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緑と傍らの鷹

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 今から。
 俺に纏わり付く一人のある馬鹿者の話をしようと思う。
 とりとめのない出来事の欠片で、だから自分自身も言わんとしている事が良く分からない、
 そう言う話でしかないが、それで構わんなら聞いて欲しい……と思う。
 まず初め。そいつは前から俺を知っているようだった。
 渡り廊下に差し掛かる道葉桜に囲まれる中。
 ……俺の名を呼び。
 終いには子供じみた仇名を(勝手に)付けられ。
 軽薄そうな男だ。そう軽蔑の思いでちらりと与えた一瞥の先に見えた奴の鋭い両目は明るい声と裏腹に全く笑っていなかった。
 ……あれは、何時もそうなんだ。陽とか明るいとか笑いと言った。そのこいつは今も自分を嫌い、敵意を持っているのだろう。
 自分が日々人事尽くしているのであれば、それで良い。だから人の心の機微なぞはどうでも良いと思うが、そいつの思う事は最近、何となく分かって来た。
同じクラスで前後の席で文字通り四六時中だ。
行動を共にし更に加えてピイピイとちびの鳥のように小うるさく付き纏って来る。
邪魔だと、過去に誰に対して何度もそうして来たように何故切り捨て追い払わないのだろうか。面倒臭いからだろう、きっと。
 そしてそいつは未だ入部して一ヶ月そこらであるのに、事ある毎に勝負を挑んで来た。
 お世辞にも良好な友人関係とは言い難かったが、ある程度は実力の近い黄瀬、得点力であれば自分と拮抗する青峰、行動を共にする事の多かった赤司と紫原のキセキ達も自分に1on1を望む事は無かったのに、“目”こそ持っているが誰から見ても今は実力の及ばないコイツが幾度も勝負を、と求めて来たからその度にこてんぱんに伸してやって。
 勝てんのにバカな奴だ、馬鹿者。
 こうして馬鹿だ阿呆だお前は未だ勝てんと、いや、確かに奴はそうなのだが、一言言って置く。
 コイツはこの超名門で超強豪でもある秀徳……知っているぞ。俺がキセキの冷徹な緑などと言う通り名で呼ばれていた中学時代に文武両道の“良い学校だ”と認めたバスケ部の新入部員達の中では俺に次ぎ実力者であり、強い。
 恐らく新主将で自分より大柄なあの人と無口なPF、幼げな顔に笑みを貼り付け轢くぞとただならぬ事を呟いている先輩……三人の実力者のこの人達はそれを認めている筈だ。
 ……この目持ちのチビがウチの一年では緑間に次ぐ、と。
 俺はそれに対して多分、何も感じていない。
 何も思っていない。
 「……“目持ち”は全国でもとても……本当にとても、珍しいから。」
 唯一自分が好敵手と認めた高い壁のような存在の男が言っていたのをぼんやりと思い出す。
 奴……赤司はそれをいつ、言っていたか?
 その言っていた相手は……誰に対しての言葉だったのか
 「……覚えていない。」
作品名:緑と傍らの鷹 作家名:シノ