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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25

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「報告を受け、私はすぐさま謎の剣士の出没する所へ向かった。そこは天界でも有数の湖の畔であった。そしてそこは、マリアンヌ殿が暮らす家のある場所だった」
 ユピターが向かうと、そこには件の剣士と思われる者が立っていた。
 顔は完全に鉄仮面に隠されて分からなかったが、間違いなかった。その立ち振舞い、日々剣を交えていたユピターにはすぐに分かった。
 戦いを挑む者のみに剣を振るい、魔物を見れば容赦なく斬る。そして何より、マリアンヌの家の周辺を守るように立っていたこと。
 鉄仮面の剣士は、ヒースであるとユピターには分かった。
「あやつは私を見るやいなや、勝負を挑んできた。改めて確認するまでもなかった。あの時振るわれた剣は、間違いなくヒースのものだった」
 ユピターは応戦するも、もとより剣の腕ではヒースに劣り、その上これまで互いに腕を磨きあっていた相棒の変化に戸惑い、ユピターは呆気なく敗北してしまった。
 とどめを刺されようとしたその時、振り上げられたヒースの剣はその瞬間に折れてしまった。
 これまでに敵味方の区別なく戦い続けてきたヒースの剣は、血に濡れて錆び付き、いくつもの刃こぼれを起こしていた。
 幸か不幸か、ユピターはそれにより一命を取り止めることとなった。しかし命を取られない代わりに、ヒースはユピターに妙な術を使った。
 生ける者の魂を剣に変えるという魔術であった。一方的な勝負の末に敗れたユピターには術から逃れる力は残されておらず、ユピターはされるがまま、剣へと変えられた。
 以降文字どおりヒースの剣となり、数多の魔物、神々を斬る事となってしまった。
 やがて天界で起きた大戦は、イリスが辛くもデュラハンに勝利する事で終結し、ヒースはユピター共々封印され、十六年の月日が流れた。
「……あの時私に、ヒースを倒せるだけの力があれば、あやつの狂ったまでの復讐心を鎮める事ができたのだろうか。それを思うと悔しくてしかたがない……」
 ユピターはその目に悔し涙を浮かべていた。
「ユピター、そんなに自分を責めることはない。ヒースは最期、マリアンヌの生まれ変わりと出会って満足して消えていった。そしてオレ達に道を拓いてくれた。気持ちは分かるけどヒースへの手向けになるのは、全ての元凶のデュラハンを倒すことだ。違うか?」
「シン殿……」
「デュラハンの力は計り知れない。なんせあのヒースでさえも手出しできなかった上、イリスを消滅の危機にまで追い込んだやつだ。力は多いに越したことはない。ユピター、オレ達に力を貸してくれないか?」
 シンの誘いに、ユピターは驚く。
「私を仲間に迎えるというのか? 自分で言うのもなんだが、私ごときの力、大した役に立てるとは思えん。ヒースに手も足もでなかった身だ。私が一緒にいたところで足手まといにしか……」
 ユピターにはまるで自信がなかった。聖騎士団の団長を務めた経験こそあったが、ヒースに敵うことは決してなく、彼はいつも二番手の存在であった。
 そしてついに超えられなかったヒースは、デュラハンには手出しできず、そしてシンに敗れている。
 弱者の頭数が増えたところで、なんの役にも立てないだろう、ユピターはそう思っていた。
「ユピター」
 自信のないユピターに、シンは呼び掛ける。
「やつは、ヒースは一人の力で戦い続けてきた。正直言ってすごいやつさ。けれど、それじゃあ限界がある。確かに自分より弱いやつが相手なら勝ち続けることはできるさ。だけど、デュラハンみたいな圧倒的に力の差がある相手じゃ、一人で戦うのは無理なんだ」
 シンはヒースとの戦いで、一人の力の限界を痛感していた。今回の戦いも、ヒナが前もってヒースを消耗させていなければ勝てるか分からなかった。
 傷を自然に治癒できた所で、体力はあまり回復せず、精神面にいたってはすぐに回復するはずがない。
 シンが勝利することができたのは、紛れもなくヒナの力添えがあったからこそ成し得たのだ。
「聖騎士団の団長をやっていたお前なら分かるだろう? 仲間の大切さが。ヒースがユピターの足りない力を補っていたように、ユピターだってヒースに足りないものを持ち合わせていたんだ」
「シン殿」
「ユピターの力はきっとオレ達の助けになるはずだ。だからその力、オレ達に貸してくれ。お前はカタストロフを継いだ者なんだろう?」
 シンは微笑み、ユピターに手を差し伸べる。
「ユピター、この子の言う通りよ。それに、あたしの眼には見えるわ。ヒースのように、まっすぐな剣を扱える能力がね」
 ヒナは自身の力通眼に映る、ユピターの力を読み取った。その眼に映りしものは、己が信念にとらわれる事のない正義の心であった。
「ヒナ殿……」
 ユピターは少し考える素振りを見せると、何かを決意したように頷いた。
「お二人の気持ち、とても痛み入った。私の力もお役に立てると言うのなら、喜んで貸そう、いや貸させていただきたい」
 ユピターはソルブレードを見る。
「……それこそが我が友、ヒースへの最大の手向けとなろう」
 ソルブレードは輝きを放っている。まるでヒースがそこに立っているかのように思えた。ソルブレードを見てユピターの脳裏に映るのは、微笑むヒースの顔だった。
「決まりだな。ヒースの為にも、そして世界の皆のため、絶対にデュラハンを倒そうぜ!」
 シン、ヒナ、ユピターの三名は頷き合い、決意を固めるのだった。
 それから程なくして、メアリィは目を覚ました。
    ※※※
 シン達がユピターを仲間に迎えてまもなく、ハイディアの地へ戻っていたロビン達も、瘴気が消えたアテカ大陸へとやって来た。
 ヒースとメアリィの活躍により、瘴気が消えたのはギアナの地だけではなかった。
 世界中、どこの様子も見て取れるハモのエナジーにより、世界を覆っていた瘴気は間違いなく全て消えていた。
 そして二人の活躍によって、瘴気の根源が破壊された様子を見ていたハモの指示のもと、ロビン達全員が、ソルブレードの突き立てられたこの場所へ来たのだった。
 ロビン、ガルシアをリーダーとするチームも見慣れない顔の者を連れていた。
 ロビンのチームにいたのは、半分人外の姿をした、独特の話し方をするアズールという半竜で、ガルシアの方にいたのは、見た目は普通の少女だが、目付き鋭く、強い炎の力を宿したメガエラという女神であった。
 アズール、メガエラ、ユピターの三名は全て天界の存在であり共に面識があるようだった。
「いやー、まさかまた二人に会えると思ってへんかったで。無事やったんやな、メガエラさん、カタストロフ団長!」
 腕や足首、人間でいう耳に当たる部分に青い鰭のあるアズールは、独特な言葉遣いで明るく、二人との再会を懐かしんだ。
「アズール殿、カタストロフは止めていただけないだろうか? 私にその名を名乗る資格は……」
「ふん、アズール。いくらあなたがあたし達と並ぶ高等神子でも、神じゃないんだからあまり馴れ馴れしくしないでちょうだい」
 ユピターからは謙遜の言葉を、メガエラからはきつい言葉を投げられ、アズールは苦笑いした。
「はは、やれやれ、二人とも相変わらずかったいなぁ。もっと気楽に行こうや。イリス様を助ける前に疲れてまうで?」