緑と傍らの鷹
キセキの内の一つ。
怜悧冷徹の緑の輝きが加入した三年間は、ウチは緑間中心で行く。
一年以上前から監督はキセキの内の誰かを秀徳に呼ぼうと、勧誘をし続けていたらしい。
しかしその一つを何とか獲得した先の超名門の部員達のプライドは、名門であるが故に一般のプレイヤーのそれと比べて何倍も高い。
その全員の思いのほぼ全てを一人の為に潰して、
でも監督の方針がそうであっても、大坪さんや木村さんや宮地さんの同じコートで戦う三人の意志は例え俺一人だけでも大切にして活かさなくちゃなと思い、高尾はチームの攻守を組み立てる。
あいつが幾らシュートを打っても、チームを考え戦略を組み立てて行くのは俺。
起用された理由がただあいつの……お守りに過ぎなかったとしても。
(だって俺がスタメンのPGだから)
……チームが一番、そう考えていたのに。
全国クラスのハイレベルな大型Cの大坪、背だけでなくDFが巧く部内最高のリバウンダーのPF、木村。ミドルレンジのシュート精度も高く、大坪と木村、高尾と周囲を活かす事にも秀でたSFの宮地。
この“目”で見続け頭の中で温めていたOF、DFとそれに合った陣形を一つ一つ当て嵌め、思い描き形にし、それら数十通りの全てを裏紙や落書き用の紙にガリガリとシャープペンを走らせ、書き続けていく。
(楽しい)
本当にこの作業はそうだと高尾は心から思う。
身長と体格に恵まれなかった自分はこの球技では不利ではあるが、最高の先輩達で最良の戦略を模索し、組み立てていく。その喜びの何と大きな事か。
正にPG冥利に尽きると昂ぶる心のまま暫く手を動かし書き終え、シャープペンを机に投げ、頭の中の全てを赴くままに書き綴ったそれらを一度、目を通さなければと。
めくっていたその用紙が十枚目に差し掛かる頃だろうか。
左手に持った走り書きの束を見下ろし、高尾は愕然とした。
残る四十数枚のそれも多分……いや、恐らくは絶対、そうだ。
……見なくても分かってしまう。
「何でだよ……」
絞り出すような苦しげな声が、意識せずに口から洩れていた。
頭の中に描き続け半ば本能で書き上げた数十枚の“秀徳スタメンのPGが造るフォーメーション”の全てが。
気付けばOFの中心が全て緑間となり、仕上がりそれは皮肉なまでに見事に機能し、完成し。
守備についても彼の高さを活かし弱点を三人が補って行く戦略を作ってしまっていた。
奇異な目を持つ奴、と。
そう罵られ嫉妬もされた“目”を見開き高尾は震える。
“気付けば”、“そうしてしまった” ……そうではない。
俺は
……違う。俺は、
今迄チームの為に。監督の意志がある上でそれを踏まえていても、奴だけでなくチームが第一なのだからと考えていた。(……考えている。)特にコートの全員から頼られるPGは連携が最重要で、それに背く事は悪に近い。
そもそもバスケ自体がどのポジションに就こうと集団の競技で個人主義や個人プレイに走り、大きな力がぶつかり合えば必ず内部崩壊して行く。
なのに……
……この目でこの力で、いつか必ず、あの日から、
絶対に倒してやる。
ムカつく奴、嫌な奴
(俺はお前なんか大嫌いだ)
そう思っていたのに。本当は。
前からずっと分かっていた……分かって、気付いてしまっていた。
お前のプレイを、……お前を。
近くで見て、側に添い、もっと、もっと。
傍らに居たい
あの日から
どんなに悔しくてもそうはしないと決意していた両目から、水の粒が堰を切ったように流れた。
思いを書き綴った粗末な紙の束にぽたりぽたりとそれが落ち高尾は思う。
どうしてこんな思いを抱いてしまったのだろうと。