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DOODLES

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Carmen and Cigarettes


 裏町の工場外、その中でもひときわ大きな煙草工場の周りに集まる女工たちの中に、ゾロはひときわ目立つブロンドを見つけた。工場前に集まる女たちは皆、昨今の流行だとかいう紙巻煙草を吹かしており、漏れなく金色の髪にももくもくとした紫煙がたなびいている。しかし、そのブロンドはよくよく見れば、あまり質の良いとは言えないラウンジ・スーツを纏った、れっきとした男であった。
 仕事帰りの女工たちを狙い工場の周りにはいやらしい笑みを浮かべた男たちがたむろしていたが、その男は女たちと仲睦まじげに放しているわりに、どちらかと言えば男側というより女側にいるようにゾロには見えた。男の煙草と言えば嗅ぎ煙草や葉巻で、紙巻は女が吸うもの思っていたためというのがひとつ、それに、ブロンドが浮かべている微笑には、どうも性的なものを感じなかったのだ。
 妙な奴だな、と、そう思った。
 ゾロは衛兵である。衛兵たちの詰所はちょうど煙草工場の斜向かいにあって、同僚たちは皆、夜を共にする女を探そうとふらふら出て行ってしまった。詰所の前でくそ真面目に背を伸ばし立っているのは、ゾロばかりである。女に興味がないわけではないが、そうがっつくほど飢えているわけでもない。喧しく騒ぐ女の群れの中にわざわざ飛び込んでいく同僚たちの気持ちがいまひとつゾロには理解し難かった。
「てめえ、何しやがんだ!」
 その声が上がったことにいち早く気付いたのは、群集の中でも間違いなくゾロだったに違いない。声を上げたのは、あのブロンド。さきほどからずっとその金色に注目していたゾロには、男が1人の女工を背に庇っているのが見てとれた。
「彼女、嫌がっているじゃねえか。放しやがれこのクソ衛兵!」
 まずいことになったな……と思ったのは、ブロンドが対峙しているのが、明らかにゾロの同僚の衛兵だったためだ。確か、ベラミーとか言ったか。ベラミーの女癖が悪いのはもとからだし、ブロンドが背に庇った女の怯え様や、奴に向けられている女工たちの批難がましい視線、どこからどう見たって非があるのはベラミーのほうに違いない。しかし、衛兵たちはニヤニヤと性質悪そうな笑みを浮かべ、ブロンドを囲み始めている。
 圧倒的に不利な状況にあるにも関わらず、妙なブロンド男は一向に目から強気な色を消さず、なおもベラミーをじっとにらみつけていた。
「なァにが衛兵だ、コラ。レディーを守らず何が守れるってんだ、ええ?」
 輝く金色、その下の雪のように白い肌、折れそうなほど細い体躯。どこか儚げな容姿を、口に咥えたシガレットのアンバランスさがむしろ強調しているようにも見える。しかしそんな見た目とは裏腹に、ブロンドの切る啖呵はそんじょそこらのゴロツキよりも余程威勢があった。
「なんだなんだァ、紙巻煙草のオカマ野郎が、英雄気取りか?」
「構うこたねえ、たたんじまえよベラミー!」
 いけいけ、という男たちの歓声を遮るように、女たちの、やっちゃえサンジ君! という声援が挙がる。どうも、ブロンド男の名前はサンジというらしい。
 女たちの歓声が癪に障ったのだろう。あ、とゾロが飛び出そうとした瞬間には、ベラミーが腰の剣を抜いていた。しかし――
「な、な……」
「剣は女を守るもの。クソ野郎が手前のために振りかざしたところで、斬れるもんなぞあるもんか」
 まるで、閃光のようだった。ゾロの目が確かならば、ブロンド男は一閃の蹴りでベラミーの剣を叩き落し、更に横っ面に鋭い蹴りを見舞ったのである。
「いけえ、サンジ君!」
「勘違い野郎なんてぶっ飛ばしちゃって!」
「なんだなんだ! おいあのブロンドを捕まえろ!」
「ベラミー、大丈夫か……」
 もはや、混乱にも近い。ブロンドの男に向かって、剣を抜いた衛兵たちが一斉に襲い掛かっていた。
(おいおい、さすがにそれはまずいだろう……)
 どうしたもんか。一瞬の迷いが、ゾロの脳裏を横切る。しかし、思考の止まったゾロの目が、ふとブロンド男のそれと合わさった、ような気がした。
(クソ……!)
「おいゾロ! 何しやがんだ!」
「悪ィな。しかし、1対30はちと卑怯だろう」
 気が付けば、ゾロは同僚たちをばっさばっさとなぎ倒していた。剣は抜かず素手で戦ったのは、一応ゾロなりの義理というやつだ。
 その後どうなるかくらい、ゾロにだってわかっていた。それでも、そうせざるを得なかったのだ。
(仕方ねえだろう……)
 男の目が、あまりにも綺麗な青だったのだから。



「おい、お前も妙なことするよな。同僚たちをあんなにボコボコにしちまって」
「一応手加減はしたつもりだ」
「ハハハ……面白い奴だなァ。おいお前、ここ出たらうちで働かねえか?」
「そりゃ有難ェ限りだな。召使にでもしてくれるつもりかい……」
「ま、そんなとこだ。じゃあ来るのか?」
「万一にでもここを出られたらな……」
 分厚い牢の壁越しに、ゾロはブロンド男、もといサンジとあまり建設的でない会話を交わした。
 まずいことをした、とは思っている。後悔もしている。何しろ同僚である衛兵たちを15人ほど地に沈め、その後同僚である衛兵たちの手によって捕らえられ牢にぶちこまれたのだ。いや、"元"同僚と言うべきか。なんにせよ、ゾロの失職は確実だ。「ここを出たら」とは言うが、ただの喧嘩でもあるまいし、監獄送りは間違いないうえ、そもそも生きているうちに娑婆に出られるかどうかすらわからない。
「おい、どうしてお前は俺を助けてくれたんだ?」
 笑い混じりではあったが、やや真剣味を帯びたサンジの声がした。
 どうして――はっきりとした理由なぞ、ゾロ自身にもわからない。ただ、
「……お前の、目が」
「は? 俺の目がどうしたってんだ」
「お前の目が、青かったから」
 そう、それは高い空よりも、深い海よりもずっと綺麗な青だった。例えるならば……
「子供のころ、宝物だったガラス玉に、えらく似ていたんだ」
 ゾロがぶすりとそう答えると、壁の向こうからは暫しなんの返事も返ってはこなかった。気まずい沈黙に、他の房から聞こえる酔っ払いたちのうめき声やら寝言やらが被さる。
 ハハ。ハハハハ……!
 かなり遅れて響いたのは、サンジのけたたましい笑い声だった。
「うおォい、うるせえぞ兄ちゃん!」
「ああァ!? てめえがうるせえんだよこの酔っ払い! ……で、俺の目が、ハハ、なんだって?」
「……クソッ!」
 言うんじゃなかった、あんなこと! 今更ながらえらく恥ずかしくなり、ゾロはひとり顔を赤らめた。
「いや、別にからかってるんじゃねえんだ。嬉しいんだぜ! そんなこと言われたなァはじめてだ……」
 笑い混じりだったが、サンジの声はその言葉を証明するかのように、本当に楽しそうだった。
「気に入ったぜ。おい、お前俺について来いよ」
「ああ……?」
 ついて来いと言われたところで、ゾロにはどうしようもないことだ。一般人であるサンジとは違い、同僚と諍いを起こしたゾロには格段に重い刑が下されるだろう。どうもサンジにはそのあたりが理解できていないらしい。
 そのとき、コツ、コツ、と、廊下の石畳を叩く足音が聞こえた。
「お、やっとお迎えだ」
「お迎え……?」
作品名:DOODLES 作家名:ちよ子