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興味と関心 前編

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元カノ?は、
「なぁんだ。やっぱり彼女いるんじゃん。」
と言って、アッサリ帰って行った。

「あの、すみませんね。うるさくして。」

「ホントに。」

「……ハハ。面目ない。」

「じゃあ寝ます。」

「あっ、あの。」

「はい?」

「うちで飲みませんか?
 お詫びにビール出しますんで。」

またこのパターン?

「寝ようと思って化粧も落としてるんですけど。」

「そのままでも充分綺麗ですよ?」

「は?///」

何サラっと言ってんだ。

「そういう問題じゃなくて…」

「ん?」

リップサービスか?

と思ったが嘘ついてる風でもない。

目が冴えてどうせ寝られない。


「…1本だけ貰います。」

まだ知り合って間もない男の家に、
部屋着でスッピンって
私はどんだけ気をゆるしてしまったのか。

そしてこの男も私を
どこまで立ち入らせるつもりなのか。

やっぱり読めない。

「はい、これ。」

「ありがとうございます。」

ビールを受け取ろうとすると

「あ、知ってます?
 缶ビールの美味しい飲み方。」

と言って、その男は
自分でプルタブを開けてしまった。

「?そんなのあるの?」

「あるんです。
 高いところからこうやって…」

そう言って男は
ドボドボドボと、泡を立てて
背の高いコップに2/3くらい注ぎ、

またしばらくしてドボドボ、

しばらくしてドボドボ、と、

3回に分けて注いだ。

キメ細やかな泡が、
生ビールのように立っている。

「はい、どうぞ。」

目の前に出されたグラスビールを、
私は口に含んだ。

「!!」

ニヤッと男は笑って、
「ね?うまいでショ?」
と言った。

「ねぇ。私アナタの名前知らないんだけど。」

「え?!そーでしたっけ?」

「そーですよ。」

「あー。獅子尾です。獅子尾五月。」

「サツキ?男の人で珍しいですね。
 そういやさっきの人、そう呼んでましたね。」

「あー。夜中にご迷惑かけて…
 アイツ海外生活長いから、
 ちょっとズレてて。」

「そんなとこも好きだった?」

「えっ!?」

「元カノなんでしょ?」

「…若い頃の話です。」

「ふーん。じゃあ、寿司柄ネクタイの人は?」

「!やっぱりオレ、
 昨夜あれこれ変なこと言ったんじゃ…」

「…何も言ってないですよ。
 ちゃんと思い出にできてたんだなぁって 
 ことぐらいしか…」

「はぁぁぁ…マジか…
 すみません。女々しくウジウジと。」

「別に。」

「ドライですねー。」

「少女誌の編集やってるからですかね。
 現実はこんなんじゃないだろって
 ついそういう目で見ちゃってるし。
 実際は漫画みたいに
 うまくハッピーエンドにならないし、
 エンドは死ぬまでないですから。」

「……名前は?」

「はっ?」

「鮫島さんの、下の名前。」

「…有紀子。鮫島有紀子…です。」

「有紀子さん、ビールの泡、消えますよ。」

「…ふ…」

この男、話を逸らしたな。

現実はこんなイケメンでも
辛い恋の結末を迎える。

「そう言えば、今日の謝恩会で
 歴史モノ描きたいっていう
 新人さん紹介されましたよ。
 私が担当することになって。」

「えっ。マジっすか!
 歴史モノっていつの年代?どこの国?」

「まだ全く打ち合わせしてないんで
 そこまでは…」

すごい食いつき。

「そうですか。有紀子さんの担当なら
 応援しないと、ですね。」

「まだ高校生くらいでしたよ。」

「えっ、スゲ。
 高校生でデビューってするもんですか。」

「まぁ、中には。」

「獅子尾…さんは高校教師?
 その子、生徒だったりして。」

「はは、まさか…」

「もし生徒なら、気が合うかもですね。
 そういや今担当してるのは
 教師と生徒の恋愛モノで。
 漫画じゃよくある設定なんですけど
 実際のところどうなんですか?」

「はは…ないですよ。」

「…経験アリ?なんですね?」

「…///」

獅子尾は残りのビールを煽るように飲んだ。

寿司柄ネクタイの彼女は生徒か…

「何なんすか。有紀子さん。
 人の傷口えぐりますね。」

「傷口に触ってって見せてるのは
 どっちですか。」

「……そんな風に見えます?」

「触られても痛くないか
 確認したがってるように見えます。」

「う、わー…ダサイっすね、オレ。」

獅子尾は手のひらで顔を隠しているが、
指の隙間から赤らめた頬が見える。

お酒のせい…ではないのだろう。

「漫画と違ってホントの恋愛なんて
 みんなダサイと思います。」

「漫画読んで…こんなわけないって思います?」

「夢見させるのが仕事ですから。
 読んでる方も、現実はちがうから
 漫画が面白く感じるんじゃないですか。
 出会いだって終わり方だって
 ダサくて当たり前だけど
 それじゃ漫画にならないし…」

「…当たり前…」

あ、ゆるんだ。

この男を纏う空気が。

「ありがとうございます。」

「は?何がですか。」

「いや、なんとなく…」

「何ですか、それ。」

獅子尾は、その後はほとんど喋らず
相槌だけだった。

会話など成り立ってなかったけど、
なぜだか居心地のいい空気で、
1杯ビールを飲んで私は再び
自分の部屋に帰った。

作品名:興味と関心 前編 作家名:りんりん