不釣り合いな僕達 一
「今日はどうする?
「特に場所は決めてないんだ。しぶ鬼の好きなところでいいよ。
お茶をする場所は毎回変えている。
他の誰かに見つかることを避けるためというのもあるが、庄左ヱ門曰く景色を変えて点てたお茶はまた違う味がするとのことでいろんな場所に行くようにしている。
しぶ鬼にはまだその違いはわからないのだが。
「だったらこの山の先に丁度いい野原があるから、そこにしない?
「よし、じゃあ行こうか。
「ぼくが案内するよ。近道知ってるんだ。
そう言うとしぶ鬼は庄左ヱ門の手を取って走り出した。
急のことだがしぶ鬼は自分のペースで走らない。
しっかり後ろの庄左ヱ門(お茶の道具をもう片方の手で運んでいる)が走りやすいスピードで引っ張っていく。
こういうことを無意識にできるしぶ鬼を庄左ヱ門は尊敬していた。
よくしぶ鬼は庄左ヱ門を見習いたいと言ってくるが、庄左ヱ門にとって見習いたいのは自分の方だと思っているが、そこは忍たまの意地なのか何なのか、口にすることはなかった。
「この道、だいぶ人が通る道から離れてるけど。
「大丈夫だよ、ぼくがいつも通ってるんだから。
次第に森の真ん中、方向感覚がなくなりそうな景色になった。
不安そうな庄左ヱ門をよそにしぶ鬼は進んでいく。
その時、
「あ、庄左ヱ門、ストップ。
「…?
「しゃがんで。
突然歩みを止めたしぶ鬼に言われて、庄左ヱ門は身を屈める。
その隣でしぶ鬼も膝をついて座り込んだ。
その視線の先には、森の景色。
「どうしたの?
「しっ。あそこ、人がいる。
声を抑えたしぶ鬼が指した木のところに、人影が横切った。
薄暗い森の中ではっきりとした姿は見えない。
辛うじてわかったのは、その背丈が大人であるということだけだった。
「こんな獣道のど真ん中に人…?
「近付いてみようか?
疑問と好奇心に満ちた二人は茂みに姿を隠しながら人影の後を追った。
姿が判別できるところまで近付くと、その人物は二十代から三十代の男だった。
そして、しぶ鬼はその男に見覚えがあった。
「あいつは…!
「知ってるの?
「この前、ドクタケ城に雇ってほしいって言ってきてた男だ。
何日か前。
ドクタケ忍術教室の課外授業でドクタケ城見学に行った時、あの男が城の者に案内されているのを見ていた。
後でドクタケ忍者に聞いたところ、忍者として雇ってほしいと志願してきたらしい。
あの日以降も何度かドクタケ城に赴いてきているらしい。
「その忍者がどうしてこんなところに?
「この辺はドクタケ忍術教室から比較的近いけど、なんだろう、ドクタケ忍術教室を探しているわけでもないよね。
言葉には言い表せないが、しぶ鬼はあの男を怪しいと思った。
すると突然男は足を止めて辺りを見回し始めた。
しぶ鬼と庄左ヱ門は気配を悟られないようにその様子を茂みの陰から見ていた。
男は誰もいないのを確認すると、
す…す……
(矢羽根…!
忍者特有の暗号を発したことがわかり、二人は無言で顔を見合わせた。
だがそれは二人が見ていた男から発せられたものではなかった。
何か男が言うと、それが合言葉だったのか一人の忍び装束の男…忍者が現れた。
そこでしぶ鬼は更に驚愕する。
「うそ…!
「あの男も知ってるの?
「うん…。あいつを知ってるわけじゃないけど、あの忍び装束は…
ドクタケと敵対している城の忍者隊のものだ。
「何だって!?
「ドクタケと仲のいい城とか仲の悪い城とかは授業でよく習うから間違いないよ。
「ドクタケと仲が悪い城はぼくもたくさん知ってるけど、あの忍者は見たことないな。
「忍術学園からは離れてるからだろうね。その城も戦好きでいろんな城を攻め落としてる悪い城なんだ!
「ドクタケの敵の城の忍者と、ドクタケに志願した忍者がつながっている。これは…、
「うん。あの忍者は、ドクタケにスパイとして入り込むつもりだったんだ。
一気に緊張が高まる。
だがしぶ鬼は、あの男がスパイだという確かな証拠がほしかった。
「庄左ヱ門、ぼくはあの二人がどんな話をしているのか聞こうと思う。
「え!?
「本当にあの男がスパイなのか確かめたいんだ。もっと近付けば話し声くらい聞こえるし。
「よせ!この現場を見ただけで充分な証拠になる。深追いしてもし捕まったら…。
「へぇー。庄左ヱ門は自信がないんだー?
しぶ鬼は自分を止めた庄左ヱ門にいたずらっぽく言った。
「忍術学園の忍たまなんて大したことないんだね。こういう時こそ、実戦経験を活かさないとじゃないの?まあドクたまは優秀だからねー。
「…むっ。
挑発的なしぶ鬼の態度で忍術学園を引き合いに出されて、さすがの庄左ヱ門も表情が変わった。
「そこまで言われたらぼくも行くよ。ドクたまには負けないから。
「へへへ。そうこなくっちゃ!
作品名:不釣り合いな僕達 一 作家名:KeI