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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25

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 そして風に振り乱されるわけでなく、まるで人がページを繰るように、魔導書のページはゆっくりとめくられていった。
 数ページめくられた後、魔導書はあるページに到達し、その動きを止めた。
 そのページは白紙のページであったが、一瞬にして文字が浮かび上がった。そして次の瞬間、見る者の目を疑わせる現象が起きた。
「な、何だあれは!?」
「竜巻が本に、吸い込まれていくだと……!?」
 シンとジェラルドは叫ぶ。
 竜巻が本に、というのはジェラルドが驚きのあまりに言い間違えたのではない。
 巻き込まれればひとたまりもないであろう竜巻が、逆に小さな魔導書に引き込まれていくのである。
 まるで竜巻が水のように、一瞬にして魔導書に全て飲み込まれてしまった。
 漆黒の竜巻を全て吸い込んだ後、魔導書は自らガルシアの手元に戻っていった。そして白紙だったページには、文字が書き付けられている。
「……冥府の業風、『カース・サイクロン』」
 ガルシアは黒魔術を使用する時のように本の呪文を唱えるが、何故か魔術は発動しない。
 カロンの言っていた呪文を真似て喋ったわけではなく、ガルシアには確かに、本に呪文が書かれているのが見えており、見えるままに読み上げたのである。
 不意に、カロンが笑い声を上げる。
「ひゃひゃ、第二関門突破じゃな。あの竜巻は自然に生じるものと違い、近くにあるものを無差別に巻き込むものではない。呪術に耐性のある者は吸い込まぬのじゃ。即ち主には十分足り得る能力があるということじゃ」
 じゃが、とカロンは言葉を返す。
「人間である主には、十分な能力があろうと、精々魔導書に浮かんだ呪文を見るのが関の山。タナトスという死神の力をもってしても発動はできんじゃろう……」
「……そこで必要になるのがカロン、お前ということだな?」
 ガルシアは皆まで言わせることなく、カロンの意図を理解した。
「ひゃひゃ、その通りじゃ、ガルシアよ。では最終関門じゃ。『サモンクロス』でわしと融合し、『カース・サイクロン』を唱えよ。使いこなすことができれば晴れて主はわしの力を自由に使えるようになろう。タナトスや他の魔物どものようにわしを使役できる。しかし、使いこなせなかったその時は……」
「分かっている、皆まで言うな」
 老いぼれの長話にうんざりしたようにガルシアは言い放つ。
「ひゃひゃひゃ……、そうかい、やはり年を取ると話が長くなって、自分でも嫌になるわい」
 カロンは自嘲すると、両手を広げた。
「では、後は主に全て任せるぞい……」
 カロンの姿が半透明となり、やがて見えなくなった。
「消えた……!?」
「あのガイコツジジイ、隠れて今度こそオレ達を仕留めるつもりなんじゃねえだろうな!?」
 散々カロンに惑わされてきた仲間達は、次は何をされるか予想もつかず、焦りを見せる。
 そんな中、ガルシアにだけはカロンの居場所が分かっており、全く慌てる様子はなかった。
 カロンの居場所、それは、魔術の素養のある者にしか見えない所である。それは普通の者には、全てが白にしか見えない場所である。
 ガルシアにしか中身を見ることのできない魔導書ネクロノミコンのページに、カロンは挿し絵となっていた。
 今やカロンは、タナトスと同じくガルシアの力の一部となっていた。これ以降は魔物を召喚するように、彼も呼び出すことができる。
「地獄の眷属召喚……」
 ガルシアはエナジーをネクロノミコンを媒体に魔力へと変え、黒魔術を発動する。
『サモン・カロン!』
 魔導書は一瞬光を放つと、本の挿し絵となっていたカロンを出現させた。
 鳥の翼の骨のような長い爪を持ち、同じく白骨化した鳥の頭のような顔をし、緋色のローブを纏った者が姿を見せた。見紛うことなくカロンである。
「ふむ、召喚は問題ないようじゃな」
 カロンは言った。
「ではここからじゃな。わしと融合し、例の呪文を唱えるのじゃ」
 ガルシアは不思議そうな顔でカロンを見つめている。
「どうしたのじゃ、妙な顔しよってからに」
「……いや、すまない。俺が召喚したものは総じて喋らないものだから、平然と話すお前を見て驚いたというか、なんというか……」
 鷹の魔獣であるイビルホークや豹のような悪魔のハウレスならばいざ知らず、
カロンと同じような強力な魔力を持つタナトスさえも、初めて現れた時にガルシアの心に語りかけただけだった。
 そのためガルシアは召喚する魔物は口を利かない、もしくは利けなくなるのかと思っていた。
「ひょひょひょ、タナトスは堅物なヤツじゃからな。いや、わしが特殊なだけかの? まあ、それはともかく、早く融合の術を使うのじゃ。新しき力、早く試してみたくはないか?」
 カロンは急かしてくる。
「……そうだな、今は下らんことを言っている場合ではないな」
 カロンの特異性は置いておき、ガルシアは融合の術を詠唱する。
「行くぞカロン! 魔との融合、『サモンクロス・カロン』!」
 ガルシアから光の波紋が広がり、カロンとの間に六芒星が煌めいた。次の瞬間、ガルシアにカロンの像が重なる。
 融合は成功し、ガルシアは融合したものに応じた特徴的な姿となっていた。
 召喚魔との融合を可能にする、魔術師の白いガウンは、カロンの緋色の衣と同じ色になり、背中にカロンの爪のような羽が生えている。
 融合の間、ガルシアの体内に吸収される魔導書ネクロノミコンは手元にあり、タナトスと同じように融合中でも魔術の使用は可能のようだった。
 融合を果たし、ガルシアは手元に残っている魔導書のページをめくってみた。
 タナトスとの融合と同じく、ネクロノミコンの内容は大きく変わっていた。
 黒魔術師の基本的な魔法のページはそのままに、召喚を行う呪文の書かれたページが、死神の力である呪文を表すものに変わっている。
 しかし、タナトスの力は、敵の動きを縛り付け、そのまま放り投げたり、物体を魔力で持ち上げ敵にぶつける、といった多種多様なものが揃っているが、カロンの力は例の魔法ただ一つである。
 使える魔法の種類こそ少ないが、カロンの力を介した黒魔術は、その威力を数段に上げていた。
 タナトスの広く浅い魔法の形態に反し、カロンは狭く深い、一点特化型の力であった。
 色々と試したいことはあったが、ガルシアはカロンに課された試練の最終段階として、カロンの魔術の発動を優先した。
「…………」
 ガルシアは精神統一をする。カロンの力は非常に大きく、特にも彼の魔法を使用するのは気安くできるものではなかった。
 ガルシアがエナジーを集中させ、魔力を増幅すると、ガルシアから真っ黒なオーラが立ち始めた。
 魔力が最も充実したその瞬間、ガルシアはカロンの力を解き放った。
「冥府の業風、『カース・サイクロン』!」
 ガルシアが詠唱した瞬間、ネクロノミコンは一際強い輝きを放った。
 そしてガルシアの目の前の空間に風が吹き始め、どんどん強くなっていく。
 風は旋風となり、次第に竜巻へと姿を変えていった。
 そこへガルシアは呪詛を打ち込んだ。すると先にカロンがやったように、竜巻は漆黒の、巻き込まれれば瞬時に魂を吸い取られるものに変じた。