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緑と傍らの鷹

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 「高尾」と。
 小休止の中、思い詰めた表情をした監督から呼ばれ外に出て。
 彼は昔、自分達と同様にバスケを行っていて高名なプレイヤーだった。
その頃の面影を濃く残した長身と、大きな手で両目を覆い、縋るような声を絞り出していた。
 ……すまん。お前達が死に物狂いで戦っているのに、俺には何も出来ん。せめて……これはお前にしか出来ない事だ。
 どうかお前が上級生達を絶望させず……気持ち良く送ってやって欲しい。
 そう、言われて。
 だから俺がやらなくちゃいけないなと思い、いや、それはチーム全員と俺の意志でもあるから。
 大丈夫っすよ。
 俺に任せて下さいと、いつもと同じ笑顔でそう応じた。
 そして監督と別れて……先輩すみません、皆ごめんと。
 泣けるものだった今、泣きたかった。混乱の止まない頭を抱えたまま気付いたら帝光中の控え室近くに来ていて。
 さっさとここを去ろうと思えば不意に大きく荒々しい声が聞こえ。
 お前達の事は知らねえ、でも……何故だろうか。何故か聞く必要もあるのではないかと思い、付近の曲がり角に身を隠して様子を窺っていた。
 明らかに怒る声は僅かの間、静まったが再び室内を越えこの廊下にまで響く。
 あんた等。あれだけ点取ってんのに元気だなと皮肉を思ったが、その瞬間にやはり荒く、蹴るような勢いでドアを押し大声を挙げ出て来たその言葉と人物に高尾は愕然とした。
 ……点取り競争?
 ……下らない賭け?
 ……なあ、それって、何だよ……
 (俺の実力が及ばなくて、第一、第二クォーターで赤司から玩具のように扱われていたのは分かっていた。でも。)
 ……高尾、すまん。俺には何も出来ん。
 お前達……先輩達が必死に戦っているのに
 ……こいつ等は先輩達と皆を虚仮にし、弄んでいるのか。
 到底許し難い事だが、高尾は怒れなかった。
 ……手を挙げたいと。今日は二度、同じ思いを持ってしまった。
 しかし控え室から出て来たこのキセキの一人に手を挙げたとしてもチームに迷惑が掛かるだけで、自分の心も決して晴れる訳でもない。
 ただの最低な行為だ。
 そして。
 (確かに俺はアンタ等にしてみたら、暇潰しのオモチャなんだろうよ)
 しかし、それで遊ぶ側のこの男の目はどうだ。
 第二クォーターが終わる間近、偶々目が合った。
 その時の俺にボールを寄越せと強いる、個人技でない球技のバスケのプレイ中の我を剥き出しにした不満気な顔。
 誰にも邪魔はさせんと、
 受け取ったボールを我が物するような刃の如く鋭い様と、常人には出来ぬシュートを放つ姿。
 ……全て彼一人で始まり一人で終わる、自己完結の世界を見ているようだった。
ドアから出て来た人物……
 (緑間、)
 と言った。
 きっと今俺が目の前をのこのこ通ったとしても気付かねえだろうな、そう思う程怒りと苛立ちを露わにした表情で。
 アンタ、いや、
 (お前。)
 ……強いけど冷てえな。それで良いのかよ。
 何人をも気にも掛けることなく、ただ先へと行こうとする姿に試合中と同じように、高尾は駆られる様な思いに囚われた。
 決して器用でなく……不器用で。
 あの緑はどこか悲しくそして憐れだと。

 バスケットを入れ替えた第三クォーターは始まりその時には自分で遊んでいた赤司の姿はコート上には無く。
 柔軟な能力を持つ黄瀬も常人では捕らえられない黒子も抜けた。
 俺のパスは格段に通り易くなったが前半の二クォーター分で付けられた大差は最早埋める術が無く。
 コート上に残った2つのキセキ……第三クォーター開始からコートに入った青峰と緑間が時折言い争う様を見掛けながらも、俺はもう半分は壊れている目を使いながらチームに指示を出し続けた。
 結果は……先輩、監督、皆、謝っても謝り切れないものとなってしまったが、無味乾燥の様でスコアを見遣るキセキ達と、さっさと帰ると言わんばかりの相変わらず冷えた表情の帝光中の7番のSGを見て、こう決意した。
 俺は望みを捨てない。
 今は負けても必ず、
 俺は……あいつ等を
 あの冷めた男を必ず、きっと……
作品名:緑と傍らの鷹 作家名:シノ