主人公惣受け物語~アニポケ・ジョウト編~
第61話「小さな新鋭」
前書き
小さな…とはいっても、カスミやハルカと同じくらいの背丈ですが(笑)
本作品初の読者から提供されたオリキャラです。それではどうぞ。
「あの、すみません。カスミさんとハルカさんですよね?」
「えっ? そうだけど」
「あなたは?」
カスミとハルカに声をかけてきたのは、赤いシャツと白のスカートに白の上着を羽織ったどこかおとなしい雰囲気のある少女であった。
「私はミノリといいます。私もタンバシティで開かれるコンテストに参加するためにやってきました」
「あなたも参加するのね。てことは、あなたもポケモンコーディネーターということでいいかしら?」
「はい」
ミノリと名乗るその少女はカスミやハルカと同じく、ポケモンコンテストに参加するためにタンバシティに来たそうで、彼女もポケモンコーディネーターの一人とのことである。
「それじゃあ、わたし達とはライバルになるわね。ところでどうしてわたしとカスミに声をかけたの?」
「少し前からお二人のことを見つけて、物陰からずっと話しかける機会をうかがっていました。何か覗いているみたいになってすみません」
「あっ、別にいいわよ。あたし達もちょうど休憩に入るところだから少しあたし達と話さない?」
「はい、喜んで」
陰でカスミとハルカのことを見ていたために申し訳なさそうに答えていたが、カスミとハルカが気を利かせてくれたおかげで気が楽になったようだ。カスミ、ハルカ、ミノリの三人は近くにあったベンチに腰かけて雑談を始める。そこでミノリは自分のことは話し始める。
「私自分で言うのもなんですけど、元々引っ込み思案の性格だったのです」
「そうなの? あたし達に声をかけてきたときにはそんな素振りなんてなかったように見えたけど」
まず、ミノリは元々引っ込み思案だったことをカスミとハルカに告げる。ただ、ミノリの素振りからしてカスミとハルカにはとてもそんな風には見えなかった。そこへミノリはモンスターボールを一つ取り出して、ある一匹のポケモンを出す。
「ピジョットォ」
「ん? どうしてピジョットを?」
ミノリが出したのは一匹のピジョット。通常ピジョットは甲高く鳴くことで知られているが、このピジョットがモンスターボールから出てきたときに出した第一声は控えめに抑えてあった。このことからして、おとなしい性格のピジョットである。ハルカはミノリにピジョットを出した理由を尋ねる。そこでミノリは、自分とピジョットが体験したあるエピソードを話し始める。
「以前姉やポケモンたちと一緒にとある森を歩いていたときのことです。楽しく散歩をしていたのですが、運悪く密猟団の罠にはまってしまい襲われたのです」
「密漁団に襲われた!? 大丈夫だったの?」
「私たちが散歩をしていた森は以前から密漁団の被害が多発していたところで、今思えばもっと気を付けておくべきでした。密猟団に捕まったときはもうダメかとあきらめていましたが、そこへあるトレーナーが助けに来てくれたのです」
ミノリが話したのは、以前姉やポケモン達と一緒に散歩をしていた森で密猟団に襲われそうになったときのことである。自分たちの不注意で密猟団の罠にはまってしまい絶望的な状況に陥った時に、その場に駆け付けた一人のトレーナーに救ってもらったのだと言う。ミノリはそのトレーナーに特別な思い入れがあるのか、そのトレーナーについて話を進める。
「その人は連れていたたった一匹のピカチュウで密猟団のポケモンに立ち向かったのです。初めは10数匹という密猟団のポケモン達に苦戦を強いられていましたが、素早い身のこなしと不利な状況にもおじけづかない精神力ですべてのポケモンを倒しました。ピカチュウはバトルとコンテストの経験が豊富だったのか戦いぶりも素晴らしく、私達は思わず見とれてしまいました」
「いくらバトルやコンテストの経験があるとはいえ、たった一匹で戦い抜くなんてすごいわ」
「そのトレーナー、見ず知らずのミノリにそこまでして助けてくれるなんて。すごくカッコいいかも」
密猟団を相手に勇猛果敢に戦ったトレーナーとピカチュウの雄姿は、たとえ会ったことはなくてもカスミとハルカには輝いて見えたようだ。2人はトレーナーとピカチュウに心ばかりの賞賛を送る。
「当時はポッポだったこの子も密猟団に捕まってしまったのですが、そのトレーナーに助けてもらった恩をものすごく感じているんです。事件後、この子はそのトレーナーのことが気に入ったらしくてものすごくなついたんですよ。主の私が妬いちゃうくらいに」
「ピジョットもそのトレーナーの勇気と優しさに心を打たれたのね。そのトレーナーの名前とか聞いていないの?」
「残念ながら、お互い名前を名乗る前にその人とは別れてしまいました。ですが、いつか私がポッポと共に強くなって再びお会いしたときにバトルしてくれませんかとお願いしました。そのトレーナーはバトルがとても好きなようで快く引き受けてくれました。もちろん、相手はピカチュウです」
「あなたがピジョットを出した理由がよくわかったわ。一緒に助けてもらったピジョットでポケモンバトルをすることで恩返しをしたいのね」
「私のピジョットは普段争いを好まないのですが、そのトレーナーとのバトルのことを思うととても熱が入るようで技や動きにもキレが増すのです」
ミノリ同様ピジョットもトレーナーとピカチュウに対してかなりの恩義があるようだ。普段争いごとを好まない平和主義の性格が一変して、好戦的になることもしばしば。その証拠に今もいきなり羽をバタつかせて高らかに鳴きながら、興奮したように空高く飛び上がる。ポケモンの性格を一変させるほど影響を与えるとは、そのトレーナー恐るべしといったところであろう。
「ふふふ、ピジョットったら。それでは私はピジョットを追わなければならないので、ここで失礼させていただきます。それと私のことばかり一方的に話してしまいましたが、ジムリーダーのカスミさんや『ホウエンの舞姫』のハルカさんとお話しできて本当に良かったです」
「こちらこそ、あなたに会えて光栄よ。あなたを助けてくれたトレーナーに会えるといいわね」
「今度会うときはコンテストの舞台でね」
空高く舞い上がったピジョットを追うため、ミノリはカスミ、ハルカと別れてその場を後にした。ミノリが去った後、休憩も済ませてパフォーマンスチェックに戻ろうとするカスミとハルカであったが、ここでミノリが話していたトレーナーについてふとあることを思う。
(あれ? どんなに悪い人間でも立ち向かう正義感を持ってなおかつバトル好きなピカチュウを連れたトレーナーって、どことなくサトシに特徴が似ているわね。あっ、でも同じようなトレーナーならヒロシもあてはまるだろうし……)
(ひょっとして、ミノリ達を密猟団から救ったトレーナーってサトシのことじゃ……。まさかね)
作品名:主人公惣受け物語~アニポケ・ジョウト編~ 作家名:天の河