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聞かせてよ、あいのうたを(アルエド+ハイウィン)

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「…そういや、昨日は遅かったんだっけ…」
部屋に来るかと尋ねた昨夜、アルフォンスは調べたいことがあるから後で行くね、と言ったのだ。
しばらくはエドワードもソファで本を読みながら起きて待っていたが、いつの間にか眠ってしまっており。
気が付いたらいつもの起床時間で、アルフォンスに抱き込まれてベッドの中にいた。
ぐっすり眠ってたから起こせなくて、と笑った弟の気遣いは嬉しかった反面、起こしてくれて良かったのにと残念に思ったのは内緒だ。






ベンチの上に投げ出された、アルフォンスの左手に触れる。
少々癪だがエドワードよりも大きな手は骨張って、さらりと乾いていて。
「あったかいな…」
彼の持つ気性を、そのまま温度にしたような。
穏やかな温かさと、時には灼けるほどの熱を孕みながら、エドワードのからだと感情に触れてくれる。
アルフォンスのこの手と温度が、エドワードは本当にすきだ。




少し風が出てきたので、エドワードは自分の深紅の上着を脱ぎ、アルフォンスの肩にふわりと掛けた。
普通に起きているならともかく、眠りに落ち体温の下がっている人間にこの温度は少し寒く感じるだろう。



静かに眠るアルフォンスを見ていると、不意にエドワードの記憶の中に詞がよみがえった。
子供の頃、眠る二人に母が歌ってくれた、やわらかな旋律。



  このてのひらで くるんだいのり
  ゆめのかなたへ たどりつけるように


小さな声で、耳に馴染んだ旋律を口ずさみながら。
上着の上から、ゆっくりしたリズムで弟の肩を撫でる。
母がしてくれていたように、とん、とん、と。
そんなふうにしていると、自分よりも体格の勝る弟が、腕の中にすっぽり収まるほど幼い子供のようにも思えて。
胸の中が、ほわりと温かくなる。



  はなのかおりも つきのあかりも
  ねむるあなたを まもりつづけるわ
  わたしのうでも

  あなたのそのえがおが ひかりをよびさます
  よるのやみでさえも あさをうんで
  いのちをつむぐの




ここまでは、世間でも広く知られている子守歌なのだが。
───ねえエドワードさん、この歌には続きがあるんですよ。
そう教えてくれたのは、ハイデリヒだった。



  そらのあおさも きぎのみどりも
  さえてまばゆく ひとみをやくけど
  たいせつなあなたのてを つないではなさないでいれば
  せかいのはてで すなにうもれても
  わらってられる



幼い頃に誰もが聞いたことのある、そのメロディの続きに載せられる言葉は。
とてもきれいで、甘い感情。




  わたしのうたうこえが ねむりをさそうでしょう
  そのはねをやすめて めがさめたなら
  くちづけをあげる






「…その、うた」
腹の辺りからくぐもった声が聞こえて、エドワードはぴくりと肩を震わせた。
子守歌のつもりで歌っていたのに、眠っていた人間を起こしてしまっては元も子もない。
「悪いアル、起こしちまった」
さらりと髪を撫でると、アルフォンスは僅かに首を横に振る。
「…そんな、つづきがあるって…ボク、しらない」
「この前、アルフォンスとウィンリィが教えてくれたんだ。…ごめんな、まだ眠ってて良いから」
「うん……」
意識の半分近くは眠りの中にあるのだろう、こっくり頷いたアルフォンスの、エドワードへの返答はどこか幼い。
「…あとで、また……ぜんぶ、うたってくれる…?」
「オマエが聞きたいなら、な」
「…うん。ちゃんと、ききたい」
とろりとした琥珀色の瞳で兄を見上げ、アルフォンスは微笑う。
「…じゃ、後で仕切り直すから」
「うん。……ねぇ、」
それからふう、と小さく息を吐いた。
「───兄さんに、そうやって、なでてもらうの…すごく、きもちがいいな」
相変わらずゆったりしたリズムで肩を撫でる、エドワードの手。
甘えるような声に、エドワードも笑みを零す。
「オレは子供を寝かしつけてる、母親みたいな気分だ」
「ふふ……じゃあ、いまだけボク、兄さんの子供?」
「こーんなでっかい子供、産んだ憶えねぇけどなぁ」
声に出さずに笑って、エドワードは上半身をかがめた。
後ろの高い位置で束ねている髪が肩から零れ、さらさらと小さくて綺麗な音を立てて金色のカーテンを作る。
アルフォンスの頬に、触れるだけのキスを落として。
「…ほら、もう少し眠ってな」
「……ん」
こく、と素直に頷いたアルフォンスが、すうっと目を閉じた。
またすぐに規則正しい寝息を立て始めた弟に、もう一度だけ口づけて。
先程よりも小さな声で、教わった残りの歌詞をゆっくり紡ぐ。
アルフォンスを起こさないように、より深い眠りへ促すように。





  そばにいるから いっしょにあるくから
  あなたのそのてつなぎ
  あいしているからずっと だからどうかわらって






この国の女の子はみんな、女親からこの歌詞を教えて貰うの、と。
続きを歌ってくれたのはウィンリィ。
なんでも、この歌は母から娘へと、必ず口伝で伝えられていくのが暗黙の了解であるために、書面などの形では一切残されておらず。
男の子は、たとえ歌に続きがあることは知っていても、歌詞だけは決して知ることができないのだという。
事実エドワードは、その子守歌に続きがあることさえ知らなかった。
だからアルフォンスが知らなかったのにも無理はない。






  あなたとたどるあとは いつかそらにかえり
  かぜとまうのでしょう
  はなになって つきとかがやいて


  いのちのうみへゆく






───では何故、エドワードと同じ男であるハイデリヒが、この歌詞の内容を知っていたのか。










アルフォンスはしばらくして、ぱかりと目を開いた。
「…お、目ぇ覚めたか」
ひょこんと上から顔をのぞき込んできたエドワードに、うん、と頷いて。
「───ボク、どのくらい眠ってた?」
「んー、そうだな。1時間…いや3、40分ってとこか」
「あれ、そのくらいだったんだ。もっと眠ってると思ってたのに」
首を巡らせて空を見れば、まだ日は殆ど傾いておらず、そこまで時間が経っていないことが解った。
起きあがりかけたところで、自分の体に兄の上着が掛けられていたことに気づいた。
「…ありがとう、これ」
「ああ。寝てる時って、体温下がっちまうしな。寒くなかったか?」
「全然。あったかくて、ぐっすり眠れた」
ふわりとエドワードの肩に上着を掛け、きゅう、とその上から抱きしめる。
「おかげでボクは快適だったけどさ、兄さんは大丈夫だったの?」
「起きてる分には丁度良かったぜ」
「だったら良いけど。…ホントにありがと」
気遣いが嬉しくて、アルフォンスはエドワードを抱く腕に少しだけ力を込めた。
ほう、とちいさなため息を吐いた兄が、するりと背中を撫でる。





「…なあアル。上着のレンタル料は、オマエの淹れた茶で払う、ってのはどうだ?」
「……それで済むなら、お安いご用だよ」
少しだけ時間のずれた、ティータイムと洒落込もう。