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黄金の太陽THE LEGEND OF SOL 25

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 ガルシアは、死後硬直の始まったロビンの遺体を横抱きにして立ち上がった。
「さあ、立って、ジャスミン。辛いのはみんな一緒よ……」
 ロビンの急死を目の当たりにして、ずっと泣き崩れていたジャスミンを、ヒナが支えて立たせた。
「……うっ、くっ……、ひっく……!」
 ジャスミンはヒナに支えられながらも、咽び泣き続けた。
「そういえば……」
 一行が船に向かわんとしていた所、ガルシアはふと思い出した。
「ソルブレードはどうする? 持ち主のロビンは殺されてしまったが、捨て置くわけにもいくまい」
 ソルブレードはロビンの手を離れてもなお、白金の輝きを放ち続けている。
 ソルブレードは太陽神が生み出した聖剣の中の聖剣であり、並大抵の者では触れることさえもできない。人間の身でソルブレードに触れられるのはロビンだけであった。
「剣の事なら私に任せなさい」
 メガエラが名乗り出た。
 天界の女神で、剣術に長けた彼女ならば、使いこなすことはできなくても持つことはできるはずだった。
 メガエラはソルブレードの前に行き、しゃがむと、柄を握った。
「ん?」
 メガエラは引き上げようとするが、ソルブレードはまるで地に張り付いているかのように動かない。
「んくっ! ううんっ……!」
 メガエラは両手で柄を握り、全力を込めて引くが、ソルブレードは僅かに地を擦るだけであった。
「……はあ、はあ……、くっ、ちょっと何これ? 重くてとても持てないわ」
 メガエラはソルブレードに文句を言った。
 メガエラは天界の女神であるため、ソルブレードに弾かれることこそなかったが、それは鋼鉄の塊の如く重量感を持っており、メガエラの細腕では持ち上がらなかった。
 メガエラは双剣を得意としているが、その剣は刀身に穴を作ることで、大幅な軽量化を行っていた。
 更に剣にはメガエラの魔力が込められており、直接触れることなく浮遊させる事もでき、腕力のほとんどいらない特別なものだった。メガエラ自身、普通の剣に触れること自体かなり久しい事だった。
「メガエラさん、別にバカにするわけやないけど、メガエラさんの細腕じゃ無理やで」
 アズールは当たり障りない言葉で言うが、負けず嫌いなメガエラはやはり反発してくる。
「なによ、私が力なしだとでも言いたいの!?」
「いや、だからそう言うんやなくて……」
「だったらアンタが持ってみなさい! どうせソルブレードに弾かれるでしょうけどね!」
「いよっと!」
 アズールはソルブレードを担ぎ上げるようにして持ち上げた。メガエラはそれを見て唖然とする。
「どうして、なんでアズールなんかが……!?」
「おとと……、メガエラさん、オレかて神子や。それもありがたいことに高位のな。せやから持てるんやろうけ、ど、と!」
 アズールは持ちきれず、ソルブレードの先を地面に落とした。
「はあぁ、重いわぁ……。この姿じゃ力が入らんわ……」
 今のアズールの姿は仮のものであり、水竜の姿の時に比べると、若干力不足であった。
「まあ、モチはモチ屋ってやつや。ここは専門のひとに任せよか」
 アズールはユピターを見る。
「アズール殿、何を見て……、まさか私が!?」
 せや、とアズールは当然のように頷く。
「無理だ! ソルブレードのような神聖なる剣、私ごときが触れることも許されない!」
 ユピターは断固として否定した。
 ユピターも聖騎士団団長をしていたほどの男なので、高位神子に属するが、ユピターは、剣の腕はヒースに劣っていたため、例え触れる事ができても、持つことは許されないと思ってしまったのだった。
「ユピターさん、今はヘタなプライドは捨てとき。神様の剣かて、今は仲間の形見や。そう思わんか?」
「仲間の形見……」
 ヒースもロビンも、デュラハンを倒しうる剣、ソルブレードを持って死んでしまった。確かにソルブレードは、彼らの形見の剣と呼べる代物である。
 それにソルブレードは、天界の高位の女神、ソルが生み出した剣である。そのような高貴なる女神の剣を野ざらしにしておく方が、よっぽど不敬に値する。そうユピターは考えた。
「分かり申した。僭越ながらその剣、このユピターがしかとお預かりする」
「ほんなら頼むで、ユピターさん。ちいと重いから気いつけてな」
 ユピターは差し出されたソルブレードの柄を握った。
「ええな? 放すで」
「おっと!?」
 ユピターは結構な重量感が来るのを覚悟していたが、その重量は思っていたほどではなかった。
 ロビンやヒースのように片手で、というわけにはいかないが、両手で持てば十分振れそうなほどの重さだった。
「なんだ、意外に軽いではないか」
 ユピターは中段に構えてみた。
「嘘でしょ……、どうして……!?」
「うーん、やっぱりカタストロフ団長のあだ名は伊達やないって事やな」
 女神でありながら、まともに持ち上げる事もできなかったメガエラは驚き、アズールは思った通りといった様子だった。
「だからその名は……、いや、もういい……」
 アズールに言っても無駄なこと、今は些細な言い争いをしている場合ではないと考え、ユピターはそれ以上は言わない。
「さて、ソルブレードはよしとして、はよロビンを楽な所に連れてかんとな。ガルシア、案内してくれるか?」
「ああ、行こうか……」
 ロビンの遺体と、ヒースとロビン二人の形見の品となったソルブレードを伴い、一行は船を目指した。
    ※※※
 ガルシアら一行は、アテカ大陸の西の入り江に停泊していたレムリアの船にたどり着いた。
 海上にあったおかげか、船首が少し瘴気の影響で腐敗していたが、船体に異常は見られなかった。
 ピカードの船の時のように、魔物の住み処にされるといった事態も生じていなかった。
 ガルシア達は船に乗り込むと、ロビンの遺体を船室のベッドの上に安置し、小さな葬儀を催した。
 供えられるような花はないかと、ガルシア達はここへ来るまでに足元に注意しながらやって来たが、瘴気によって全て枯れ果てていた。
 何の手向けもなく、送り出されてしまうのは哀れと思い、ガルシア達はロビンに、彼が最期に持っていた剣、ソルブレードを手向けとした。
 葬儀を開始した途端に、ロビンの死という事実をはっきりと突き付けられ、ガルシア達は深い悲しみに沈んだ。
 特にも、ハイディアで十数年共に過ごしてきたガルシア達の悲しみは大きかった。もう二度と帰らない友の死を前に、彼らは涙を流さずにいられなかった。
「デュラハンめ、ちきしょう……!」
 ジェラルドは悲しみと悔しさ、そして親友を殺したデュラハンへの憎しみに咽び泣いた。
「天におわします神よ、あなた様の元へ行く御霊に、我ら願わくば幸あらんことを……」
 この小さな葬儀を取り仕切っていたのはメアリィであった。
 メアリィは故郷、イミル村にて神官の役割を果たしていた。
「神よ、あなたの御子に安らかなる眠りを……、アーメン……」
 メアリィは十字を切り、祈りを捧げる。葬儀に参列する一同も手を組んで復唱した。
「アーメン……」
 しばしの黙祷の後、形だけの小さな葬儀は終わりを告げた。