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糸魚川 翡翠
糸魚川 翡翠
novelistID. 57856
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囚人と青い鍵 1

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6 アイスとサンドイッチと誰か(カイトside)


ガチャ

マスターだ!

「ただい
「マスターっ!」
ま」

なぜだろう、マスターが帰ってくるのがわかった瞬間、どうしてだか抱きしめたくなった。

「おかえりなさい、マスター!」

「待て、だから抱きつくな!離れろ。コレをまず冷凍庫に入れなきゃいけないんだよ!」

大きめの買い物袋を持ってバタバタするマスター。
このひんやりとした感じはもしかして…

「マスター、それってもしかして…」
「あぁ、好きなの選べ。」
「わぁぁ、こんなにたくさん!マスター大好き!」

アイス選び放題という状況ももちろんだが、マスターが、僕がアイスが好きと言ったのを覚えていて、買ってきてくれたことの方が嬉しかった。

選んでいる途中で、ふと、マスターの視線を感じた。
明らかに、ただ1点、チョコミントにだけ向いていた。
そういえば、他のアイスは1つずつなのにチョコミントだけ…。

そうだ、一緒に食べるチャンスだ!

「マスター、一緒に食べましょう♪」

マスターは驚いて、僕が差し出したチョコミントと、僕の顔を交互に見た。

「な…、どうして私の好きなやつがわかった?」
「マスター、食べたそうな顔してました。」

「そ、そんな顔してない!そりゃ、残ってたらいいなくらいには思ってたけど。」

マスターは自覚していなかったのか?
あんなに分かりやすい視線だったのに。

「でてましたよ、顔に。それに、他のは一つずつなのに、チョコミントは二つありました。」

ちょっと慌てたようなマスターが、また可愛い。
もしかしたら、いじるともっと可愛いかもしれない。

「さ、一緒に食べましょう、マスター」
「あぁ。」

マスターは僕の隣から一席あいたところに座った。
でも僕はすかさずマスターの隣へと席を変える。

なんでだよ、という顔をして、僕の方を二度見する。

マスター可愛い!

「マスター、どうかしましたか?」
「いや、何も…」

多分鬱陶しいと思われるだろうけど、さらにくっついてみたらどうだろうか。

「な、なんだよ。」
「マスターいい匂い」
何一つ嘘は言ってない。
やっぱりあの匂いはマスターだった。

「はぁ!?アイスに集中しろ!」
そう言うマスターだか、マスターのスプーンに乗ったチョコミントが今にも溶けそうだ。
僕も食べたかったしね。

「マスターこそ、アイス溶けますよ?」
ぱくっ

うん、チョコミントも美味しい。

あれ?マスター、どうしたんだろうか。
なぜか動揺しているようだった。

もしかして、僕がチョコミント食べたから怒ってる?
いや、怒ってるわけではなさそうだ。

「マスター、大丈夫ですか?」
「え、は?何が?」

マスターの顔を見ると、赤くなってる。アイス食べてるのにどうして?
熱でもあるのかな、今日疲れただろうし。

「熱でもあるんですか?顔、赤いですよ?」
「そそそそ、そんなこと、ないっ!大丈夫だからっ!
てかアイス食べるの早っ!」
「もう1個食べていいですか?」
「好きにしろ!」

本当に大丈夫かはよくわからなかったが、冗談で言ったら食べてもいいと言われたので、また別なアイスを食べに行くことにした。

「アイス♪アイス♪」

いろいろあって嬉しいけど、ダッツが無いのはマスターのお財布事情だろうか。

僕が2つ目のアイスを食べている間に、マスターは食べ終わったらしい。

「あ、お風呂沸かしておきましたから、どうぞ入ってください!」

バスタオルを手渡すと、なぜかマスターは不思議そうな顔をした。

「水、大丈夫なのか?」

そこの心配!?
そんなマスターを見ていると、もう少し意地悪や冗談を言ってみたくなる。

「そんな一昔前の機器じゃないんですから。ちゃんと防水されてますよ。だからマスターと一緒にお風呂に入っても」

ドスッ

「何言ってんだよ!」

案の定、みぞおちに一発喰らわされた。

「ちょ、ちょっと痛いです、マスター、冗談ですよ。」

少し不服そうな顔をするマスター。もうちょっとオーバーリアクションにすれば良かったかな?


そうだ、僕は機械だから大丈夫だけど、マスターはアイスだけではちゃんとした栄養にならない。

僕が来て、いろいろ大変になったかもしれない。せめて、何か役に立ちたい。

簡単な晩ご飯でも作っておこう。
知識としては頭に入っている。

サンドイッチと目玉焼きでいいだろうか。マスターは女性だから、山ほどは食べないだろうし。

冷蔵庫からハムやレタスやチーズ、トマトを出し、切っていく。食パンを半分に切り…え?

痛い。うっかり包丁で切ったとでもいうのか?
というか、ボーカロイドなのに怪我するのか?
そういうことこそきちんと説明してくれ。

中途半端にキッチンを散らかすのは、マスターが余計に苦労するだろう。やるなら最後までやってやる。

次に目玉焼きを作ろうとするが、早速黄身が破ける。ちょっとメンタルにくるものがある。
そうだ、スクランブルエッグというものがあった。それだ…は?

熱い。嘘だろ、やけどもするのか。だからどうとも言っていられない。せめて綺麗に盛りつけて、リビングのテーブルに運ぶ。フライパン等を洗っておく。

マスターはお風呂、長い方なのかな?

僕はリビングに戻り、皿にラップをかけておいた。
そして、少しソファーの上に横になった。
マスターは一人暮らしなのに、どうしてこんなに大きいソファーにしたんだろう?

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ねぇ、あんた、生きてるんなら何で生きてるってすぐに言わなかったんだよ。」

マスターが何か言っている?
というか、僕は寝ていたのか。

「マス、ター?」
「何で突然髪の毛青くして、青いカラコンいれるようになったんだよ。」
「え、マスター、僕は元から…」

なんのことだろうか、僕が青いのは、前からで、染めたわけでもカラーコンタクトでもない。

「なんなのその呼び方。前みたいに、ねーちゃんでいいじゃん。なんか、姉弟じゃないみたい、嫌だそれ。」

さっきはマスターって言っても何も言わなかった。
さっきまでのマスターじゃないみたいだ。

「え、どういうこと、ですか?マスター?」
「琥珀じゃ、ないの?」
「え、琥珀?宝石、ですか?」

マスターは少しだけ呆然としたかと思うと、僕の袖を強くつかみ、詰め寄ってきた。

「なんで、こんなにそっくりなのに、違うの?じゃあ、あんたは誰なの?ねぇ、ねぇ!」
「ぼ、僕は、カイトです。カイトですよ。」

マスターは僕を、誰かと勘違いしている?

「ごめん、なんでもない、なんでもないから。今のは気にしないで。本当にごめん。」

我に返ったようにはっとして、俯いたマスター。

「ごめん。ホントにごめん。」

俯いたままマスターは部屋へと走り、鍵をかけてしまった。

僕が、何かいけなかったのだろうか?
床に、一滴の水滴を見た。

僕はただ、マスターの部屋の前で、座り込むしかできなかった。

作品名:囚人と青い鍵 1 作家名:糸魚川 翡翠