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同調率99%の少女(5) - 鎮守府Aの物語

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 那珂はゆっくりと片手を水平に上げて腕に取り付けられている連装砲を五月雨たちのほうに向けた。まだ撃つ気はない。五月雨たちも手で持っている単装砲を那珂の方に向ける。対峙した状態でそのまま撃てば、両者ともペイントが付く未来が容易に想像されるが、3人共そんな安易な演習を展開する気はない。
 那珂はゆっくりと右手に進む。視線と腕は五月雨と村雨の方に向けたまま。それに追随して五月雨と村雨も那珂のほうに単装砲を向けたまま方向転換し始める。一番離れている村雨は五月雨と横並びになるように少し長めに移動した。

((さーて、どうしようかなぁ。とりあえず連装砲同時に撃って二人の次の動きを見るかなぁ?五月雨ちゃんにはあたしの戦略や考え方を前々から少し教えてるから、対処されちゃうかな?))

 一方の五月雨は次のように考えていた。
((那珂さんのことだから、きっと突飛なことをしてくるはず! 普通に考えてたらきっとすぐ負けちゃうなぁ。どーしよ……))

 五月雨は小声で村雨に動きの指示を出す。
「村雨ちゃん、全速力で横にうんと離れて。違う方向からそれぞれ撃てば、那珂さんだって同時に対処できないはず。」
「……わかったわ。」
「じゃあ……いこ!」

 那珂がとりあえずの砲撃をするより前に五月雨と村雨は動き出した。五月雨の合図とともにそれぞれ違う方向に進み、村雨は大きく那珂の背後に回るかのように速力を上げて水上を進む。五月雨はほんの少し動いたあとに単装砲で那珂を狙って撃った。


ドゥ!!


 那珂は村雨の方を見ながら、二人の間にできた大きなスペースに向かって姿勢を低くし五月雨の砲撃をすんでのところで交わしながら急速にダッシュしはじめた。その際、両腕を五月雨と村雨それぞれの方向に伸ばし、各腕についている連装砲と単装砲を同時に別々の方向めがけて砲撃をしていた。

ドン!ドン!
ドパン!!

 自身が撃ったあとに那珂の腕の動きをまったく予想していなかった五月雨は、かわさなければと頭が働いて体を動かそうとしたが、その前にすぐにペイント弾が当たって、制服にベットリと付着していた。身体が仮にすぐに動けたとしても、五月雨の性格では那珂のトリッキーな動きは到底対処できなかった。

 川内型の艤装による攻撃はその他の艦娘にとって対処しづらい。それは那珂が装備する連装砲、単装砲は制服の腕部分、グローブカバーに直接取り付けるタイプで、手に持つわけではないからだ。トリガーはグローブカバーの手のひらに存在する。実際に装着者が撃つときは手のひらにある任意の指を曲げてトリガーたるスイッチを押し、最後に親指の付け根にあるメインスイッチを押せばグローブに取り付けられた装砲が火を噴く。
 明らかに狙う行為が見える一般的な銃や艦娘の連装砲・単装砲とは違い、腕を動かすだけで狙う方向を自由に決められ、なおかつ引き金を引く仕草がわかりづらい。装着者にトリッキーな動きをされると、相手としては撃たれるタイミングがまったくわからなくなる。川内型の装備も、五月雨の判断を狂わせる材料だった。

 五月雨、轟沈。


「ごめーん!真純ちゃん!私もうやられちゃった〜!」
 胸元をペイントで汚した五月雨がそう叫ぶと、離れたところから那珂を狙おうとしていた村雨は那珂からの砲撃を交わしながら呆れて返事をした。
「えぇ〜!?さみ早すぎるわよ〜!!」


 単装砲は那珂の方に向き、頭と首は五月雨のほうに向けて見ている村雨だったが、那珂の叫び声で視線を那珂のほうに戻した。
「村雨ちゃん!敵は目の前なんだよ!!」

 異常な速度で村雨に迫っていた那珂は村雨から2〜3mのところまですでに迫っていた。左腕を体に沿うように前に突き出し、連装砲の砲筒を前に向け、右手はくの字にに折って体の側面にくっつけながらの接近である。
「ひっ!」
 ほとんど目の前に迫られて頭が真っ白になる村雨だったが、かろうじて単装砲の引き金だけは引くのを忘れなかった。

ドン!


 これなら当たる!そう村雨は確信した。


 が、みてもらうための演習とはいえ那珂は本気だった。速度があったので右足で海面を真横に蹴り上半身を少し左に傾けただけですぐに1m以上も左に避けることができた。その際前に出していた左腕は左に振り出し、村雨を狙うのはくの字に折った状態のまま前に付きだした右腕の単装砲に切り替わっていた。

ドゥ!!!


 那珂は村雨ら駆逐艦娘たちが撃った直後によくする硬直の間を狙った。狙われた本人たちはそんなことに全く気づいていなかったのである。そのため村雨の砲撃を避けながら那珂が撃った単装砲の砲撃は綺麗に村雨の胸元に当たり、村雨の学校の制服をペイントでベットリと汚していた。

 村雨も轟沈である。


 なお、那珂は避ける途中その行動が側転のようになっており、海面ギリギリで一回転する形になっていたため、水面に足から着水することができず思い切り右肩からプールに体を突っ込んでしまった。艦娘たちの艤装で浮力が効くのは足につけた艤装(一部は別の部位の艤装も)なので、それ以外の部分から水に入ると普通に沈む。
 水中に潜ってしまったあと、慌てて足を水底に向けて浮力を使って水面に飛び出して立つことができた。

 五月雨と村雨の体にペイントがついていることを確認した明石は合図を出して演習を終了させた。
「はい!それまで!」