同調率99%の少女(4) - 鎮守府Aの物語
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そこで那美恵は3人に提案した。
「ね、ね!みっちゃん! それに三戸くんと和子ちゃんも、まずは一度鎮守府に見学しにこない?百聞は一見にしかずだよ!」
「えー!私達が鎮守府に!? ……部外者だけどいいの?」
突然の那美恵の提案に、三千花が当然の心配をする。
「マジっすか!?ホントにいいんっすか!?」
三戸は急にハイテンションになり聞き返した。
「だって、ここまで話したんだもの。みんなにも実際の鎮守府とか艦娘とか見てもらわないと協力する実感湧いてこないでしょ?」
「まぁ、それはそうだけど。」なおも良い反応をしない三千花。
逆の反応をするのは三戸だ。客観的に4人を見ても、テンション高く反応しているのは三戸だけだ。
「ほぉ〜! 直接色々見せてもらえるなら最高っす。生艦娘とか、くぅ〜!ワクワクだ〜」
あまりにテンションが変わっているので和子が一言でツッコミを入れた。
「……変な考えてますね?」
三戸の(男としてはある意味当たり前な)反応を、和子は敏感に察知してギロリと睨みをきかせた。
3人を代表して三千花が改めて那美恵に返事をした。
「提督って人や艦娘の皆さんのお邪魔にならないんであれば、行ってみましょうか。ね?」
三千花は三戸と和子に視線で同意と確認を求めた。二人は「はい。」と返事を返した。
「じゃあ今度鎮守府に行った時に、あなたたちの見学のことも話しておくよ。それまではこの話はこのメンバーだけの秘密ね。いいかな?」
「わかったわ。」
「了解っす。」
「はい、わかりました。」
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「はぁ〜。疲れた〜。」
3人から賛同をもらった那美恵は緊張の糸が途切れたのか、昼間のように力なく机に突っ伏すようにへたり込んだ。それは、同じ学校内でようやく協力者を得た喜びと安堵感、そして今朝方まで出撃任務で外出していたがゆえの疲れが複合的になったものであった。
親友の様子を見るに、本気で疲れているのだと気づいた三千花はねぎらいの言葉をかける。
「本当につらそうね。お疲れ様。そんなにハードワークだったの?」
「いや〜今回は特別だったんだよぉ。昼間三戸くんと和子ちゃんにも話したんだけどさ、ちゃんと手順踏んで学生艦娘になっておけば、今頃は家でゆっくりのんびりお休み中でしたってことですよみちかさんや。」
「なみえが弱音を吐くなんて……なんというか珍しいわ。でも嫌ではないの?」
三千花の質問に那美恵はテーブルに突っ伏しながら口をわずかに動かして答える。
「嫌じゃないよ。むしろ好き。なんだかんだで楽しいもん。学校外のいろんな人と出会えるのがいいかなぁ。」
「へぇ〜。」
疲れを見せてはいるが、本気で嫌ではなく表情や態度の端々で肯定的な様を見せる親友を見て、三千花は静かに興味をたぎらせるのだった。
その後30分ほど生徒会室でおしゃべりしあう4人。最初に三戸が帰り、次に和子が友人と帰り、最後に那美恵と三千花が残った。
「お〜いなみえ。本気で寝ないでよ!そろそろ帰ろうよ?」
「う〜〜〜ぃ〜〜〜〜。」
「コラっ!女の子がヨダレ垂らしながら唸り声出すな!」
しゃべるのも億劫になっていた那美恵は気づいていなかったが、声を出してなんとか反応を示そうとしていたら、よだれを少し垂らしてしまっていた。三千花はそんなだらしなくなっている親友にピシャリと注意をして彼女を起こした。
普段の那美恵の行動の仕方を知っている三千花が怪訝に思うくらいの動きでその後もダラダラと歩いて那美恵は生徒会室を出る。鍵を閉めて三千花と二人で帰路につくことにした。
下駄箱までの道のりも那美恵の足元はふらふらとしている。
「ねぇなみえ。ホントに大丈夫?なんだか飲んだみたいに千鳥足になってるわよ?」
「だいじょーぶだいじょーぶ。別に飲んでるわけじゃないよ。疲れてるだけだって。」
「…にしても急にあなたフラフラになってない?身体大丈夫?」
親友のしつこいくらいの心配の言葉に那美恵は普段の調子で三千花の背後に周り、髪の毛を引っ張って茶化す。
「ちょ!なみえ!何すんのよ!」
「心配性のおじょーさんはこうするとやわらかーくなるんだよねぇ〜そりゃ!」
「ふぁ……!あっ……やめっ!」
校門を出るまでの道のり、那美恵は三千花をいじってイチャイチャしながら進む。一瞬三千花は小走りになるが、那美恵は歩幅を合わせないでわざと歩き、彼女の髪を指と指の間に挟み込んでサラサラっと撫で回す。校門までの間は部活動をしている生徒くらいしかいないので人は少ない。その寂しげな空間に三千花の嬌声が一瞬響いた。
似合わぬ声を上げてしまったと気付き、三千花は那美恵の方を振り向いて割りと強めのげんこつで彼女の頭を小突いた。
コツン!
「……いったぁ〜。ぐーはやりすぎじゃないですかね、ぐーは……みちかさんや。」
「人がせっかく真面目に心配してあげてるのにそんなことするからよ。」
「それにあたし疲れ気味なんですが。」
「そんだけ元気なら心配ないわね。」
親友の突き放すような態度に本気ではない怒気を含んだ声で言い返す那美恵。当然、三千花はそれを見破って、あくまで冗談を諌めるように言い放った。
「ふぅ……ゴメンねみっちゃん。」
那美恵は一息ついたあと、ふいに真面目に返す。
「まぁ、冗談は置いといて、疲れてるってのはホントだよ。」
「ほらやっぱり無理してる。ふざけてないで真面目に帰りましょうよ。」
「うんまぁ、それだけじゃないんだけどね。なんだかさ〜、安心しちゃったってもあるかなぁ。」
「安心?」
「うん。今までいろんなことやってみっちゃんには助けてもらったけど、今回のこの艦娘のことだけは、きっと今までとは比べ物にならないくらい大きなことになる予感がしたから、言い出せなかったんだ。」
急に真面目に返されて三千花は内心慌てたが、表面上は冷静に返した。
「……にしたって、ずっと付き合いのある私にもわからないくらいに黙ってるなんて。いくらんなんでもやりすぎよ。」
「ゴメンって。みっちゃんは常日頃真面目だし変に心配症なところあるから、余計な心配かけたくなかったの。でも今回打ち明けられてよかったよ。ずっと黙ってるなんてやっぱあたしには無理だわ〜。話せて、安心したってこと。」
真面目に三千花に話していたかと思うと、途端にいつもの調子に戻る那美恵。顔と上半身は進行方向に戻っていた。
「まぁ、なみえにはなみえの事情とか考えあるのわかってるし、私達に打ち明けたんだから今まで溜めこんでた分、これからは私達を頼ってよ?」
眉をひそめた心配顔から、表情を解きほぐす三千花。彼女は那美恵が急に疲労困憊になった理由がなんとなくわかった気がした。
普段茶化されているので、たまにはと思い三千花は那美恵の頭に手を伸ばして軽く撫でてみた。
「おぉ!?みっちゃん!?どしたの突然?」突然のことにビクっとしてのけぞる那美恵。
「なんとなくね。たまにはあんたを労ってあげる。」
「んふふ〜。みっちゃんに頭ナデナデしてもらうのすんげー久々。」
作品名:同調率99%の少女(4) - 鎮守府Aの物語 作家名:lumis