本当にデキちゃいました
<臨月>
僕とセルティの愛の巣であるマンションに、邪魔者が増えた。
まぁあの二人は良く何の前触れもなく邪魔しに来る事は来るけどね。
それは高校時代から今までも変わらない。
しかし今までのように邪魔しに来て治療を済ませた後は帰ってくれるならまだいいけど、これから暫くはあろう事かこの愛の巣に! 愛の巣に! 泊まり込まれる事になってしまった。
これぞ遺憾千万! 迷惑甚だしい事この上ない。
…けどまぁ、僕の患者だと思えば仕方のない事だし、邪魔者たちとは古い付き合いだ。
そう、邪魔者は二人なんだ。
一人は私の患者であり、一人はその付き添い。と言うか連れ合い? いや、結婚してるわけでもないから、相方? いやいや、漫才コンビでもないか。
ともかく。
俺が「妊娠している」と診断し、定期的に検診もしている患者が臨也。
そしてその付き添い? の静雄。
二人が同時に僕達の部屋に短期間とは言え引っ越してきた。
なぜかと言えば、臨也は事もあろうに男なのに妊娠し、既に臨月を迎える。
普通の病院は絶対嫌だと言うのは、まあ仕方が無い。気持ちは解る。
だから古い友人でもある俺の所に来るのも、やっぱり仕方が無い。
しかし私とセルティの愛の巣は、断じて病院施設ではないんだよ、臨也。
と、何度言ったか解らない。
一応闇でも医者は医者。
それなりに医療用具は揃っているし、ある程度の事は出来るように一部屋を診察室及び処置室にはしてある。
しかし大規模な外科手術、ましてや分娩用になんて出来ていないんだ。
さすがに手に追いきれないから、父さんのいるネブラの研究所を紹介するから、秘密保持も万全にするから、と臨也を説得したのだけど、研究所で産まれた子供なんてどこのバケモノか人造人間なんだ絶対嫌だ、と断固拒否されてしまった。
…男の身体から生まれる子供なんだから、充分にバケモノ染みてると思うんだけどね…。
そんな事を口に出したら、静雄に殺されかねないので黙っておいたけど。
でもやっぱり衛生面とか色々考えて、ウチじゃ無理だと私が更に言い続けたら、臨也はなんと自分の金で僕の診察室及び処置室を簡易改造してくれた。
静雄に頼んで部屋の荷物を全て外へ運び出し、業者を呼んで部屋を掃除、除菌して、無菌ビニールを張り巡らせた。
簡単に言うと、部屋の内側で巨大な風船をふくらませて、その内側を無菌状態に保ち、その中に処置台を置いて手術する、と言う事だ。
「俺の出産が終って俺たちが出て行けば、邪魔ならまたビニールも全部取っちゃえばいいじゃない。そのままでもこれから何にも影響ないでしょ? どうせ仕事で使うんだし」
と、臨也は笑顔で言った。
…確かにね。
ウチに転がり込んでくる患者が多いなら特に問題もないけれど。
僕はね、「出張闇医者」なんだよ…。
しかもここは一応、俺の部屋なんだけども…。
とは口が裂けても言えなかった。
だって臨也の隣で静雄が睨んでるから。
セルティが隣から肩を優しく慰めるように叩いてくれる事が、せめての救いだった。
…ああ、セルティ。君はなんて優しいんだろう…。
君だけが俺の天使、そう、せめて臨也の手術の時は、ナース服でぜひ僕の助手として隣にににいいいいいいいいい、痛い痛い痛い痛いよセルティ! 顔! 顔の造形が見事に破壊されるってば!!
…可笑しいな、口に出していたつもりはないのに。
ああ、痛かった…。
そんな訳で、僕とセルティと、臨也と静雄と、4人の奇妙奇天烈な同居が始まった。
静雄とセルティは仲が良いみたいだけど、セルティは臨也が苦手そうだから申し訳ないと思っていたんだけど…それも何とか大丈夫そうだ。
妊娠してからの臨也は、驚くほどに変わった。
紆余曲折を経てどうにか鞘に納まった静雄の子供がいるという事実が、臨也を至極穏やかにしているらしかった。
このまま静かに暮らせればいいんだけど、臨也の出産は当然帝王切開になる。
ネブラの研究所でもない僕たちの部屋でどれだけの事が出来るのか、不安にならないと言えば嘘だ。
その準備は俺も怠らないけどね。
そして……
そんな同居生活が続いたある真夜中、聞こえてきた客間から臨也のうめく声と静雄の怒声が始まりの合図だった。
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初新羅視点…難しいです;
四字熟語が浮かばない(笑)
作品名:本当にデキちゃいました 作家名:瑞樹