不釣り合いな僕達 一
慎重に木の陰を移動して、忍者達の会話が聞こえるところまで近付いていた。
しぶ鬼のそばには誰もいない。
二手に分かれて近付こうと庄左ヱ門から提案された。
二人でいるとどうしてもお互いを意識してしまい気配を悟られやすくなるからだ。
「やはり警戒されてるようだ。忍者隊に入ることはおろか、城の様子も重要な場所は避けて案内されてろくな情報が得られない…。
「なるほど。しかし今更引けば却って怪しまれそうだな…。
(やっぱり…!あいつは敵の忍者なんだ。
しぶ鬼は敵の城の忍者の顔の特徴を掴もうと場所を移動するために視線は動かさずに地面に手をついた。
だが、
ぢゅー!
(な…!ねずみ!?
運悪くねずみを潰してしまい、それに驚いたしぶ鬼は茂みを大きく揺らして音を立ててしまった。
「む…!誰かいるのか?
「俺が見てこよう。
当然忍者達は物音に気付き、ドクタケに潜入しようとした忍者…スパイの忍者がしぶ鬼のいる方に近付いてきた。
しぶ鬼はざっと血の気が引いた。
逃げたくても恐怖に支配されて動けなかった。
足音がどんどん大きくなる。
もうダメだとしぶ鬼は瞳に涙を浮かべた。
離れた場所で、声がした。
「あ、忍者だ!
聞こえてきたのはよく知った子供の声だった。
「なんだあのガキは!?
「…ガキでも俺達が一緒にいたところを見られちゃ困るな。捕まえるぞ!
忍者達の意識と足音がしぶ鬼の方から離れていくのがわかった。
だが同時にしぶ鬼は情けなさと申し訳なさに押し潰されそうになった。
忍者二人と、もう一人の足音がしぶ鬼から遠ざかる。
(庄左ヱ門が…ぼくを庇って……!
しばらく頭が真っ白になっていたが、はっとして立ち上がり庄左ヱ門達を見失わない内に追いかけた。
その目には涙が溜まったままだった。
(全部…ぼくが悪いのに!あいつらの敵はぼく達ドクタケなのに…。庄左ヱ門は深追いするなって止めてくれたのに…。ヘマして見つかりそうになったのはぼくなのに…。
うわ…っ!
「庄左ヱ門の声…!
走る先で悲鳴が聞こえて、しぶ鬼は焦る気持ちを押し殺しながら静かに進んだ。
緩い傾斜を下った先に人影が見えた。
その光景にしぶ鬼は息を呑んだ。
「放して!ぼくが何したんだよ!
「子供相手に容赦ないな。
「このガキ、ドクタケの手の者かもしれないからな。
庄左ヱ門は捕らえられ、頭上で手を縛られていた。
更に庄左ヱ門の背より高い位置にある木の枝と結び付けられて、足は浮いて宙吊り状態にされている。
庄左ヱ門は偶然通りかかった子供を装っているが、なんとかして拘束から脱け出そうと必死にもがいていた。
「こんなガキが?
「ドクタケの城の中でこれくらいの子供が忍び装束を着ているのを見たんだ。調べたところ、ドクタケ忍者養成の学校があるらしい。
「なんと!ではこのガキは…。
「あの時、何人か俺の方を見ていた。もしかしたら、その時のガキの内の一人かもしれない。生意気にガキもサングラスかけてやがったせいでこっちからはガキの顔がわからなかったんだ。
「ま、少し脅してやればガキの口くらい簡単に割れるしな。
スパイの忍者は庄左ヱ門をドクたまだと思い捕まえたらしい。
忍者達は庄左ヱ門の胸倉を掴み問い質す。
「正直に言いな、小僧。ドクタケ城は知ってるか?
「知らないよ!
「本当か?
「小僧はどこかの学校の生徒か?例えば、制服の色が赤いとか。
実際はドクたまでない庄左ヱ門なら何を言われても問題ないとしぶ鬼は考えていた。
しかし、
「ぼくはドクたまなんかじゃ…あ!
「ドクたま…?
(ばっ…!それを言っちゃ……。
思わず口から出た『ドクたま』という言葉は、たとえ庄左ヱ門がドクタケの関係者ではなかったとしても言うべきものではなかった。
「なんだそりゃ?
「確か、ドクタケ忍者の養成学校の生徒は『ドクタケ忍者のたまご』、略して『ドクたま』と呼ばれていたはずだ。
「そんな言葉を知っているということは…。
「間違いない、こいつはドクタケと通じてる。ただでは帰せない。
「うぐ…。
スパイの忍者が庄左ヱ門の腕を強く掴んだ。
庄左ヱ門は痛みに顔を歪める。
「小僧。今日見たことは、誰にも言うんじゃないぞ…。
「…言わないよ。言わないから、放して。
痛みに耐えながら強めの口調で庄左ヱ門は答える。
その態度が気に入らなかったのか、忍者達はまだ庄左ヱ門を解放しようとしなかった。
「…ちっとも怖がらないな、このガキ。
「折角だ。ドクタケの情報の一つや二つ、聞き出してから帰すか。
「…!
庄左ヱ門から手を放すと、スパイの忍者は懐から小刀を取り出した。
しぶ鬼にもその鋭い刃の光は見えて足元まで悪寒が走った。
「小僧、何でもいい。ドクタケ城内部について知ってることを話せ。
「…し、知らない!そんなこと子供が知るわけないじゃないか!
「言わないのなら…。
「っ…!
(庄左ヱ門!
忍者の刀が、庄左ヱ門に突き立てられ、
すっ
袴の裾に一本の切れ目が入った。
「さあ、早く言わないと怪我するぞ。
「や…やだ!誰かー!助けてー!!
「助けなんて来るものか。こんな森の中で。
(大変だ!早く助けないと…でも……。
しぶ鬼は無力だった。
作品名:不釣り合いな僕達 一 作家名:KeI