黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25
扉は辺りの壁とまるで色が違っている。もとはここに扉はなく、後から作為的に取り付けられた、そのようなものだった。
「恐らくこれはデュラハンが取り付けたのでしょう。開く方法は、残念ながらありませんね」
ここまで来てイワンから諦念の言葉が出た。しかし、イワンが諦めて言ったのは、あくまで開く方法がないという事だった。
「開く手段はありませんが、それならば破壊するまでです」
終始不機嫌だったメガエラが、一転して笑みを見せる。
「ふふん、ボウヤにしてはずいぶん思い切った事を言うじゃない? てっきりアネモス族の末裔だからって神殿を荒らすのは嫌がるかと思ってたけど?」
「デュラハンに乗っ取られた時点で、すでに一族への冒涜ですよ。それに今はそんなことより、何としてもデュラハンを討たなくては」
「ふふ……」
メガエラは愛用の双剣を手に取った。
「だったら遠慮なく行かせてもらうわよ!」
メガエラは扉に向かって切っ先を突き出した。
「あっ、待ってください、メガエラさん!」
慌ててイワンはメガエラの制止を試みるものの、メガエラは既に扉を突き破ろうとしていた。
メガエラの剣先が扉を突き刺し、そのまま打ち砕こうとしていた。しかし、メガエラの剣は扉を破壊することはなかった。ものすごい反動がメガエラの手に伝わる。
「……んんんん……っ!」
メガエラは目尻に涙を浮かべ、痺れんばかりの痛みに悶絶した。
「だから待ってくださいと言いましたのに……」
イワンは小さくため息をつく。
「この扉は破壊するしかないですが、力ずくで行っても壊れませんよ。壊す方法は別にあります」
イワンは周りを見渡し、その方法を説明する。
「ここは本来アネモス族の祭祀場のようでしたが、デュラハンが来たことで様変わりしてしまったようですね。この部屋の東西南北にある円形の絵が見えますね?」
イワンは地面のサークルに指をさしながら皆に訊ねた。
「それは俺も最初に来たときに気になっていた。これはデュラハンが仕向けた仕掛けなのか?」
ガルシアは言う。
「恐らくはそうでしょうね。それからこの絵は、よく見なければ分かりづらいですが、扉に向かって線で繋がっています……」
イワンは自らの言う線に指をそわせた。樹木や炎、波や雲の絵が描かれたサークルから線が斜めに伸び、ばつ印の交点に集まり、そこから一筋の線が扉へと一点に集中していた。
「それから、円の中の絵を見てください。葉が茂る木に燃える炎、水面に立つ波、そして空に浮かぶ雲。これはエレメンタルを示しているのではないでしょうか?」
サークルに囲まれた絵はどれも、地、火、水、風のエレメンタルにゆかりのあるもののようだった。
「確かに、よく見たらそうですわね……」
メアリィや他の仲間達も絵の正体に得心が行ったようだった。
「しかし、この絵の正体が分かったとして、俺達は何をすれば……?」
絵の正体はエレメンタルと分かったが、実際に何をすればいいのかまでは分からなかった。
「ふむ、そうですね……」
イワンはサークルに描かれた絵にエナジーを送り込めば、何か起こるのではないかと考える。
『スピン!』
イワンは雲の絵のサークルに向かってエナジーを発動した。すると絵がサークルごとエナジーに反応し、うっすら風のエレメンタルの紫に光った。
『スピン!』
そのままイワンは、炎の絵のサークルに同じ事をする。しかし今度は一切の反応も示さない。
「ふむ、なるほど。やはりそうでしたか」
イワンは一人納得していた。
「イワン、一体何をした?」
ガルシアは訊ねる。
「特に変わったことはしていませんよ。ですが、これではっきりしました。この床の絵は、エレメンタルを示しています。風は空に浮かぶ雲、火は激しく燃え盛る炎といったように、です」
そしてこれこそが、行く手を阻む扉を破壊する手段に他なかった。
絵のエレメンタルのエナジーを放てば、何かの仕掛けが作動する。
加えて幸いなことに、この場にいるエナジストは皆異なったエレメンタルに属し、全ての属性のエナジーが使用できた。
「絵と同じエレメンタルか。確かに皆揃っているな。俺が地で、ジャスミンとジェラルドが火、メアリィとピカードが水でイワンが風か」
火と水、更には一応風が重複しているが、エナジーの得意な者が使用すればよいので、問題にはならなかった。火はジャスミン、水はメアリィがエナジーを使えばいい。
「試してみる価値はありそうだな」
「ええ、恐らく打開策となるでしょう」
「よし、そうと決まればすぐに実行しよう。皆力を貸してくれ」
断る者はいなかった。各エレメンタルに属する者達が、それぞれ床のサークルの絵の前へと歩み寄る。
雲の絵にはイワンが、火炎にはジャスミン、波にはメアリィ、そして樹木にはガルシアが位置に付いた。
先ほどイワンが起動させたサークルは今、既に光を失っていた。どうやらばらばらにエナジーを放っても、完全に仕掛けが解けないようだった。
「皆、仕掛けを解くにはタイミングを合わせる必要があるらしい。俺が掛け声をかける、皆はそれに合わせてくれ!」
イワン達が頷くのを確認すると、せーの、とガルシアは掛け声をあげる。
『スピン!』
『チルド!』
『フレア!』
『スパイア!』
イワンが小さな旋風を起こし、メアリィは小規模範囲を凍結させる。
ジャスミンはシンとの激しい修行でかなり腕をあげた炎を放ち、ガルシアは土の槍をサークルの樹木の絵に落とした。
床のサークルはエナジーに反応し、それぞれ紫、赤、青、黄の光を放った。すると床の線に各エレメンタルの光が流れ、中心で集中する。
中心にて集まり、虹色と化した光の束が、行く手を遮る扉へと通じる線を走った。
全てのエレメンタルを携えた光は扉を包み込み、いとも簡単に砕き散らした。
「これで先に進めますね」
「ああ、だがこの先に何が待ち構えるか分からない。くれぐれも慎重に……」
ガルシアが言いかけた所で、メガエラが先陣を切って扉の向こうへ駆けてしまった。
「メガエラ殿!」
「こんな所で足止めくらって、これ以上のんびりしてられないわ。イリスのところに急ぐ!」
メガエラは脇目も振らずに先に行く。
「ちっ、遅れてられねぇな!」
シンまでも突撃してしまった。
「待て、今は落ち着け、二人とも!」
「ガルシア、もう無理や。オレらもはよ行かな!」
今はアズールの言う通りであった。これ以上足並みを崩すわけには行かない。
「……仕方ない、皆、二人に続くぞ!」
先に行ってしまったシンとメガエラを追い、ガルシア達も破壊した扉の向こうへ走る。
その先では、シンとメガエラが異形の存在と対峙していた。
彼らが対峙していたのは、異常に伸びた爪、もしくは鳥の翼の骨のようになった腕を持ち、赤いガウンに身を包み、その顔は鳥が白骨化したような風貌をした魔物であった。
武器を手に臨戦態勢の二人とは対称的に、異形の者はまるで身構える様子もない。
「……よくぞわしの仕掛けた扉を砕いた……」
全身が白骨化しており、一体どこから声を出しているのか分からないが、しわがれた老人の声で異形の魔物は言った。
「お前、デュラハンの仲間か?」
シンが訊ねる。
作品名:黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25 作家名:綾田宗