデキちゃいました
<7ヶ月>
人間、同じ環境が長く続けば誰だってその状況に慣れるもんだと思う。
おかしな力を持っていようと俺も人間なので、結構この状況には慣れた。
…と思う。
「…オイ、臨也。ンなところで寝てねえで、寝るならちゃんとベッドで寝ろ」
何の因果か奇跡か知らねえが、臨也の腹に俺の子が出来たと解ってからもう半年以上が経つ。
正確にはもう八ヶ月近くになると言う。
臨月ってやつが近付いて、臨也の腹はそれなりにデカくなった。
とは言っても、もともと痩せていた臨也が少し太ったか? くらいにしか俺には見えない。
それでも腹の中で赤ん坊は育っているらしく、重たくなったと臨也は言う。
そのせいか、よくこうして疲れたとソファに横になる事がある。
臨也の妊娠が解ってから俺はほとんどの日を臨也のマンションで過ごしている。
しばらく表立った仕事も休業らしく(俺にとってはその方が有難い。また池袋で物騒な事をされても迷惑だし、俺も振り回されなくて良い)、何かあった時のためにと言う事で、新羅の勧めもあって一緒に暮らす事になった。
今日も仕事が終って新宿の臨也のマンションに戻ってみたら、ソファで転寝してやがった。
池袋の俺の部屋に臨也を住まわせても良かったのだが、パソコンで出来る仕事はしたいし自分の部屋の方が良いと言われた。
何より俺の部屋は煙草臭くて嫌なんだそうだ。
お陰で俺は、帰宅すると禁煙を強いられている。
…ああ、ウゼェ。
煙草が吸いたい。
「…オイ、臨也!」
吸いたいのに吸えないと言う状況になると、余計に吸いたくなるのは何でなのか。
ソファから起きようとしない臨也にイライラしながら声を張る。
それでも起きないので、俺は極力軽い力で寝ている臨也の頬を指先で叩いた。
俺の大声で起きない筈がないので、狸寝入りなのは解ってる。
「…痛いなぁ…叩かないでよ」
「手前が無視するからだろ」
やっぱり起きてやがった。
さほど痛くもねえくせに、臨也は俺を睨みながら身を起こす。
その動きはひどく億劫そうだ。
最近の臨也はよくこう言う動きをする。
「ンなところで寝てたら腹のガキにも悪いだろうが。寝るならちゃんとベッド行け」
「はいはい…シズちゃんはどうせ子供の心配しかしてないんだよねぇ」
「…ア?」
何なんだ。
今日はやけに突っ掛かってきやがる。
「…もう良い。今日は一人で寝るから、シズちゃんソファで寝てよね」
「……アア…?」
マズイ。
ブチ切れそうだ。
ウゼェ。ウザすぎる。
しかし今のコイツを殴る訳にはいかねえ。
重そうな腹を抱えて寝室に引っ込む臨也を、一先ず拳を握るだけに押さえて見送った。
仕事で疲れた身体を風呂で温めた俺は、寝室には入れそうもないので仕方が無く毛布片手にソファに寝転んだ。
クソ、狭ぇ。
小さな音でテレビを付けて見ていたが、欠伸が出て眠気が襲ってきたのでテレビも電気も消した。
狭いソファでウトウトと次第に眠りに落ちていった…のだが。
どれくらいウトウトと寝たのか、突然仰向けで寝ていた腹を殴られた。
「グハ…ッ」
何だ。
何なんだ。
せっかく気持ち良く寝てたッつーのによォ…!
窓から入る外の薄明かりだけの部屋の中、一瞬息が止まった。
別に痛くもないが、突然こんな事をされてキレない奴もいないだろう。
腹をさすりながら見上げると、すぐ横に臨也が立っていた。
「…何なんだ、手前は!」
「何で来ないの!」
「……ハァ…?」
「寝るなら何でこっち来ないんだよ…!」
…わけが解んねえ。
「一人で寝ろッつったのは手前だろうが!」
「だからって何でホントに…一人で…」
さっぱりわけが解んねえ俺の怒鳴る声に、終いには臨也はあろう事か泣き出した。
コイツが泣くなんて初めて見る。
思わず呆然と臨也を見ちまったが、まさか殴るわけにも喧嘩を続けるわけにもいかねえと頭が考えると、俺は臨也の頭を撫でていた。
「…解ったから泣くな…。ホラ、ベッド行くぞ」
「……うん…」
べそを掻く臨也はまるで子供みてえだ。
状況に慣れたとは言え、コイツのこう言う発作的に起こる変なところにはまだ慣れてねえらしい。
とりあえず俺は、臨也をなだめてから隣で寝る事にした。
・・・・・・・・・・・・
臨也さん、マタニティブルーです(笑)
キャラ崩れも甚だしい…スミマセ…(土下座)
作品名:本当にデキちゃいました 作家名:瑞樹