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聞かせてよ、あいのうたを(アルエド+ハイウィン)

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「───お待たせ」
かちゃん、と小さな音を立て、テーブルの上にティーセットが置かれる。
「サンキュ」
白地に金の縁取りと、淡い水色で装飾が施されたカップとソーサーは、アルフォンスが成人の儀式を迎えたお祝いに、エドワードが幼馴染み達と一緒に選んでくれたもの。
温かな湯気の立つカップからは、ふわりと柔らかな香りが広がる。
「へえ、良い匂いだな」
「でしょ?この間、左宰相殿が持ってきてくれたんだ」
「ラングが?」
「うん。…ほら、左宰相殿の奥方が紅茶好きだって話、兄さんも聞いたことがあるでしょう?色んな国の茶葉を購入してたのが高じて、お店を始めたって」
「あー、紅茶好きってのは知ってる。…すげぇな、店まで始めたのか」
貴族のご婦人はただ黙って着飾っていれば良いという古い考え方をよしとせず、平民の出身であるラングの奥方はなかなかに行動的な女性だ。
侯爵夫人らしからぬ行動に批判的な者も多かったが、今ではご婦人達の憧れの的となっている。
「その奥方がね、一度飲んですぐに気に入ったんだって。花茶も良いけど、これも是非飲んでみてくださいって、ひと缶譲ってくれたんだ」
「そっか」
アルフォンスが隣に腰を下ろしたところで、エドワードはカップを手にした。
水色はレモンティーより少し濃い、オレンジに近い琥珀色。
ふう、と一度息を吹きかけ、口許に運ぶ。
「…お?」
香りと共にまろやかな味と甘みが広がり、後味はすっきりとしている。
漂う香りも存外控えめで、渋味や酸味が殆どない。
「おー…美味いな、これ」
「ね、いいでしょ?」
ふんわり笑って、アルフォンスもカップを手にする。
「なんか、全然渋くねぇのな」
「そうなんだ。先に一度飲んでみたんだけど、冷めても後味が変わらないんだよ」
「へえ、そりゃすげぇ」
どんな種類の紅茶でも、大抵は冷めれば独特の渋味や酸味が出てくるものだが、この紅茶にはそれがまるでないのだ。
因みに花茶の場合、冷めてしまうとせっかくの香りが飛んでしまい、酸味が増してくるため、アイスティーで作るのは難しく、基本的にはホットで飲まれる。
作るなら、ちょっとしたコツが必要なんだよ───とは、アイスの花茶も難なく淹れてしまうアルフォンスの言。
「この茶葉、売ってんのか?」
「ううん、品種改良を重ねて完成させたばかりだから、まだ市場には出回ってないんだって。扱ってもらえないかって、茶園から持ち込まれたらしいよ」
「…その茶園、良い判断したな」
「ボクもそう思う。奥方ならきっと、良い販売ルートが作れると思うよ」
種類も多く良い品物を扱っていると評判も良いようで、城下のラングの屋敷の近くに構えられた店舗は、客足が途絶えることがないそうだ。
客層はまだ貴族や裕福な商人など、上流階級の人間が中心だが、いずれは民間にも手を広げていきたいと考えているらしい。
「そうそう。奥方のお店はね、カフェも兼ねてるんだって」
「カフェ?…そっか、実家が菓子職人だもんな」
「うん。ね、今度城下の視察ってことで、二人で一緒に行ってみようよ」
小首を傾げて誘われて、エドワードは黄金色の瞳を瞬かせた。
にっこり微笑んで言われたそれは、どう考えても”視察”が目的ではないだろう。
そういえば最近は、公務以外でろくに城下にも出ていない。
「…ん、都合付けられるようにする」
こんな時にアルフォンスが言う”城下の視察”とは、仕事というよりはただの散歩のようなもので。
二人で、と限定されれば、それはつまりデートのお誘いということになる。
「じゃあ決定だ。兄さんの予定が決まったら教えてね」