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　ヒースの麻痺が解けたのは、シンが白銀の刃を納刀した後だった。ヒースは胸から血を噴き上げ、その場に崩れる。
「ぐ、はっ……！　一体何が……？」
　ヒースは地面に突き立ったシンの武器を見やる。そしてあることに気が付く。
「俺の、影に……！？」
「さすが、よく気がついたな！」
　シンはヒースに手をついて宙返りしながら、突き刺さった刃を拾った。
「お前の思う通り、影を地面に縛り付けてやったのさ！」
　同時にヒースは、自分がどのような悪手を打ったのか分かった。下がった先は、薄暗い空から覗く、僅かな太陽光を背負うようになる所であった。
　光を背負ったために、ヒースの影は彼の前に伸びてしまったのだった。
　地上にいてはシンの術中にはまってしまう。そう考えヒースは翼を広げて空に逃げた。
「逃がすかよ！　『大旋風の術』！」
　シンは強力な風を起こし、巨大な竜巻を引き起こした。例え空に逃げたとしても、この竜巻からは逃れられず、ヒースは吸い寄せられていった。
　やがてヒースは竜巻の中心に引き寄せられた。しかし、ヒースは自身の特殊能力で竜巻からのダメージを無効にする。
　どれほど強大な勢力を持っていようとも、エナジーである限りは拡散して無力化を図ることができた。
　シンはそうとは知らず、三度目の改心の一撃に手応えを感じていた。
「シン、油断しないで！　彼にエナジーは効いてないわ！」
　ヒースにはエナジーは効果がない、と天眼を通しヒナは見極め、優越感に浸るシンに警告した。
「なにっ！？」
　次はヒースが攻撃を仕掛ける。
　全身にエナジーで電撃を纏い、シンを貫き通すべく急降下した。
『ヘブンライトニング！』
　ヒースはその身を雷と化し地面に落ちた。
「この程度……！」
　シンは落ちてくる雷となったヒースの攻撃を下がって避ける。しかし、地面を伝わって広範囲に電撃が及び、シンはその電気に感電してしまった。
「うぐっ……！」
　一瞬全身に痛みと痺れを感じ、シン動けなくなる。
　その瞬間をヒースは見逃さなかった。一瞬にしてシンへと間合いを詰めると、ソルブレードで突きを放った。
　シンは痛み、痺れる体を押して漆黒の刃で突きを受け流した。しかしヒースは更にカタストロフを振るった。シンは白銀の刃を抜刀して弾き返すが、肩口を軽く掠められた。
　シンは、相手が間合いにいる隙に影縫いをしようとヒースの影に向けて漆黒の刃を突き立てようとするが、見切られ、ヒースに大きく距離を開けられてしまった。
　互いに間合いから外れ、二人はにらみあう。
「いつつ……、さっきのはなかなかヤバかったぜ」
　シンにはまだ電撃の痛みが残っていた。
「まだまだ俺の雷はこんなものではないぞ！」
　ヒースは宙を舞い、上空から地上へ向けて雷を落とした。
『スパークプラズマ！』
　落雷は複数回にも及んだ。シンは降り注ぐ電撃の位置を予測し、跳ね回るようにかわしていた。
『レイデストラクト！』
　一発一発は強いものの、範囲が意外に狭いエナジーから、ヒースは威力は据え置きだが広範囲に及ぶエナジーに代えた。
　高圧電流が渦巻く中へと、シンは巻き込まれていったかのように思われた。
　しかしシンは、高圧電流をものともせず、ヒースに向かって飛んでいった。
「ふん、攻め手が雑になってきてるぞ、さすがにバテてきたか？」
　シンはヒースを挑発する。
『スクランブル・ビーム！』
　ヒースは半ば躍起になりながらエナジーを放つ。しかし、どのようにしもシンに悉くかわされ、懐へと入り込んでくる。
「影縫い・シャドウアタック！」
　シンは一瞬の隙をつき、影縫いでヒースの動きを止めた。そしてヒースの影に漆黒の刃を突き立てた。すると次の瞬間、ヒースの影が実体化した。
　そして実体化したヒースの影に向けて白銀の刃を抜刀し、斬り抜ける。
「がはっ！」
　影が斬られると同時に、ヒースも同じ傷を負った。影は実体のように鎧に包まれているわけではなく、ヒースはまるで生身に刀傷を受けたような非常に大きなダメージ受けた。
　ヒースは力なく地に崩れ落ちた。全身から大量の出血をしており、まだ生きている方が不思議であった。最早態勢は決したようなものである。
「ヒース、お前の負けだ。武器を捨てろ、もう戦う意味はない」
　シンは停戦を促した。
「……戦う意味がない、だと？　俺が負けては、マリアンヌは……」
　ヒースはまだ抗うつもりでいた。しかし、どうやっても体に力が入らない。
「無駄な抵抗は止せ。お前からはデュラハンのように世界をどうにかしようという気を感じない。話し合いの余地は……」
「黙れっ！」
　ヒースはソルブレードを勢いに任せて振った。力ずくの攻撃などシンに届くはずがなく、ヒースは自らの勢いに負け、再び崩れる。
　崩れた瞬間、ヒースから何かが落ちた。それは銀細工のペンダントである。
　シンは地面に落ちたペンダントを見逃さなかった。三日月を背に、こちらへと駆け付けてきそうな、弓を携えた女性の細工が施されていた。
　ヒースは両手の剣をどちらも手放し、急いでペンダントを拾い上げ、抱き締めるように胸元に置いた。
「その首飾り、ずいぶん大切な物のようだな？」
　シンの言葉が届いていないのか、ヒースは答えなかった。
「……俺はこの手でデュラハンを倒すのだ。そして奴の息の根を完全に止めてマリアンヌの仇を討つ、それだけが俺の望みだ」
　ヒースはペンダントを懐にしまい、カタストロフとソルブレード、両方の剣を拾う。そして翼を広げ上空高くへと飛び上がっていった。
「くそ、あの手負いでまだ動けるか……」
　ヒースは空中で最大級のエナジーを解き放った。瘴気に包まれ、ただでさえ暗い空に雷雲を発生させた。
　ピカピカと光り、轟音を立てる雷の中、ヒースは剣を交差させ何かを詠唱していた。
「我が左手に在りし漆黒なる破壊の化身よ。その真なる力にて破滅の雷を起こせ……」
　カタストロフからにび色の閃光が煌めき始めた。そして周囲一体の雷を増幅させる。
　ヒースはソルブレードを天にかざした。周囲に轟く雷はソルブレードに落ち、ソルブレードは雷を纏う電撃の刃に変化した。
「雷纏いて破滅の光を打ち出せ！」
　ヒースは帯電するソルブレードを、カタストロフの刀身に這わせるように引いた。火打石が摩擦によって火花を散らせるように、カタストロフとソルブレードの間には電気が激しく弾ける。
　ソルブレードから雷の力を受け取ると、カタストロフはその切っ先に、凝縮した電撃を囲う、三角錐の物体を生み出した。
「カタストロフィック・フィナーレ！」
　ヒースは電気の塊を封じた、紫電の三角錐を地上に向けて放った。地面に着弾した瞬間、三角錐は展開し、内部に込められた電気の塊は一気に広がり、周囲に伸びていく。
　電撃の勢いはものすごく、渦巻きながら辺りにあるものならば何でも薙ぎ払っていった。
「まずいっ！」
　シンは危険を感じ、後ろの二人を振り向く。
「姉貴、メアリィ！　離れるぞ！　こいつは本当にヤバい！」
　ヒナが頷いたのを確認すると、シンは縮地法でメアリィに一瞬で近づき、メアリィの胴体を抱えた。
「きゃっ！？」
「悪い、メアリィ、しっかり掴まっててくれ！」