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緑と傍らの鷹

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 同じくスリーポイントラインより二歩程下がった位置でDFを躱そうと動き、二年生の四番を映像上で見ても縋る気配で見ている事が知れるSGも、四番の方へ向かおうとする動きも、ポジショニングの為の後退のどちらも出来ずに固められている。
その様を観ながら画面上のこの選手を同じポジションの……全国一のシューターである怜悧な緑の光をふと思い起こす。
……なら同じ状況であってもコートのメンバーに縋り、頼ろうとはしない。
二年弱見続けて来た彼のプレイスタイルから、桃井はそれを断言出来る。
あの緑であれば……打てる状況を強引にでも作っていき、例えフロントコートに立つ事の多い紫原や青峰、黄瀬の何れかにダブルチームが付き、結果キセキの内の一人がノーマークになったとしても、これが俺のシュートだ、……何人にも邪魔はさせんと、それを表情に出し絶対のシュートを放つ。
それがあの冷徹の緑で、そのスタイルは彼が他のキセキ達と袂を分かって、例えば進学し時を重ねて行っても決して変わらぬものだろう。
 話が反れたが、画面上で四番が対峙するPGのDFも執拗なものだった。
利き手を彼が持つボールと腕に触れる程に体ごと近寄り、対しヘルプハンドも他へパスを出させないよう、攻撃的なDFを取っている。
某校のOFの起点となるこの四番を封じ、これ以上の加点を阻もうとしている。
画面の中の四番が動いた。
 (……)
 ……うちのキセキ以外の一軍はそれが出来るだろうか……いや、無理だろうと桃井が直感し、正しく見事意外に咄嗟の言葉が見付からない程。
その背面で右手を僅かに動かし、幾らこの球技に慣れている選手でも自らの死角となる背面で、こうやって造作なくボールをヘルプハンドに持ち替える事は多分無理だ。
 まるで別のものが見えているような……
 またたきの間を許さない速さのクロスオーバー・ドリブルでボールを持ち替え、そのままヘルプハンドでのドライブプレイで相手のPGを抜き、すぐさまジャンプシュートを放つ。
 自分以外のメンバーが縦にも横にも封じられ、頼りにされている事を察した上で眼前の相手との1on1を選択した判断力、そして抜き勝ち自ら点を取りに行きチームを盛り立てる力、抜き去った後の動きとヘルプハンドでのドリブルの速度も、帝光で数多の選手を観察し続けていた桃井の目から見ても突出していると思わせるものであった。
 同じポジション同士の1on1の勝利により、某校の他選手達の顔色が変わる。
 それは試合の中のごく僅かな一コマで、決して派手なプレイではなかったが、某校は第四クォーターまで順調に得点を重ね……結果、相手校に25点の差を付け試合を終えた。
手を叩き、或いはベンチから立ち飛び上がり喜ぶ某校のメンバー達が映り、映像は切れる。
何も映らなくなった画面を前にし、桃井は考え込んでいた。
 ……強豪校の二年生の四番は、桃井が仮想していた頑強で大柄のCやPFやSFでも、シューターでも無かった。
確かに速さ、ドリブルの巧さ等の基礎的なスキルは帝光(ウチ)の一軍の中に放り込まれても、遜色ない実力を持つ事は今見た映像だけでも十分に分かり得た。しかし……
最近名を馳せるようになった強豪のこの某校でバスケの基礎中の基礎のスキルが高いだけで下級生が四番を取れるものだろうか。
 幾つかの気掛かりの箇所に戻り、映像を繰り返し眺める。
……例えばこの。第三クォーターの最序盤で攻撃の起点となる動きを警戒され、ダブルチームを付けられた。右コーナー……利き手が右の選手であれば、ドリブルもシュートも苦手な場所に追われ、更にこの四番の弱点だが、小柄で上がないのでパスが通らなくなったパターン。
 何故、二名のDFに阻まれ見辛い……と言うより物理的に見える筈のない逆方向のフロントコートを動くノーガードのメンバーに正確なパスを出しているのか。
 何故、遥か後方のメンバーへOF、DFの指示を直に出せているのか。
 何故、この選手には長距離のパスが阻まれやすいのか。
喰い入るように見詰めていた映像を巻き戻し、桃井は再度某校の二年生の四番の動きを見ていく。
 バスケットボールのボールのポジションに優劣はない。しかしPGは非常に難度の高いポジションだと桃井は思う。
 スターティングメンバーだけでなく、コートに出る可能性のあるメンバー全員のプレイスタイルの長短を把握し、各個のその能力を戦略として組み立てていく能力。しかし頭の中の計算だけで上手く行くものではなく、選手たちの体力を考え試合のペース配分を行い、指揮を執っていく。
 加えて身体能力の高さと毎日の鍛錬は当然の前提であるから、だから本当に”使える”PGの人材はこの帝光の一軍でも、激戦区の都内や神奈川県下でも少ない。
 巻き戻した画面上にOFを阻まれ不安げな表情を四番に向けるSGの姿が映る。
先程見た第二クォーター終盤の一場面だ。
 PGは頭脳労働だがしかしその当人はコート上に縋る者のいないポジションでもある。
しかしこの四番はメンバーに甘え依存し頼る匙加減が非常に上手い。帝光の一軍控えで入っても遜色ないレベルの実力者と言えるが、この力を活かし切れていない感がある。
 そして到底信じ難い事だが、
 (……恐らくは)
 この四番には位置も距離も、本来であれば見えないものが見えている。
 例えば一年の見習いのマネージャーや時に桃井自身もコートのエンドラインやサイドラインにこぼれたボール拾いの雑用を行う。その時には練習する部員達の邪魔にならないように注意し、コートの中の端に向かいボールを拾おうと屈むが、その時には勿論彼等の練習する姿の一つ一つが視野に入る筈がない。
パスミスが無いところも桃井に上手い、と思わせる原因の一つであったが、この選手には実際にコート上のどこにいたとしても、敵味方全ての選手の動きが見え……だから遥か後方のメンバーに攻守の指示が出せるのだ。
 なら、この四番には彼の立つコートがどのように見えているのかと、続き桃井は映像を見る。
 第四クォーター中盤、早くボールを回さなければと急いたのだろう。相手校SGからPGのパスを、四番がヘルプハンドで止める。
 (……)
 対峙する相手PGへのDFを崩さず、それどころか視線すら動かさずにノーリアクションのまま高速のボールを奪う。
 やはりこれは常人が出来る技ではない。
 四番のこの一連の動作を二度流し、三度目の繰り返しで桃井は止めた。
実際に画面上で戦う相手校の選手達も、四番の性質の特異さに気付いているのだろう。
 急いだパスとは言え、それはDFに阻まれ見えず四番の死角になる事を完全に狙ったパスだった。
 その見えない位置の視界にいる筈のないSGの前動作の地点で彼は既にヘルプハンドを動かしている。
 ……自分の力を見初めた帝光(ウチ)の主将とは異なるが、この四番も何かしらの目を持っているのだろうか。
 ……目
 ……
 何分考えていただろうか。
 暫く考え込みはっと思い浮かべたように桃井は走り出す。
 部屋を出て小走りで階段を上がり、二階の私室へ。
 PCを立ち上げ、この二年弱の内彼女が歩き、脳で考えて得た情報の収められたデータを立ち上げる。
 ……背中に目があるなど愚かな事は考えない。
作品名:緑と傍らの鷹 作家名:シノ