嫉妬と不安 2
獅子尾の右側からは、すぅすぅ。と、すずめの寝息が聞こえる。
何で獅子尾を間に挟み、恋人の寝息を聞かなければいけないのか。
馬村のイライラが積もっていく。
ふー。と一息つくと、獅子尾は話を始めた。
「今日一緒にいるのは、ただの成り行き。俺がここに来たら、たまたま一人で居たから、誘った。」
一人で居た。という言葉に、馬村はピクリとした。
獅子尾はそれに気付きながらも話を続ける。
「最初は、フツーに飲んで、フツーに喋って、そこまでは良かったんだよ...。途中で、何で一人なのか聞いたら、
お前にドタキャンされたって教えてくれて、その時には
ちゅんちゅん結構酔っ払ってたし、そのまま馬村の愚痴とか言い始めて、俺に代わりを求めてきたら万々歳だなー。とか思ったわけ。」
時は2時間ほど前の居酒屋に遡る。
獅子尾に馬村の事を聞かれ、戸惑ったものの、すずめは話を始めていた。
「実は今日、二人で外食する予定だったんです。けど、急にバイトが入ったみたいでドタキャンされてしまって...。」
すずめが暗い口調で今日のことを伝えた。
「あいつそんな忙しいの?」
「はい...。」
「...最後に会えたのは?」
「多分、3週間ぐらい前ですかね...。」
「そっか。...まーとりあえずじゃんじゃん飲め!」
すずめに元気を出させるかのように、獅子尾は空になっていたすずめのグラスに追加の酒を注いだ。
獅子尾は、この時点ですずめがだいぶ酔っ払っている事に気が付いていた。
しかし、馬村との今日の出来事を聞き、何か期待をしてしまった。
このまま、もっと酔っ払って馬村の愚痴とか言い出して、俺にさびしい。と、すがりついてきてはくれないだろうか。
この期待は、すずめにとって幸せな事ではないとわかっている。
しかし、それでも、ほんのひと時でも、すずめを手放したくないと思った。
注がれたからには、飲まないわけにはいかなく、すずめはグイッと、酒を飲み込み、完全に酔いが回ってしまった。
先程よりも、顔が赤く、色っぽい顔つきになり、獅子尾はゴクリ。と、つばを飲み込んだ。
「他には、なんか馬村とないの?」
「他、れすか...?」
完全に酔が回ったからか、ろれつも回っていない。
「そう、ほかほか。」
すずめはうーんと悩むと、思いついたのか、パッと顔を明るくして答えた。
「馬村は、かっこいいんれす。」
「え?」
すずめの驚きの返答に、戸惑いを隠せず、聞き直すと
「いっつも私の側に居てくれたり、なにかあっら時にすぐ駆けつけれくれたり、あ、これも馬村がくれたんれすよー。」
そう言うと、首にかかっていた、星のネックレスを見せてきた。
獅子尾は、ポカン。としたものの、
ネックレスを見せてくるすずめの幸せそうな顔を見て、
「そっかそっか。」
苦笑しながら、すずめの頭をポンポンと軽く叩いた。
自分の浅ましく、汚れた考えを嘲笑った。
結局、何年経とうが自分では彼女を幸せにはできない事を改めて理解した。
「じゃーそろそろ俺は帰るよ。ちゅんちゅんは?送ってこっか?」
席を立とうとしながら、さっきの様な下心はなく、自分のせいで酔っ払わせてしまった申し訳なさで素直な気持ちを言った。
「えーもう、かえっちゃうんれすかー?」
ムッとしながら立ち上がろうとしていた獅子尾の腕をグイッと引っ張り、無理やり座らせた。
「わっちょっ...!」
「まだ帰っちゃだめれすー。もっと聞いれくださいー。」
酔っ払った事ですずめは完全に絡み酒になっていた。
しかし、自分が飲ませたので怒ることも勝手に帰ることも出来ず、その後もずっと馬村のノロケを聞かされたのだ。